第一章 世の中の不条理
2作目です。以前から妄想していた事を、小説にしてみました。
ニュース番組のアナウンサーは、
どこか他人事のような声で事件を読み上げていた。
「本日未明、都内の路上で女子高校生が倒れているのが発見され、
病院に搬送されましたが、死亡が確認されました。
警察は、同級生による暴行の可能性があるとみて──」
テレビの前で、
鈴木武は拳を握りしめていた。
画面の中で語られる“女子高校生”は、
他でもない、自分の娘──凛だった。
妻のかよは、
武の隣で膝を抱え、
震える声で何度も名前を呼んでいた。
「りん……りん……」
武は、
妻の肩に手を置くことすらできなかった。
何を言っても、
何をしても、
娘は戻らない。
それが現実だった。
―――
警察署の面会室。
武は、
事件の担当刑事から淡々と説明を受けていた。
「……加害者とされる生徒たちは、全員未成年です。
取り調べには保護者の同席が必要で──」
「未成年……」
武は、
その言葉を噛みしめた。
未成年だから、罪は軽くなる。
未成年だから、守られる。
未成年だから──
娘を殺しても、人生は続く。
「……娘は、戻らないんですよ」
武の声は震えていた。
刑事は目を伏せた。
「……お気持ちは分かります。ですが、法律ですので」
法律。
その言葉が、
武の胸に重く沈んだ。
法律は、
誰を守っているのか。
娘を失った自分たちではない。
罪を犯した側だ。
葬儀の日。
凛の遺影は、
まだ幼さの残る笑顔を浮かべていた。
かよは棺にすがりつき、
声にならない叫びをあげていた。
「りん……りん……どうして……どうして……」
武は、
その姿を見ていることしかできなかった。
娘の友人たちが泣きながら線香をあげ、
親戚たちは慰めの言葉を並べた。
「まだ若いんだから……」
「時間が癒してくれるよ……」
「犯人は捕まったんだし……」
武には、
そのどれもが空虚に聞こえた。
犯人が捕まったからといって、
娘は戻らない。
時間が経ったからといって、
娘の笑顔が戻るわけではない。
「……償いって、なんだ」
武は、
誰に向けるでもなく呟いた。
―――
事件から数日後。
武は、
加害者の親たちが記者会見を開いたというニュースを見た。
白百合茜──
凛を死に追いやったグループのリーダー。
その母親、白百合あきこは、
記者の質問に対し、
眉ひとつ動かさずに答えていた。
「うちの娘は、やっていません。
周りの子たちが勝手にやったことです。
娘は巻き込まれただけです」
武は、
テレビの前で息を呑んだ。
あきこは続けた。
「それに……
亡くなった子にも、何か原因があったのでは?」
その瞬間、
武の中で何かが音を立てて崩れた。
かよは、
テレビの前で泣き崩れた。
「りんは……悪くない……悪くないのに……」
武は、
妻を抱きしめながら、
心の奥底で静かに何かが燃え始めるのを感じた。
(……このままじゃ、終われない)
法律は、
娘を守ってくれなかった。
社会は、
娘の死を“ニュースのひとつ”として消費した。
加害者の親は、
娘の死を“迷惑”としか思っていない。
(償いとは……なんだ)
武は、
答えのない問いを抱えたまま、
暗い部屋でひとり、
拳を握りしめた。
そして一つの決断をする。
お読み頂き、ありがとうございます。




