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ゴミ箱

未定(新連載草稿)

作者: あきら

普段と変わりのない光景だった。

いつもと同じ電車の同じ車両に乗り込む。優先席に座り携帯電話を弄るサラリーマン、化粧をしている女子高生。この国のモラルはどうしたのだろうかと思う。年寄りや妊婦が立っていても席を譲る気配はない。目の前の女子高生の髪を掴み席から無理やり立たせようかという衝動にかられる。しかし、そんな度胸があるはずもなく、傍観するだけなのだ。

何も見ない、何も聞かないようにして乗換の駅が来るのを待つ。生きているのか、死んでいるのか。地獄というものがあるなら、今の世の中が地獄ではないか。そんなことを考えているうちに電車のアナウンスが乗り換える駅名を告げる。毎日の習慣からか、ぼーっとしていても、気付くものだ。

電車を降り、駅のホームに出ると、いつもより人が多い。見渡してみると、並んでいる列の先頭に可愛い女の子がいた。小学1年生だろうか。平日の朝に珍しい姿を見て、今日は何日だったか思いだそうとする。毎日の雑務に追われ、曜日の感覚すらなくなっていて、今が何月なのかすぐに思い出せない。携帯のカレンダーを見れば良いと思って、ポケットに手を入れた時だった。馬鹿でかい笑い声がホームに響く。数人の男子高校生が騒いでいた。笑いながら肩を押したりしている。心の中で、静かにできないのかと悪態をついていると、押された一人の男子高校生がさっきの女の子の背中に当たった。女の子の姿はホームの下に吸い込まれていく。駅のアナウンスは間もなく電車が到着することを告げている。

身体が自然と動いていた。線路に向かって跳んだ。いつも、考えるだけ考えて行動出来なかったのが嘘のようだ。線路は思ったより深く着地する時に足をくじいた。バランスを崩したが、痛みは感じる暇はなかった。女の子の姿を探す。線路の脇の広くなった所にいた。どうやら、電車が来ても大丈夫そうだ。自分も逃げよう。しかし、足が動かない。電車のブレーキ音。死んだ。迫りくる電車に覚悟した。完全に無駄死にだった。でも、今まで生きた中で一番心が充実している。目の前が闇に包まれた。最期の瞬間。僕は笑っていただろうか。


「田中。田中和也。」

自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。

「あと、5分。」

枕元にあるはずの目覚まし時計に手を伸ばす。おかしい。目覚まし時計は名前を呼んだりしない。勢いよく起き上がる。

「やっと、起きたか。」

図太い声の正体が目の前に居た。黒い身体。獣の角。尖った尻尾。如何にも悪魔と言った風貌だ。どうせ夢なら、巨乳のエロい悪魔が現れてくれればいいのに。仕事中に眠くならないようにギリギリまで熟睡したいのに、変な夢を見てしまった。ため息をつきながら、寝なおす。

「まったく、どういう神経をしているだ、この人間は。今から魔界に連れて行かれるというのに。」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私も時々電車に乗るのですが同じようなこと思います。 [一言] 結末が意外でした。
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