第五章 逆恨み(負の連鎖)
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白百合茜の死亡は、
翌朝のニュースで大きく報じられた。
「高校生の白百合茜さん(17)が自宅近くで死亡──
死因は心停止。外傷はなし。
事件性の有無を警察が捜査中」
その一方で、
同じニュース番組はこう続けた。
「死亡していたはずの鈴木凛さん(17)が、
本日未明に蘇生したとの情報が──」
スタジオがざわめいた。
「賢者の石の私的使用か?」
「倫理的問題が再燃──」
「法整備が追いつかず混乱が広がる──」
社会は再び騒然となった。
―――
白百合家。
リビングのテレビを見つめながら、
白百合あきこは震えていた。
「……茜……?
茜が……死んだ……?」
その顔は、
悲しみではなく、
怒りと憎悪で歪んでいた。
「誰が……
誰が茜を殺したの……?」
記者が押し寄せる中、
あきこは叫んだ。
「うちの娘を殺したのは──
あの親よ!
鈴木武よ!!」
記者たちがざわめく。
あきこは、
涙ひとつ流さず、
狂気に満ちた目で続けた。
「賢者の石を使ったんでしょう!?
あの男が!!
娘を蘇らせるために……
うちの茜を殺したのよ!!」
その声は、
まるで呪詛のようだった。
「許さない……
絶対に許さない……
あの男も……
あの娘も……
必ず……殺す……!」
あきこの中で、
復讐の炎が燃え上がった。
負の連鎖は、
もう止まらなかった。
―――
一方、鈴木家。
凛は病院のベッドで、
震えながら眠っていた。
医師は言った。
「……死の瞬間の記憶が強烈に残っているのでしょう。
PTSDの症状が出ています。
時間をかけて治療する必要があります」
かよは、
娘の手を握りながら泣いた。
「りん……
りん……
もう大丈夫だから……」
武は、
その光景を見つめながら、
胸の奥で複雑な感情が渦巻いていた。
(……助けられた。
凛は……戻ってきた)
それは確かに“奇跡”だった。
だが──
凛は、
戻ってきた瞬間から苦しんでいた。
叫び、
怯え、
父の顔すら認識できず、
死の記憶に押しつぶされていた。
(……これが……
本当に……救いなのか?)
武は、
答えの出ない問いを抱えたまま、
病院の廊下でひとり座り込んだ。
―――
数日後。
武は逮捕された。
罪状は──
「殺人の疑い」。
だが、
裁判では情状酌量が認められた。
- 娘を失った直後の精神状態
- 妻の鬱
- 賢者の石という異常事態
- 社会の混乱
- 武が自首したこと
裁判官は言った。
「被告の行為は許されるものではない。
しかし、
その心情は理解できる」
そして判決。
「懲役三年、執行猶予五年」
武は釈放された。
釈放されたその日。
武は、
久しぶりに外の空気を吸った。
(……終わったんだ)
凛は退院し、
かよも回復しつつある。
家族は戻った。
生活も戻った。
すべてが、
事件前の“平和な日常”に戻った。
武は、
その事実に胸がいっぱいになった。
(……よかった……
本当によかった……)
その夜。
武は街に出て、
ひとりで祝杯をあげた。
ビールが美味しかった。
料理も美味しかった。
久しぶりに笑った。
(……これからは……
家族と……
ゆっくり生きていこう)
夜半過ぎ。
千鳥足で家路を歩く武。
そのとき──
背中から胸にかけて、
鋭い痛みが走った。
「……っ……!」
武は息を呑み、
その場に崩れ落ちた。
視界がぼやける。
血が地面に広がっていく。
武は、
震える手で前を見た。
そこに立っていたのは──
血に濡れた包丁を持ち、
狂ったように笑う
白百合あきこだった。
「娘を返してよ……
返してよ……
返してよぉぉぉ……!」
武の意識は、
ゆっくりと闇に沈んでいった。
負の連鎖は、
ついに武を飲み込んだ。
お読み頂き、ありがとうございました。




