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午前0時の決闘

作者: 月見草
掲載日:2012/03/29

やわらかな月光の下、私はいつもの席に座った。冬も終わり、少しずつ暖かくなってきた春の息吹がほほをなでる。

彼女の座る席には、白いテーブルクロスがひかれた丸いテーブル。中央には鮮やかに赤く染まったバラが飾られていた。

「咲夜、紅茶」

「かしこまりました」

どこからともなく、彼女は現れた。と同時に、焼きあがったばかりのクッキーが盛られたバスケットが置かれていた。

いつもながら、その手際の良さには感心する。流れるような手つきで、アップルティが淹れられていく。

「外で飲むにはちょうどいい季節になったわね」

香りを味わい、一口飲む。いつもながらいい出来だ。

「そうですね、お嬢様」

目を落とせば、庭の白バラがその身を照らされ青白く光っていた。霊を連想させる儚げな姿は、桜吹雪を見たような少しの寂しさを思わせる。

なかなかいいものを見せてもらった。時がゆったりと流れていく。

「ねえ、お姉さま?」

不意に、屋敷の中から呼ばれた。振り向くことなく手招きをすると、平然と歩みよってくる。

「何しているの?」

「紅茶飲んでるの」

「ふーん…」

つまらなそうに相槌を打つと、クッキーを一つほお張った。こうしていると可愛いが、私は妹との団欒(だんらん)を味わう気にはなれなかった。

嫌な予感がしていた。実の妹フランドール・スカーレット、通称フランは見た目に反した桁違いの力を持っている。

吸血鬼の血を引き、魔力、身体能力ともに秀でている。能力も恐ろしく、実の姉でも勝てるかどうか疑わしい。

そのフランがつまらなそうにしていると、口にする言葉は決まっている。

「ねえお姉さま、弾幕ごっこやりましょ?」

こうなるのだった。もはや運命など見なくてもわかる結末。

「…フラン、貴族であり淑女となるあなたが、そんな野蛮な遊びするものじゃないわよ」

「いいよ、レディになんかなれなくても」

ハァ、と心の内でため息をつく。無論、こうやって諭しても無駄だとわかっていた。

たまにとはいえ姉の私が弾幕ごっこをやっており、誰もが普通にスペルカードを持つ幻想郷で、弾幕ごっこをやるなというのは説得力に欠ける。

「美鈴に相手してもらったら?」

「ダメ。美鈴じゃ簡単に勝っちゃうもの」

「弾幕ごっこじゃなきゃダメ?パチェに本読んでもらうとかは?」

「今はそんな気分じゃないの。ね、やりましょ?」

とはいえ、私は乗り気ではなかった。美しいものを見て気分が安らいでいたのもあるが、彼女の相手を拒むのはそれだけではない。

フランは遊びでも手を抜かないからキツイのだ。ほんの遊びなら、スペルは2,3枚で十分だろう。だが彼女はそれでは満足しない。

一度勝負を受ければ、彼女は喜んで次々と弾幕を撃ってくる。7枚のスペルを全力で放つのだ。当然、手加減は無い。

それに通常弾も手厳しいのだ。どちらが勝つにしても、小1時間はかかることが必至である。

だが、このまま無下に断るのも良くない。退屈を爆発させたフランは大変だ。館のあらゆるものを破壊するだろう。それは流石に気分が悪い。

「うーん、トランプとかはどうかしら?」

「座ってやる遊びは嫌。体動かしたいの」

代案を出してみたが、あっさり断られた。どうやらトランプでは、彼女の退屈しのぎにもならないらしい。

「それじゃあ…」

天を見上げ、思考にふける。ただ単に体を動かすだけでは、彼女は満足しない。多少なりスリルがなければ、この退屈さを紛らわすことはできないだろう。

「そうだ。フラン、西部の決闘を知っているかしら?」

「なあに?それ?」

「昔、アメリカの西部で行われていたらしい決闘法よ」

「へえ~、カッコよさそう!教えて?」

予想通りだ。食いついてきた。前に宴会で風祝の巫女から聞いて、パチェに調べてもらった決闘の話。好戦的なフランにはいい話題だった。

「簡単に言うと早撃ちよ。1対1で向き合って、合図とともに銃を抜き撃つの」

「それなんだか面白そう!ねえ、それやりましょう!」

今までと打って変わって、笑みを浮かべる。そういえば昔、フランは大航海時代の海賊の話に夢中になっていた。

ずいぶんと男の子っぽい志向だと思ったが、そういう話のほうが彼女はとっつきやすいのだろう。

あの後、本気で海賊のような帽子と拳銃を欲しがったのをなんとか(なだ)めすかしたのはいい思い出だ。

「いいわよ。でも危ないから一回だけ。わかった?」

「うん!でも合図はどうしよう?」

「あれでいいんじゃない?」

指さした先には、紅魔館のシンボルの一つである時計塔が黙々と時を刻んでいた。

咲夜以外に時計を持たない紅魔館の住人にとって、この時計塔が鳴らす鐘の音が唯一の時刻を知る方法だった。

「今、11時50分ってとこかしら?あの時計塔の鐘が鳴った時が合図よ。鐘の音が鳴ったら弾を撃つ。それで動けなくなったほうの負けよ」

「わかった」

「じゃあ、外に出ましょうか」

立ち上がり、庭へと歩き出す。手入れされた芝生は裸足で歩きたいほど気持ち良さそうだったが、貴族としてそれは止めておいた。

フランのほうはずいぶんとご機嫌だ。久々に私と遊ぶのが楽しみなのだろう。それは姉として嬉しいのだが、できるならもう少し平和的な遊びにしてほしい。

「さて、距離はこのくらいでいいかしら?」

「そうだね。こんなもんかな?」

私とフランの間は約5メートル。私の足で6歩と少しといったとこだろうか。

こんなに近づいて弾幕を打つことは普通無い。フランにしてみれば初めてのことだろう。フランと弾幕ごっこを滅多にしない私にすれば未知の領域だ。

「じゃあ…準備はいいかしら?」

「うん。いつでもいいよ」

途端に、フランの目つきが変わった。本気の目だ。足を軽く開き、瞬時に動けるよう軽くヒザを曲げると、右手を太ももに()わせていく。

まるで本当に、そこにガンベルトに仕舞われた拳銃があるかのように、フランは身構えた。誰かに教わったわけでもないのに、飲み込みが早い。

私もゆっくりと身構える。辺りはただ、静けさだけがある。私とフランの二人きり。世界が私たち二人きりに狭められていく。

二人の勝負に遠慮はいらない。距離が近いとはいえ、どこに当たろうと死んだりしない。たとえ顔を打ち抜かれようと、数秒後には元通りになっている。

月が雲に隠され、うっすらと庭が暗くなる。暗くなった闇夜に、フランの紅い眼が浮かぶ。

我が妹ながら、大したプレッシャーを与えてくれる。髪も翼も似ていないが、唯一似ている紅い瞳が私を射抜く。

私と同じ眼。私はフランにはどう見られているのだろう?フランもまた、私の眼に少しの緊張を抱いているのだろうか?

彼女にはもう、どこを狙うか決め込んでいるのだろう。視線が動かない。迷いなく私を見透かしている。

無意識に指先が動く。(うず)くように動く指。ただその時をじっと待つ。腹は決まった。どこに撃つかも全て。

雲が晴れ、月が本来の輝きを取り戻す。静かなはずなのに鼓動と呼吸がいやに大きい。時間はもう、迫っている。



ボーン…!

「!!」

時計塔が、静かに役目を果たした。屋敷中に響き渡る、低く落ち着いた鐘の音色。二人は即座に相手を指差した。

一瞬、フランが速かった。レミリアを指した右手の人差し指と中指の間が輝き、弾が発射された。吸血鬼といえど、目に映るのがやっとの速さだ。

耳を突き刺すような銃声も、鼻を突く硝煙の香りもないが、一直線に向かう弾は恐怖をもたらすのに十分だった。

(予想通りだ…やはりフランが速い!だけど、読めている!運命など使わなくても!)

弾を撃とうと、レミリアもフランを指差す。と同時に、顔を右に傾けた。

その横、左目のそばをピンポン球くらいの弾がかすめていった。紫の髪が飛び散り、ナイトキャップがほつれた。

予想は当たった。フランは一撃で相手を倒そうとする。一撃しか撃ってはいけないと決めたわけではないが、性格上そうすると予想出来ていた。

相手には全力で向かう、勝負にこだわる子供っぽい性格。私自身、そういう部分があるからよく分かる。

だからフランが狙うのは頭か心臓と予想した。それも頭の可能性がはるかに大きいと考えた。

彼女の場合、無意識にでも完璧な勝利を目指すだろう。私より速く構え、私が撃つより速く頭を打ち抜く。そうすると予想した。

となると、彼女の利き腕は右手だ。0コンマ1秒以下を争う勝負では、小細工抜きに真っ直ぐ狙うのが常だろう。

ならばフランの弾は私の顔の左半分に当たる可能性が大きい、そう考えた。フランが狙いを外してしまえばそれまでだが、私はその可能性に賭けた。

私も指先に力を込める。人差指の先端に小さめの弾が作られると、全力を込めて発射した。狙うは彼女の心臓!それが私の策だった。

顔では私のように避けられるかもしれない。だが心臓ならばそう簡単に避けられないだろう。この至近距離で飛んできた弾を飛んで避けるには無理がある。

心臓に一撃、流石のフランもこれで動けまい。私色に赤く染まった弾丸がフランの胸へと飛んでいく。

(…!?)

その瞬間、目を疑った。フランの左手も私を指差している!

彼女は鐘が鳴った瞬間、両手とも構えたのだった。利き手の右が若干速く私を狙った。右はもう撃てないが、今この瞬間左手が私に照準を合わせている。

愚策だった。利き腕でのみ撃っていいとなぜ決めなかったのか!私の左手はだらんと下がって、スカートにただ寄り添っている。とても間に合わない。

しかも、フランの左の二の腕が盾となっている。弾の軌道をフランの二の腕が塞ごうとしていく!



「ぐふっ!」

「うぐぁ!」

どさり、とヒザから崩れ落ちた。直撃だった。

血が流れたわけでもない、死ぬわけでもないが、スリルを味わうには十分だった。

「…っ、ふう…」

弾は私の右脇腹に着弾した。息が苦しい。だがなんとか立ってみせた。

全ては最後の一瞬の判断だった。フランはあの時、私の弾を防ごうとして、照準が下にずれた。右の顔面を狙った弾は、大きく下に外れ脇腹を射抜いた。

私の弾は見事、フランの心臓に命中した。正直に言おう、これは運命を操ったわけでもなんでもない。奇跡だ。

弾は腕に阻まれることなく、心臓に吸い込まれるように届いた。弾を操ったわけではない。早撃ちで誘導弾など使えるわけがない。

「…っふふふ、負けちゃった」

苦笑いを浮かべつつ、フランが立ち上がった。だが清々しい笑顔を見せていた。彼女なりに満足したのだろう。だいぶ落ち着いている。

「咲夜」

「ここに」

「フランに新しい服を。あられもない姿だわ」

心臓を撃たれたフランの服は、左胸が破け薄桃色のキャミソールが見える。

「かしこまりました。妹様、こちらに」

「うん。あ、お姉さまは?」

「あとで着替えるわ。ちょっとここにいたいの」

「わかった」

咲夜に手をひかれ、フランが屋敷へ戻っていく。二人がいなくなったのを見届けると、人目もはばからず芝生の上に寝転んだ。

「…姉の威厳を保つのも大変だわ」

誰に言うでもなくつぶやくと、熱くなっていた体を夜風で冷ました。



どうも、月見草です。

なんか久しぶりに戦闘描写が書きたくなりました。でも弾幕の描写は無理なんで、何かないかと考えて荒野の決闘を思いつきました。

吸血鬼の遊びは相当危険が伴いそうですね。姉妹で決闘…遊びとしてやりそうで怖い。これは美鈴じゃ無理でしょうね。

咲夜さんなら…いや、咲夜さんは反則か。


フランの遊び相手は生半可な力じゃ成立しないでしょう。スペル7枚はレミリアでも嫌がるだろうと考えここにたどり着きました。

レミリアも大変でしょうね。姉の威厳を保つのは。大半の人はナメられますよ。


それでは、読了ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでてはらはらしました。描写も的確で私好みだったので、一気にすらっと読めました。 いやあ、面白かったです。次作も楽しみにしてます。
[一言] 西部劇風のバトルなんて面白いですね。 そんな自由な発想に自分は感服致しました。 次回作も楽しみに待ってます!
[一言] 相も変わらず羨ましいくらいの発想力ですね(褒め言葉)、これだから月見草さんの小説はやめられない(笑) いい感じに影響受けられました、次の作品も首を長くして待ってますw
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