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無音の既読

既読は、つかない。


スマホの画面を閉じて、また開く。

同じ画面。

同じ時間。

何も変わらない。


「遊んでくるね」


最後の一言は、それだけだった。


それから十二時間。

時計の針は、もうとっくに終バスの時間を過ぎている。


――遅くても終バスまでに帰ってきて寝て。


何度も言われた言葉。

そのたびに、理由をつけて切り上げてきた。

眠くなくても、帰った。

まだ話したくても、切った。


守ってきたのは、誰のためだったんだろう。


小さな寝息が、部屋の隅で規則正しく響いている。

赤ん坊は、何も知らない顔で眠っている。


その隣で、私は静かに座っている。


怒っているはずなのに、音がしない。

胸の奥で何かがぐらぐらしているのに、外には出てこない。


ただ、冷たい。


メッセージを打つ。


「まだ帰ってこないの?」


送る。

既読は、つかない。


もう一通。


「どこにいるの?」


指が止まる。

送信ボタンの上で、少しだけ迷う。


――どうせ返ってこない。


その予感だけが、妙に正確だった。


送らないまま、画面を消す。


赤ん坊が少しだけ身じろぎする。

私は反射的に手を伸ばして、背中を軽く叩く。


大丈夫、大丈夫。


誰に言っているのか分からないまま、同じ言葉を繰り返す。


大丈夫。


何が大丈夫なんだろう。


終バスは、もう来ない。


それでも帰ってこない人を待つ理由なんて、

本当はもう、どこにも残っていないのに。

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