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ハイブリッド保守宣言 ——「血」を問わない民族主義と、三層構造の国家OS  作者: えいの
第4部:経世済民を駆動する「神学」と「真っ当な経済」

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第11話:「真っ当な経済政策」こそが連続性を守る防衛線である

 前話において、我々はレイヤー2(文化的民族)を駆動する精神的OSとして、「万物神聖化(八百万の神)」という日本古来の世界観がいかに究極の労働倫理と経済合理性を生み出すかを論証した。労働を単なる資本主義的な苦役や利潤追求の手段とするのではなく、過去から未来へと連なる国土とインフラを維持するための「神事」として位置づけること。この倫理的エートスこそが、世界最高峰の品質と、阿吽の呼吸による相互信頼ソーシャル・キャピタルを担保し、国家の物理的な供給能力を支え続けてきた源泉である。

 しかしながら、どれほど崇高な精神的OSを国民が共有し、現場の技術者や労働者が誇りを持って神事としての労働に打ち込もうとも、それを包み込む国家の「マクロ経済政策」という物理的な防衛線が崩壊していれば、システムは必ず破綻する。精神論だけで物理的な飢えや資本の暴力に抗うことはできない。冷徹な市場原理とグローバル資本の波状攻撃に晒される現代において、国家の連続性(レイヤー3の皇統やレイヤー2の文化)を守り抜くための最強の鎧は、イデオロギーに偏向した教条主義でも、特定の異端派経済学でもない。それは、国家の供給能力を徹底的に保護し、育成するための「世界標準の真っ当なマクロ経済政策」に他ならないのである。本章では、新自由主義的な市場原理主義レッセフェールがいかに国家の土台を破壊しているかを解剖し、我々が採るべき真の経済的防衛線の構築プロセスを提示する。

■第一節:架空商品としての「土地」と、レッセフェール型農政の完全なる破綻

 近代経済人類学の巨匠カール・ポランニーは、その著書『大転換』において、本来は市場で売買されるために作られたわけではない「労働、土地、貨幣」の三つを市場メカニズムに委ねることの危険性を鋭く告発し、これらを「架空商品(Fictitious Commodities)」と呼んだ。とりわけ「土地(自然環境)」を、単なる価格競争に晒される商品として扱えば、その土地が持つ環境維持機能や歴史的連続性は容赦なく破壊され、最終的には社会そのものが崩壊するとポランニーは警告した。

 現在の日本が直面している危機は、まさにこのポランニーの予言の成就である。一九九〇年代以降、日本の歴代政権は「市場原理の導入」や「構造改革」という美名の下に、農林水産業や地方インフラといった国家の第一次防衛線を、過酷なグローバル競争と新自由主義的なレッセフェール(自由放任)の荒波の中に投げ込んだ。その結果、何が起きたか。

 農村では採算の合わない田畑が次々と耕作放棄地となり、国土の保水力や治山治水機能が音を立てて崩れ落ちている。林業の現場に目を向ければ、木材価格の低迷と従事者の高齢化によって間伐などの適切な手入れが行われず、山林は荒廃の一途を辿っている。さらに深刻なのは、国土の物理的な境界線を確定する「地籍調査(cadastral survey)」が遅々として進まないことである。市場価値を失い、相続登記すら放置された所有者不明の山林が日本中に増殖していく現実は、国家の主権が及ぶべき「物理的な輪郭(領土)」が、市場の論理(放置によるコスト削減)によって文字通り溶かされている過程に他ならない。境界線が消滅した山林は、いずれ外資による水源地買収などのターゲットとなり、国家の安全保障を根本から脅かす。

 我々はここで、冷徹な事実を直視しなければならない。正直なところ、市場原理にすべてを委ねるレッセフェール型の農林政は、もう完全に限界に達しているのである。市場の価格メカニズムは、「今、この瞬間のキャベツの価格」を決めることはできても、「五十年後の山林の治水機能」や「百年後の農地の肥沃度」に価格をつけることは絶対にできない。国家の連続性を担保する「土台(土地と供給能力)」を、短期的な利潤最大化しか視野にない市場原理に委ねることは、国家の自殺行為に等しい。

■第二節:「供給能力」防衛のための欧州型所得補償への転換

 このレッセフェールの限界を突破し、国家の供給能力(食料安全保障とインフラ維持)を物理的に防衛するためには、国家による強力かつ直接的な市場介入が必要不可欠となる。具体的には、農林水産業を持続可能な形で維持し、現場の従事者を保護するための「欧州型所得補償(直接支払制度)」への抜本的な切り替えである。

 欧州連合(EU)の共通農業政策(CAP)などが採用している直接支払制度の本質は、「農産物の市場価格」と「農家の所得」を切り離すことにある。農家が国土の環境を保全し、良好な景観を維持し、国家の食料安全保障に貢献しているという「多面的機能マルチファンクショナリティ」そのものを正当に評価し、国家が直接的に所得を補償する。これにより、農家は国際市場の過酷な価格変動や、不作による収入減の恐怖から解放され、長期的な視点に立って土壌を育て、技術を継承することが可能となる。

 現在の日本の農政は、規模拡大やスマート農業化といった「競争力の強化」ばかりを煽るが、現場の経営基盤が極めて脆弱な状態のままでは、いかなる高度な政策も砂上の楼閣である。例えば、農産物の安全性や環境保全、労働安全を担保するための国際規範であるGAP(Good Agricultural Practices)などの高度な管理体制を現場に定着させようにも、その前提となる経営がレッセフェールによって疲弊しきっていては、いかなる立派な技術指導やマニュアルも空論に帰す。トラクターやエアツール(空圧工具)といった重機の適切なメンテナンスを行い、安全に稼働させ続けるためには、それに足る経済的な余裕と人員の確保が絶対条件である。

 農家や林業従事者は、単なる「市場のプレイヤー」ではない。彼らは、国家のレイヤー2(文化的連続性と万物神聖化)を最前線で体現し、国土という神域を守り抜く「防人さきもり」である。したがって、彼らに対する所得補償は、バラマキや福祉セーフティネットなどではなく、国家の物理的基盤を維持するための「国防費」として計上されるべき最も正当な投資なのである。欧州型所得補償への転換なくして、日本の供給能力の維持は絶対にあり得ない。

■第三節:特定の異端理論からの脱却と、世界標準のマクロ経済政策への回帰

 第一・第二節で論じたような、国家による大規模な所得補償やインフラ投資(地籍調査の加速、治山治水、林道整備など)を提唱すると、現在の財務省を中心とする緊縮財政派からは、必ず「財源はどうするのか」「国の借金(政府債務)が膨張し、国家が破綻する」というヒステリックな反論が返ってくる。この「緊縮の呪縛」こそが、失われた三十年を引き起こし、日本の供給能力を徹底的に破壊してきた最大の元凶である。

 しかし、この緊縮路線を論破するために、近年流行している特定の異端派経済学(例えば、無制限の財政赤字を容認するかのように解釈されがちな極端なMMTなど)に過度に依存することもまた、我々は厳に慎まなければならない。国家のOSを構築する極めて保守的かつ王道のアプローチにおいて、実証性に乏しい極端な理論や、特定の教条主義に国家の命運を全額ベットすることは、システム防衛の観点からリスクが高すぎるからだ。我々が必要としているのは、魔法の杖ではなく、「世界標準の真っ当なマクロ経済学」への回帰である。

 世界標準のマクロ経済学の基本、すなわちジョン・メイナード・ケインズの有効需要の原理や、英国の経済学者ウィン・ゴドリーらが提唱した「部門別収支(Sectoral Balances)」の冷徹な数学的真理に立ち返れば、緊縮財政の誤りは一目瞭然である。マクロ経済における絶対的な会計恒等式によれば、「政府部門の赤字」は、常に「非政府部門(民間および海外)の黒字」と完全に一致する。政府がインフラ投資や所得補償のために財政出動(赤字の拡大)を行うということは、裏を返せば、民間の企業や家計に貨幣という純資産を供給し、彼らを豊かにしているという事実そのものである。

 逆に言えば、政府が「財政健全化」を掲げて支出を削減し、増税によって政府部門の黒字化を目指せば、それは数学的な必然として、民間部門(国民)の資産を奪い、赤字に転落させることを意味する。民間部門が赤字になれば、農家は重機の更新を諦め、土木企業は人材採用を見送り、地方自治体は橋や道路の修繕を先送りする。これが「デフレ」という病であり、国家の資本形成(物理的な供給能力の蓄積)が停止し、国土が朽ち果てていくメカニズムである。

 我々は、魔法のように「いくら借金をしても絶対にインフレにならない」などという極論を主張するのではない。主権通貨国において、政府の財政支出の制約となるのは「財源(税収)」ではなく、その国家が持つ「インフレ率(実体経済の供給能力の限界)」であるという、極めて真っ当でオーソドックスなマクロ経済の原則を確認しているだけである。インフレ率が許容範囲内(デフレや不完全雇用が存在する状態)に収まっている限り、政府は躊躇することなく通貨を発行し、それを国土の保全、農林水産業の保護、そして未来のための技術投資へと振り向けなければならない。インフラへの投資は「消費による浪費」ではなく、後世に残る「資本形成(国富の増大)」である。これこそが、資本主義の構造的欠陥を補い、国家の連続性を担保するための「真っ当な経済政策」の核心である。

■第四節:国土という「物理的ROM」の護持と、技術という防衛線

 これまで本論では、国家の制度的・歴史的な不変のアンカーとして、レイヤー3たる「皇統」を「システムのROM」に例えてきた。しかし、経済政策の文脈において、我々はもう一つの巨大なROMの存在を直視しなければならない。それこそが、「日本列島という国土そのもの(物理的ROM)」である。

 数千年にわたる先人たちの神事(労働)によって切り拓かれ、水路が引かれ、土壌が改良され、山の境界が守られてきたこの国土は、決して一朝一夕に作られたものではない。一度でも放置され、山林が荒廃し、農地の土壌微生物のバランスが崩れ、地籍の境界が失われてしまえば、それを元の状態に復元するためには、破壊に要した時間の何十倍もの歳月と、莫大なエネルギー(コスト)が必要となる。国土という物理的ROMは、常に人間の手によって「保守メンテナンス」され続けなければ、自然の猛威というエントロピーの増大によって容易に初期化(崩壊)してしまうのである。

 この物理的ROMを保守するためには、単なる精神論では足りない。農地を耕すためのトラクター、山林を整備するためのチェンソーや刈払機、硬い岩盤を砕くためのエアハンマー、そして地籍を正確に測量するためのGNSS(全球測位衛星システム)機器など、極めて高度で重厚な物理的ツールが必要である。そして、それらの重機や精密機器を適切に運用し、整備し、次世代へとその技術を継承していく「現場の技能者たち」こそが、国家の真の防衛力なのである。

 世界標準のマクロ経済政策に基づく積極的な財政出動は、これらの現場に対して安定した資金を供給し、彼らが安心して技術を磨き、最新の機材を導入し、後継者を育成するための「防衛線(経済的な鎧)」として機能する。レッセフェールという無責任な市場の暴力から現場を隔離し、国家の意志として供給能力を守り抜くこと。この物理的・経済的な土台があって初めて、第十話で論じた「万物神聖化」という精神的OSは、現実世界でその真価(究極の経済合理性)を余すところなく発揮することができるのである。

■第五節:結論と、次章(最終話)への接続

 右派は往々にして、文化や歴史といった精神論のみを偏重し、それを支えるマクロ経済や労働環境の劣悪さ(物理的土台の崩壊)から目を背ける。一方、左派は経済的な再分配や弱者救済を叫びながらも、それが基盤とする国家の歴史的連続性や、インフラを支える泥臭い労働(供給能力)の尊さを軽視し、抽象的な人権論やグローバリズムに逃避する。

 本論が提示した「三層構造」と「真っ当な経済政策」のハイブリッドは、この不毛な対立を完全に無効化する。我々は、レイヤー1における冷徹な契約(血統不問)によって多様な人材を包摂し、レイヤー2における文化の同化(万物神聖化のOS)によって彼らを強靭な運命共同体へと鍛え上げる。そして、レイヤー3における皇統という不変のROMによってポピュリズムの暴走を打ち砕き、さらに本章で論じた世界標準の積極的なマクロ経済政策(欧州型所得補償とインフラ投資)によって、そのすべての土台となる国土と供給能力を物理的に守り抜く。

 思想、法制度、そして経済。これらすべての歯車が論理的かつ完璧に噛み合ったとき、我々の目の前には、かつて誰も見たことのない、強靭にして普遍的な新しい国家の姿が立ち現れる。

 次章(最終話)では、この精緻な国家アーキテクチャが最終的に何を目指すのか、我々がいかなる未来を次世代へと信託するのかについて論じる。他者を排斥するための狭隘なナショナリズムではなく、自らを厳しく律し、経世済民を果たすための究極の国家哲学。我々が継承し、アップデートすべき新しい「神の国」のカタチを提示し、この長きにわたる宣言の幕を降ろす。

【引用文献・資料】

・カール・ポランニー『大転換――市場社会の形成と崩壊』(野口建彦・栖原学訳、東洋経済新報社、二〇〇九年)

・ジョン・メイナード・ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論』(塩野谷祐一・小野善康・岩本武和訳、東洋経済新報社、一九九五年)

・ウィン・ゴドリー、マルク・ラボワ『マクロ経済学――貨幣・金融と資本主義の動学』(中野剛志ほか訳、東洋経済新報社、二〇二〇年 ※部門別収支の理論的支柱として参照)

・フリードリヒ・リスト『経済学の国民的体系』(酒井正三郎訳、岩波文庫、一九八〇年)

・農林水産省『農業生産工程管理(GAP)の推進について』(二〇二四年 ※持続可能な農業規範の要件に関する基礎資料)

・国土交通省『地籍調査の推進に向けた基本方針』(二〇二〇年 ※所有者不明土地問題と境界確定の現状に関する実証的資料として)

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