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夢か現実か

作者: 楓華

私は学校の屋上にあるフェンスから身を乗り出した。

“こんなダメな自分は生きている価値なんてない”そんな思いがそうさせたのだ。

家では、頭が良くなんでも器用にこなす幼馴染の美弥と比べられ、学校では毎日のようにいじめられている。“私”を認めてくれる人は誰もいない。私の居場所はドコにもないんだ。こんな辛くて苦しい人生なんて、生きている意味が無い。

「さようなら。」

横から吹いてくる風が頬に突き刺さる。下を見ると少し頭がくらくらした。

「私沙羅と組むの嫌ぁ。誰かこいつと組んであげてよ。」

「えぇ。私だって組みたくないよ。こいつ気持ち悪いもん。」

「じゃぁ、私と一緒に組もう?先生!沙羅ちゃん気持ち悪いから見学するそうでぇす!」“あぁ。またか。”

こんな毎日が辛くて、苦しい。私は、もう生きることを諦めた。授業が終わると、私は学校の屋上へと急いだ。

“これで楽になれるんだ。私がいなくなれば、皆だって後悔するはず。”

もう誰からも邪魔者扱いもされない、ばい菌とも言われない。辛かった。高校に入ってから2年。毎日が地獄のようだった。でも、今日でリセットできる。これでおしまいに出来る。落ちる瞬間私の体がふわっと浮いた感じがした。

「沙羅!!」

遠くで誰かが叫んでいる。その声は私に向かっているのだろうか。でもそんなことはもうどうでも良かったのだ。私は地面めがけて落ちて行く。落ちて行く瞬間はとても心地よかった。

落ちるのは一瞬だと思っていたのに、とても長い時間落ちていたような気がした。その間ずっと走馬灯のようなものが頭を駆け巡っていた。

「沙羅!あんたまたこんな点数とって。美弥ちゃんはもっと頑張ってたのに…。」

「沙羅?あんたちゃんと宿題やったの?少しは美弥ちゃんを見習いなさい!」

学校にも家にも私の居場所は無かった。でも、これで美弥と比べられなくてすむ。私が死んだら、お母さんやお父さんも後悔するよね。これで私の存在を認めてくれるよね。


「ピピッ!ピピッ!」部屋に置いてあるはずの目覚ましがなった。

目が覚めた私は自分の部屋のベットにいた。いつもと何も変わらない自分の部屋だった。

「今のは…夢なの?」

「沙羅!何してるの?学校に遅れるわよ!」

お母さんにせかされ、狐につままれたような不思議な感覚のまま、私は学校へ向かった。

学校に着くと、ある異変に気がついた。いつもはゴミでいっぱいになっている下駄箱や上靴が綺麗なままであった。教室へ行ってみると、また不思議なことが起こっていた。

「あっ!沙羅ちゃんおはよう♪」

いつもは私を無視するクラスメートからの挨拶。落書きで埋め尽くされているはずの私の机も綺麗なまま。挨拶に戸惑いながらふと顔を上げると、美弥の机に花が飾られていることに気が付いた。そして、いつも私がされていたように、今は美弥がクラスメートから無視されているのだ。

“何これ?私と美弥の立場が入れ替わってる?”

私はこの事態が少し怖かったが、あの美弥がいじめられている。こんなことがあるのかと嬉しかった。自分はいじめから抜け出し、代わりにクラスの人気者であるはずの美弥がいじめられている。

「ざまぁみろ。」


放課後、すっかり暗くなってしまった教室に忘れ物を取りに戻ると、まだ美弥が残っていた。あの落書きでいっぱいになった机の上で、必死に何かをやっていた。

「美弥?何してるの?」

「あっ。沙羅…。あのね、今日の数学の問題どうしても解けなくて。」

「ふ〜ん。美弥は真面目だねぇ。」

「そんなことないよ。今やれることは今やっておかなきゃ忘れちゃうから。」

私はなぜか美弥の行動に腹が立った。この真面目ぶった美弥の態度が昔から嫌いだった。

私は必死で問題を解いている美弥を横目で見ながら忘れ物を机から取り出すと、教室を後にし、友達が待つカラオケ屋へと向かった。


「うわぁ、俺の机が美弥の机とくっ付いてる!美弥菌が移る!」

「きゃぁ、私の筆箱がなんで美弥の机にあるのよ!消毒しなきゃ!」

「ついでに美弥にも消毒だぁ!」

シュッ。シュッ。

「ゴホッ。ゴホッ。」

「まだ生きてるぞ!しぶとい奴め!」

ドコッ。ガッ。ボコッ。

「やめてよ!痛い。ゴホッ、ゴホッ。」

「うわっ!汚ねぇ。ばい菌!気持ち悪いんだよ。早く消えろよ!」

私は美弥がいじめられている間、教室でいじめられている美弥を見ているだけだった。

“可哀相な美弥。でも、これで少しは私の気持ちが分かった?”

美弥に対するいじめは、以前私が受けていたものとまるで同じだった。私も今の美弥と同じ扱いを受けていた。その頃の辛い気持ちを思い出し、体が震えてきた。

「こいつなんか変な臭いしてねぇ?」

「沙羅菌だもん臭いのはあたりまえじゃん!」

「それもそうだなぁ。よし。俺らで除菌してやろう」

「おっ!良いねぇ。パブリーズかなんかない?」

「あっ!私持ってるよぉ。はい。」

こんな会話は日常茶飯事だった。私はただ、だまって耐えていた。どうせ私はダメな人間だから。生きていても良いことはないんだから…。

だけど、今の私は違う。今いじめを受けているのは私ではない。美弥なのだ。


私にとって夢のような毎日が過ぎていった。でも、なぜかすっきりしない。心の底から楽しめない。その間、美弥は一日も学校を休むことがなかった。どんなに酷いいじめを受け続けても、持ち前の明るさと努力でいじめを乗り越えていった。初めはただ傍観していたクラスメート達も、美弥の行動を見て、いじめから助けてくれる人まで現れた。そして、自然といじめはなくなっていった。あんなに酷いいじめだったのに、私と同じくらい痛い目を見たはずなのに、美弥はけっして泣かなかった。いじめに負けなかった。

“私がいじめられていた時は、誰も助けてくれなかったのに。”

私は、自分がいじめられていた時、周りを全て敵だと思っていた。誰も自分を助けてくれる者はいないと、本気で思っていた。そして、いじめに逆らうことさえしなかった。その行動が、さらにいじめを酷くしていることに、私は気付かなかった。

“美弥はいじめから抜け出すことが出来た。なのに、私は自分で抜け出すことが出来なかった。何で?”

私は、自分と美弥の違いについて考えるようになった。美弥を改めて観察してみると、いつも笑顔で、何にでも全力で取り組んでいる美弥の姿があった。授業では真剣に先生の話を聞き、分からなかった場所はその日のうちに理解しようとする美弥。困っているクラスメートがいたら積極的に話しかけて助けていた美弥。一度、私は美弥に質問したことがああった。

「美弥。あんた、なんで笑っていられるの?」

「何でかな?私にも分かんないけど、何もしないで泣いているだけって嫌なの。自分の力で今の状態が良くなるんだったら、頑張ってみる価値はあるじゃない?それに、みんなだっていつか気付くと思うの。“あぁ。なんて馬鹿なことをしていたんだ。”ってさ。」

この質問をした時は、まだ美弥のすごさに気付いていなかった。ただ、美弥は「良い子」のふりをしているのだと思っていた。でも、美弥を観察していて、そうではないということに気付いた。

“そっか。美弥は最初から何でも出来るわけじゃなかったんだ。努力して、笑顔で頑張っていたんだ…。それに比べて私は、いつも悲観的に考えるだけで、何も努力していなかったよね。いつも誰かのせいばかりにしてた。自分以外はみんな敵だって思っていた。”

そう気付かされた私は、美弥を見る目がかわった。今までは何をやっても上手くこなし、クラスからも必要とされている美弥に嫉妬していた。だけど、今は美弥を心の底から尊敬している。違う。本当は私も美弥と仲良くしたかったのだ。本当は最初から美弥を尊敬していたのだ。ただ、私の中で嫉妬の心のほうが大きくて、本当の気持ちに気付かなかっただけなんだ。

“私も努力をして、自分に自身を持てば良いんだ!そして、美弥に謝ろう。美弥と本当の友達になりたい!”

そう決心した私は、美弥に謝った。なんの事か分からない美弥は面食らっていたけど、私は心がすっきりした。それから私は、毎日美弥と一緒に図書館へ行き授業の予習・復習をするようになった。また、美弥にメークを教えてもらうなど、今まで経験していなかったことを経験した。そのお陰で、以前よりも楽しく毎日を過ごすことが出来た。

「沙羅ってさ、なんか雰囲気変わったよね?」

「うん。なんか明るくなったよね!」

友達にそう言われ、私は今まで“誰も私を見てくれない。理解してくれない。”と思い込んでいたことに気付いた。私は「自分の世界」に閉じ籠って、皆から距離を置いていたのだ。

「私、もうネガティブに考えるのはやめたの!明るく、前向きで生きていれば楽しい毎日が送れるって気付いたから!笑顔の私でいるって決めたんだ!」

「あはは。何それ?」

当然、意味のわからない友人達は笑っていたけど、そう思えたことに対して、私は満足していた。

家でも、お母さんは私の頑張りを認めてくれた。きちんと勉強をして、お母さんの目を見て話すようにした。お母さんは私のことを嫌いなわけでも、愛していなかったわけでもないと分かった。私が、お母さんときちんと向き合っていなかった。そして、今きちんと向き合うことができた。今までのお母さんの発言は、私を心配してくれてのことだったのだ。

「お母さん。今までごめんね。私できる限り頑張るから!」

「私のほうこそごめんね。沙羅が私の言葉で傷付いていたなんて、気付かなかったの。」

「良いよ。お母さん大好きだよ!」


学校でも家でも居心地の良い時間が過ぎていった。そんな楽しい生活がどれくらい続いたのだろうか。ある日、美弥と二人で学校から帰っていた時だった。

キキキ〜ッ!!

けたたましい音と共に、突然私達の目の前にトラックが突っ込んできた。それは、突然の出来事で、とても避けきれる速さではなかった。とっさに私は美弥を力いっぱい突き飛ばした。私に勇気をくれた美弥だけは、何としてでも助けたかったのだ。

「沙羅!!」

“あれ?前にもこんなことがあったような。あぁ、そうだ。あの時、私が学校の屋上から飛び降りた時に聞こえた声。あれは美弥だったんだ。”

薄れゆく意識の中、私は美弥がいじめられている私を支えようとしてくれていたこと、そんな美弥を「良い子ぶりっ子」だと邪険にしていたことに気付いた。

“美弥。ありがとう。いつも私を支えてくれて。一度もお礼をいっていなかったね。もう遅いのかな?私このまま死ぬの?嫌だ。死にたくないよ…。”


目が覚めた私は病室にいた。消毒液や病院独特の匂いがする。

「痛ッ。」

体中が痛い。左手には点滴が刺さっている。

「先生呼んでくるわ!美弥ちゃんは沙羅についていてあげて。」

「はい。」

“えっ?何?”

「沙羅?よかった、目が覚めたのね!!」

そこには、涙で顔がぐしゃぐしゃになった美弥がいた。

「美弥?私助かったの?美弥は怪我してない?」

「何訳分からないこと言ってるのよ!何であんなバカな真似したの?」

「バカな真似?なんの話?」

「沙羅、覚えてないの?あなた、学校の屋上から飛び降りたのよ?全然目を覚まさなくて、本気で心配したんだからね!」

“あぁ。こっちの世界に戻ってきたんだ”

「沙羅。ごめんね。私、いじめられてる沙羅を助けてあげられなかったね。」

「美弥は悪くないよ!私のほうこそ、美弥の優しさに気がつけなかった。いつも支えてくれていたんだよね。ありがと。」

「沙羅ぁ…。」

“美弥はこんな私のために泣いてくれるんだ。ずっと美弥に冷たく当たってきたのに。美弥、本当にありがとう。”

「今度こそ、楽しい毎日が送れるよね?」

「うん。沙羅頑張って!私がそばにいるから!沙羅は一人なんかじゃないよ?だから、もうこんな馬鹿なこと二度としないでね?」

「うん。約束する。美弥ごめんね。」


こうして、私の不思議な体験は終わった。最初は、またいじめられる日々が始まるのかと思うと怖かった。でも、あの不思議な体験の中で「いじめに立ち向かっていた美弥」の姿を思い出し自分に言い聞かせた。

“私も努力していこう。私にだって出来る。だって、私には美弥というかけがえのない友達がいる。私は独りぼっちなんかじゃない!”

そう思い直し、あの夢の中で頑張ったように、また少しずつ頑張っていこうと思った。

すると、不思議と胸のつかえがとれ、穏やかな気持ちになれた。

「まずは、怪我をきちんと治さなきゃね!」


この小説の主人公(沙羅)は私自身、支えてくれた幼馴染(美弥)は私の幼馴染がモデルになっています。


独りぼっちだと思ってる人にでも、きっと支えてくれる人はいると思います。

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