001~010
001.
双子の兄弟と七つ年の離れた妹は幽霊が映っているという映画のDVDを見ていた。髪の長い女が映り込んだ瞬間、妹が嬉しげに叫び、双子弟が驚いてどつく。双子兄だけが見落とした。弟妹のダメ出しに兄は頬を掻く「ヒロインの背中にしがみついてる血塗れの男が気になっちゃってさあ」
002.
双子は夜道を歩いていた。背後の車のヘッドライトが影を長く伸ばす。弟の影がダンシングフラワーのようにぐねぐねしていた。車が走り去り、影が消える。弟は蒼白になって兄を見る。「車に乗ってったよ」
003.
妹の携帯が振動した。鞄から出そうとした拍子にストラップがひっかかり、携帯はぽんっと路上へ飛び出した。慌てて妹が手を伸ばすと、道に落ちる寸前に自販機の隙間から伸びた手が携帯をキャッチした。固まる妹。横から兄が手を出して毛むくじゃらの手から受け取った。
004.
エレベーターのドアが開く。先に兄が乗った。身体を斜めにし、合間から手を伸ばすようにして「開」のボタンを押して弟妹を待つ。「どうした?」「もしかして混んでる?」「ああ。でもお前ら関係ないだろ」「階段で行く」
005.
街灯の丸い光の中に、半分だけゴミ捨て場が照らし出されていた。一瞬兄の足が止まる。弟妹がいぶかしむ間もなく、二人を押しやって道路の反対側を歩きはじめる。一匹の野良猫が光の輪の中に歩み出た。青いゴミバケツから飛び出た赤い舌が一瞬で野良猫を飲み込んだ
006.
「鶺鴒、正直に言えよ―今、誰かが携帯電話閉じたよな?」「ああ、隼にも聞こえたんだ」さらりと言った兄に勇気を振り絞った弟は音を立てて青褪めた。妹も、気のせいじゃなかったんだ、と呟く。「たまにしか聞こえないのはなんで?」「父さんに憑いてるからな」「…帰ってくんな」
007.
鶺鴒は懸賞ハガキを手に、じいっと目の前の郵便ポストを見つめた。ポストは、小屋を真っ二つにして中にベンチを置いたような古びたバス停の隣にある。昨日まではなかった。なおも鶺鴒が見つめ続けるうち、ポストは手足と尻尾を出して逃げていった。
008.
雲が夕焼けに染められて、とても綺麗な空の下。双子が並んで歩いていると、背後からチリンチリンとベルを鳴らされた。隼は舌打ちしつつ振り返り、眉をひそめる。のんびり鶺鴒は空を見上げ、けたたましくベルを鳴らしながら電線の上を走っていくのを見送った。
009.
4時44分に科学準備室に入ると出刃包丁を持ったフランス人形に殺されるのだという。6時6分6秒説もある。隼は怖くないと言いながら鶺鴒と共にノートを取りに戻った。無事に廊下に出る。安堵する隼をよそに、後から出た鶺鴒は裂かれたブレザーをどうしようかと悩んでいた。
010.
薔薇は夜中、雨の音で目が覚めた。ごうごうとかなり大きな雨音だ。起き上がって窓から外を眺める。夜のガラス窓は鏡のように薔薇の顔を映し出す。少し寝ぼけてぼんやりしているした顔の真上に、笑っているかのように金の眼を細めた白い狐の面が浮いていた。