ココアシガレットと僕と父①
2回か3回の短期連載予定です。
アタリ付きのきなこ棒、ブタメン。
そして……ココアシガレット。
これがコイン一枚を握りしめて行った、駄菓子屋でのレギュラーメンバーだった。
放課後、1度家に帰ってから、駄菓子屋近くの三角公園に集まった。
あの頃は携帯なんてなかったから、遅いヤツを待てなくて、先に駄菓子を買ってから公園でそれを食べながら待つなんてこともよくあった。
「こんにちは~」
大人になってから1人で駄菓子屋に行くのがなんだか照れくさくて、照れくさくないフリをして店の中に入った。
レジ横の椅子に座っていた店主のおじいちゃんが「こんにちは」と返してくれたはずだが、ぼそりとした声で、何を言ったのか正確には分からなかった。
10年以上前、当時の店主と同じだ。
もうちょっと聞き取りやすい声だった記憶だが、健在で安心する。
入口の横の、アイスを並べるような形の冷蔵庫がまず目に入った。
そこにはチューペットのようなプラスチックのやわらかい容器に入った、コーラやグレープ味のジュースが並べられていた。
容器の先っぽを歯でねじ切ったあの頃を思い出す。
冷蔵庫のふたを開けようとして、手を止める。
冷蔵庫に入っているものは最後に取ろうと思っての躊躇だったが、あのころと違って、買ってすぐに店頭や公園で食べるわけではない。
ない……のだが、なんとなく礼儀というか、そんなものないのだが、子供のころの何かを大切にしたくて、一旦他のものから先に見ることにした。
まず目に入ったのは、ポテトスナック。
思い出からくる塩味とチキンの香りが、口と鼻を刺激する。
『雀百まで踊り忘れず』という、子供の時に習得したものは年をとっても忘れない、という意味のことわざがあるが、きっとこのポテトスナックの味わいも、最後に食べてから何年たったとしても、パッケージを見ればすぐに思い出すことだろう。
思い出との照合をしたくなって、ひとつ手に取った。
同じ視界の中に、四角いプラ容器の中が赤く満たされている駄菓子があった。
2つの赤い丸い果実が、赤い溶液に浸かっている。
すももという駄菓子だ。
母が好きなのを思い出して、それも手に取った。
駄菓子というのは甘いだけではなく、しょっぱいものと、酸っぱいものも多い。
私はどの味も好きなので、100円の中でなかなか絞り切れないことも多く、いつもぎりぎりまで悩んでいた。
大体甘いのとしょっぱいのが捨てきれずに、酸っぱいものは予算が多いときだけラインナップに入っていた記憶だ。
これで2つ手に取った。
まだまだ買うつもりなので、小さいかごを手に取ってそこに入れる。
小さい頃は竹籠だったのが、取っ手部の色が個体によって違うプラスチック製のカゴになっていた。
他にもさまざまな駄菓子をカゴに放り込んでいく。
ひとくち分のラーメン菓子や、小さいのがいくつか入ったあまーいドーナツ。
それから、これはもう駄菓子というか漬物だろと言いたくなる酸っぱい大根。(めっちゃ好き)
などなど、子供のころに買っていたものから、大人になった味覚で好きそうだと思うものまで、思うままに選ぶ。
値段はなんとなく見ているが、子供のころとは違い予算を気にしているのではなく「どれくらい値上げしてるかな~」の興味で見ているため、目に通したそばから忘れていく。
最後に冷蔵庫から、コーラ味を2つ、グレープ味のジュースを1つカゴに入れてレジに向かう。
向かっている最中に、むらさき色の小さい箱が目に入った。
子供の手のひらサイズの箱には『ココアシガレット』と書かれていて、その下にタバコのような白い棒の絵が描かれている。
ふと、父の姿が思い出された。
居間でタバコを吸いながらテレビを見ている父……。
父が煙草の箱から1本取り出すと同時に、私もポケットに忍ばせておいたココアシガレットの箱から同じように1本取り出す。
昼に買ったものを、このために数本残しておくのがいつものことだった。
父がタバコを咥えてライターで火をつける動作が早く、私がココアシガレットを咥えるまでに、最初の1吸いを終えていた。
私はむらさき色のパッケージの前でただ立っていた。
それを見つめているようで、何も見ていない。
買い物中だった、と思い出し、瞬きをしつつひと箱手に取ってカゴに入れながらレジに向かった。
トン、とレジ横の台に置く。
「お願いします」
「はいよ」
おじいちゃんは短い返事とともに、ひとつづつレジ袋に詰める。
値段は暗記しているようで、慣れた手つきで電卓を叩いている。
数十円ずつ加算される液晶が、大人になって見かけない増え方で、新鮮に感じる。
15点ほど買ったので、その計算の間、気まずさに目線を適当に泳がせる。
レトロな雰囲気……というかレトロな店内を見回す。
駄菓子以外にもスーパーボールや、ゴム風船、組み立て式の紙飛行機まで子供の好きそうなものがいっぱいで、まるでこの駄菓子屋自体が宝箱のようだ。
そろそろ合計が出そうというところで、レジ横のきなこ棒に目が留まった。
「どうしよう」と思う。
このきなこ棒は個包装ではなく、箱中のきなこの海に棒付きのきなこ餅が埋もれている形式のものだ。
ほぼ必然的にここで食べることになりそうだ。
正確には持って帰って食べたっていいが、素のまま持って帰ることになるし、これは買ってすぐ食べるべきものだという流儀が「食べるなら絶対ここで!!」と言っている。
しかし駄菓子を買って帰るだけならまだしも、20代半ばの男が店頭できなこ棒をパクリとは、やはり照れる。
ちらっと店内を見るが誰もいない。
「せっかく来たならここは恥ずかしがらず」という思いと、「いい大人がさあ」という思いとが混じりあう。
うーん、やっぱり食べてるときに地元の昔馴染みとかが来ちゃたら、絶対地元の飲み会とかでネタになりそうだし……。
「合計730円ね」
電卓の液晶が見やすいようにこちらに向けて、合計金額を見せてくる。
私は言った。
「あ、すみません、きなこ棒もひとつお願いします」
店主は「はいよ、じゃあ740円ね」と言い、箱をトントンと軽く叩いて「選んで」と続けた。
私はできるだけ持ち手のつまようじがきなこに埋まっていないものを選んで、口に運んだ。
子供のころはなんにも気にしなかったけど、なんとなく手がきなこまみれにならないようにした。
食べてみると、思い出より硬くて水分が持ってかれていったが、思い出よりおいしかった。
大人になってさらに味覚がきなこの美味しさに順応したのかもしれない。
なんだか歳をとるのがちょっと楽しみになった。
「アタリだからもう一本ね」
引き抜いたつまようじを持って、アホずらでもぐもぐ味わっていると、しゃがれた声で言われた。
「え?」とさらに間抜けな顔をしていたところ、「つまようじ、さきっぽ、赤いから」と私の手元に向けて指をさされた。
「あ、ホントだ。じゃあいただきます」
つまようじの先っぽが濃く真っ赤に塗られている。
子供のころ、周りのみんなはポンポン当てていたのに、私はたまにしか当たらなかった。
今日に限って当たるとは……。
嬉し恥ずかしというやつで、なぜか軽くお辞儀をして遠慮がちにさらに1個手に取って口に運んだ。
なかなか飲み込めないから、ちょっと気まずい。
また、アタリでもらったそのきなこ棒もアタリだった。
すまない、近所の子供たち……。
短めの連載なので、ぜひ追って読んでいただけますと幸いです。
次回は実家に帰って、家族と駄菓子を食べながらの思い出話を書く予定です。
今週中、金曜までに投稿予定です。
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(なくても書ききりますので、好みに合っていただけましたら是非。という感じです!)




