穴のあいたバケツ
私は、穴の空いたバケツみたいだと思った。
どれだけ水を注いでも、満ちることはない。
底のどこかに空いた穴から、気づかないうちに抜け落ちていく。
日中は、ほとんど眠って過ごした。
赤ちゃんはそばにいて、泣いたり、笑ったり、小さな存在でここにいる。
手を伸ばせば触れられる距離に、ちゃんと温度があるのに。
それでも、心の内側だけが空洞みたいに軽かった。
満たされていないわけじゃない。
満たされたものが、残らないだけだ。
夜になって、誰かと話した。
声を出して笑ったし、楽しいとも思った。
その瞬間だけは、確かに水が注がれていた。
でも、終われば同じだ。
静けさが戻ってくると同時に、内側もまた軽くなる。
さっきまであったはずのものが、跡形もなく消えている。
どこから抜けているのかはわからない。
いつからこうなったのかも、思い出せない。
気づいたときには、もうそういうものになっていた。
埋めようとするたびに、減っていく。
足そうとするほど、空っぽがはっきりする。
なら、もうやめればいいのかもしれない。
そう思っても、やめることもできない。
赤ちゃんは泣くし、時間は進むし、夜は来る。
だからまた、少しだけ水を注ぐ。
どうせ抜けていくとわかっていても。
どうせ残らないと知っていても。
何もないよりはましだと思ってしまう。
そしてまた、軽くなる。
何度繰り返しても、底は満たされない。
私は、穴の空いたバケツのまま、減っていく。
それが埋まる日が来るなんて、もう考えていない。
ただ、抜け続けている。
それは、私がおかしくなってしまったのか
わからない。




