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ゆうれいの正体はなんだ?

 品出しをしていたら、川崎が近くにきた。

「ゆうれいの話をきいてまわっているんだって?」

「うん」

 洗剤を陳列しながら佐藤は答えた。 

「店長が怒っていた。佐藤はろくでもないやつだって。情報を集めて、店をゆうれい屋敷にしようとしているって。反逆罪で死刑だって」

 川崎が言った。

「反逆罪で死刑」

 佐藤は手を止めた。

「店長って、ほんと口悪いよね」

 川崎がクスクスと笑った。

「ああ見えて、虚勢張っているだけなんだよな。とっても心が弱くて、疑心暗鬼。怒鳴るのも、不安だから。それでパートは何人もやめたけど、仕方ないんだよ。悪いのは全部自分以外って考えだし」と、続ける。

「ここ辞めさせられたら、年齢的に仕事みつけるのは、難しいんだけど」

 佐藤は川崎を恨めしそうに眺めた。

「娘さんの大学費用と家賃払ってるんだっけ」

 川崎の心配そうな声。

「そうなんだよ、関東は何もかも高くて。今の状態でギリギリなんだ。店長に、私は悪気があるわけじゃないって言ってくれないかな」

 佐藤は両手を重ねて川崎を拝んだ。

「ムリムリ。店長が人の話を聞いてくれない性格だって、知っているでしょう」

「川崎さんのいうことなら聞くよ。店長のお気に入りなんだから。店長は川崎さんがいるとすごく機嫌がいいんだよ。お願いだから悪気はないって言ってよ」

「ムリだって」と、川崎。口調がきつい。

 しばらくの沈黙。

「わかった、ごめん。情報集めるのをやめるよ。店長に気疲れさせちゃったね」

 佐藤はつぶやいた。

「川崎さんはきれいだし、優しいし、身長もちょうどよくて、二人で歩いている姿も美しいよね」

「そんなことないよ」

 川崎は照れている。

「本当にうらやましい」と、つぶやいてから、

「ハイヒール履いて歩き回るゆうれいのことを言い始めたのは、川崎さんからだよね」と、付け加えた。

「それはセーフなんだって。でも、情報を集めるのはアウトだって」

「そうなんだ」と、佐藤はつぶやいてから、「分かった。マジでやめるよ。本当にごめんね。迷惑かけたね」と、謝った。

「あ、そうそう。この間、閉店作業でカートが一台回収漏れしていたって話、聞いたことある?」

「なにそれ」

「ううん。何でもない。私の勘違いだったかも」

 佐藤は無表情で言った。


 制服にエプロンをつけるのがホームセンタ―デイリーワンのユニホームスタイル。従業員はポケットにペン、ハサミにメモ帳、必要に応じて、いろいろなものを挟んでいる。

 二週間前から、佐藤はそれ以外に携帯をそっとしのばせることにしていた。証拠を録画するためだ。アプリを起動させて、ポケットにイン。スイッチを押せば瞬時に録画できる手はずを整えていた。

 パワハラは証拠が命だ。店長がしていないって言えば、それはしていないことになる。

 今まで何度、死ねと言われたかわからない。

 監査の点数が低かったのも、売り上げが悪い理由も、佐藤が存在するからである。お詫びして死ななければならないらしい。

 三十五歳の男の店長には、同じ年の奥さんと、二歳くらいの息子がいる。

 店長は人をみて態度を変える。どなられる専門のパートもいれば、普通に話しかけるパート、怒鳴るけど、そこまで怒鳴らないパート、とろけるような話し方をするパート。

 店長の任期はだいたい三年。あと二年でいなくなる。それまで心がもつのだろうか。


 今日も閉店まで仕事だった。三十分前になって、川崎と売り場を回る。閉店作業はほぼ終了。蛍の光がながれた。川崎がカート回収をしにいったが、本当に全部回収されたのか。駐車場に放置されたものがないか、ばれないように何度も確認に行った。そのせいで時間過ぎてからやっと鍵をかけることができた。

 川崎に「帰ろう」って声をかけた。

「ごめん、作業が残っていて」

 見ると、売り場にはまだ什器が残っていた。

「手伝おうか」

「大丈夫。すぐに終わるから」と、川崎。

「わかった。先に帰るね」

 一人で階段を上がった。休憩室の横は事務所で、まずそこで退勤を切る。店長がいた。パソコン入力をしている。挨拶したら、にらまれた気がした。20時10分。いつもより数分遅い。今日、フロアーマネージャーは休み。店長が締めの日だ。

 更衣室で私服に着替えて、階段を降りる。駐車場まで歩いて行った。周りを見渡す。回収漏れのカートはない。ほっとした。

 従業員用の駐車場には、レジの田中、店長、川崎、佐藤の車があった。車に乗り込んでエンジンをかける。

「カートよし、エントランスの鍵もよし」

 指先確認して大声でつぶやく。

 ハンドルを握ってから、駐車場を出た。やっと家に帰れる。

 

 帰る途中、信号で停車したところで思わず叫び声をあげた。

「ケイタイ!」

 全身鳥肌が立った。

「忘れた。なんで、なんで」

 独り言が止まらない。

「ああああ。エプロンの中に入れっぱなし」

 佐藤は車をUターンして、コンビニの駐車場に入り停車した。とりあえず深呼吸。

 ロッカーの鍵のスペアは金庫保管。個人のロッカーを開けようと思えば簡単に開けられる仕組み。大事なものがなくなった時は、ロッカーを開けることは日常茶飯事、立ち合いどころか本人への告知がなくても開けられていた。締め作業で使った出入口の鍵を返さず、無意識にロッカーに入れたりすると開けられたりするし、仕事で使用したタブレットや携帯端末も所定の場所に戻されなかったりしたら、ロッカーを開けられる。許可取りされたことがある人がいたなんて、一度も聞いたことはない。タブレットが見つからない場合は腹いせなのか、泥棒に入られたのかと思うほどかき回され、荒らされたりする。原因がロッカーの持ち主ではなかったとしても、事後報告さえもない。

「鍵は返したし。タブレットも携帯端末も確認した。大丈夫。開けられるわけないから」

 叫んで、ハンドルに頭を打ち付ける。

「やばい。録画しようとしていたの、店長にばれる。メチャクチャ怒鳴られる。もう、殺される」

 死にそうなくらい動悸が激しくなった。

「さすがに、なにもないのにロッカーを物色されるわけがないから」

 独り言を言いながら、マイナスな言葉を打ち消した。

 頭を左右に振る。何度も深呼吸したが、動悸は収まらなかった。気に入らないことがあると、すぐに人殺しの汚名をかぶせ死ねと言う人間性。理由がなくてもロッカーを開けることは簡単。今までも、これからも、続いていくだろう。打ち消してもうち消しても、開けられている妄想しか浮かばない。

「やっぱ、ムリだ」

 車を発進させた。

 ホームセンターデイリーワン。建物の前。到着した。

 まだレジの締め作業は終わっていないことを願った。店内が誰もいない状態でロック解除すると、セキュリティ会社が駆けつける。最後に役職者が処理をしてから最後の鍵をかける。そのあとに入ることはできない。

 従業員用の駐車場。車が3台あった。静かにガッツポーズ。

 閉店はしているから、自動ドアはもちろん開かない。鍵をかけたのは閉店作業をした佐藤本人。何度も確認した。

 裏出口ドア。暗証番号を入力。ドアを開けて駆け上がった。休憩室は明かりがついていた。体が固まる。女子更衣室を、音もなくゆっくりと覗いたら着替えているのは田中だった。

 安堵の吐息。

「どうしたんですか」

 後ろを振り返った田中が言った。

「おつかれー。忘れ物取りに来た」と、わざとらしく明るく言った。

 ロッカーを開けた。物色された形跡はない。手を突っ込んで、手前のエプロンをつかむ。

「よかったぁ」と、田中が言った。

「なに?」と、佐藤。

 反射的な返事。言葉を聞いてはいなかった。

 佐藤はエプロンのポケットの中をまさぐって、携帯をつかんだ。そのまま、着ているダウンジャケットのポケットにイン。

「ヨシッ」

 思わず言葉が漏れる。

 ロッカーの中に再度エプロンを押し入れ、鍵をかける。壁横にはハンガーラック。紺色のコートが一着だけ残っていた。川崎は作業が終わらず、まだ残業しているのだろう。

 深呼吸した。ポケットの中に手を入れて、感触を確かめる。携帯の固い手触り。安堵のため息が出た。

「出たんですよ、トイレの花子さんが。出ました。聞こえたんです。すすり泣く声が」と、田中が言う。

 一瞬、理解ができなかった。佐藤が無表情になった。間があって言葉がもれる。

「えええっ。今日?」

「今です」

「いま」

 佐藤は飛び上がった。

「もう、怖くて。一緒に帰る人がいなくて。本当に怖かったんです」

「店長は?」

「川崎さんとバックルームに。なんか在庫が合わない商品があって、本部に朝イチで報告しなきゃいけないらしくって。調べるから先帰ってくれって。レジ締めして作業終わって退勤きって帰ろうと思ったらトイレから女の泣き声が聞こえて。走ってここまできました」

 一階のバックルームには、加齢臭の男のゆうれい。二階はハイヒールを履いた女のゆうれい。トイレにも別のゆうれいがいるはずだ。それとも、すべて同じゆうれいなのか。

 知りたい。頭の中を反逆罪で死刑って言葉が浮かんだ。でも、これはうわさを集めているわけではない。確認するだけ。意味が違う。 

「面白そうじゃん」

 携帯を回収して安心したからか、佐藤はテンションが上がった。

「面白くありませんよ」

「一緒に見に行かない?」

「無理です」

「本当に泣き声だった? 窓が開いて、すきま風が当たって、人の声に聞こえるのかも」

「トイレに窓はありません」

「ばれたか」

「行きませんから」と、田中。

「行こうよ」

「行きませんっ」と、大声の田中。

「コーヒーおごるから」

「いりません」

 佐藤は着替えて帰るだけになった田中の手をがっしりとつかんだ。

 休憩室を出てダッシュで階段を降りる。足が絡まりそうになった。トイレは二階。二階フロアーに続く非常用ドア。そこを開けて、田中を中側に入れようと引っ張る。田中は階段の方から売り場に入らないように、必死に抵抗している。ふらついて、階段側に落ちそうになった。佐藤は抱きつき手前に引っ張って売り場に引きずりこんだ。

「佐藤さん、死にます」

 泣きそうな顔で田中は佐藤をにらみつけた。

「ごめん。でも、一生のお願い。つきあって」

 田中は顔をこわばらせている。

「わかりました。コーヒーだけじゃ足りないですからね。お昼もお菓子もおごってください。私を一秒も一人にしないでください」

「もちろん」

 売り場は薄暗かった。広い店内には非常灯の小さい明かりと非常口の上、緑色の強い光だけだった。それらがかろうじて、進む場所を照らしていた。壁際にノーメーカーの見本の洗濯機が並んで、その先にトイレがある。

 防犯ゲート。くぐったら、ちいさな踊り場風廊下。目の前真ん中に身障者用トイレ。向かって左が女子用、右が男子用。そして男子用奥横に掃除用具のドア。

 男子用トイレも女子用トイレもドアがトイレ側奥へと開いている。中は真っ暗で何も見えない。身障者用は人感センサータイプだから、動くと明かりが点く仕組み。そこだけが明るい。ドアの下の隙間からも、横一直線の光が漏れている。

 ゆうれいが動いているのか。

 女の声が中から聞こえる。

 田中と目が合った。

 声は身障者用トイレから聞こえる。

「やっぱり私帰ります。ムリですから」

 田中の小さなつぶやき。佐藤は彼女の口を手で押えた。

「静かに」と、耳元で囁く。

 二人身障者前のドアの前でしゃがんだ。

 確かに。女のすすり泣きだ。

「いいだろ、すごくないか」

 くぐもった男の声。よく聞く声だ。今日も事務所で聞いた。エリアマネージャーと話していたし、いつも佐藤を人殺しだと怒鳴る声。

 ドアの取手横に、使用中の文字。中から鍵をかけている。

「もっと声出したらどうだ」と、男。

「はあはあはあはあ」

 連続的な激しい呼吸。

 小さな泣き声が響く。

「あああああああ」

「もっと声を出せよ」

「ああああ。いじわる」

「これはどうだ」

「いいいい、いい。もっと、もっと」

「じゃあ、大きく声を出せよ」

「あああああああ」と、女。

「どうだ、おい。いいだろう」

「いい、いいいい」

「はあはあはあ」

「ひいひいひい」

「ううううううううううう」

 男の声と女の声が交じり合う。

 田中を見た。田中も唖然な表情でこっちを見ている。

「もっと、もっと。もっと、ちょうだい」と、女の声。

「どうだ」と、男。

「ああああ、やめないで」と女。

「すごいだろ」と男。

「はあ」

 佐藤のため息ほどの言葉が漏れた。

 娘のミサキが、学校の七不思議には全部理由があった、って言ったことを思い出した。

「ひいいいい」

 耐えられなくなったのか、田中から声が漏れた。慌てて田中の口を押えたが遅かった。

 今まで聞こえていたあえぎ声が消えた。

 田中を引きずって、すぐ横の男子トイレに入った。開けっぱなしのまま、ドアの裏に二人で張り付いた。田中は腰を抜かしている。男子トイレの床タイルに手をついた彼女。その口に手を置いている佐藤。ドアの裏はちょうど男子用の小便器。二人の背中にしっかり当たっていた。汚くても、手は離せない。ばれたら、二人とも殺される。いや、殺されはしないか。

 身障者のトイレのドアが開いた気配がした。二人、暗闇の中で声を潜めている。

 心臓の鼓動がはっきりと大きく、聞こえていた。

「やっぱ、誰もいないよ」と、女の声。

「絶対、なにか音が聞こえた」と男。

「ハイヒールゆうれいかもね」と、女は言うとケタケタと笑った。

 しばらく息を殺していたが、再度あえぎ声が始まった。数分後に、ゆっくりとドアの裏側から離れて、男子トイレを出た。二人とも腰を抜かして、赤ちゃんの様にヨツンバに這いながら、そのまま階段に続くドアを開けた。そして、ドアを閉めると腰を抑えながら今できる最大のダッシュで下に降りた。恐ろしいものを見たにもかかわらず、なぜかいつものルール通り監視カメラの前で、鞄を大きく開けた。出口のドアを開け外に出て、駐車場までの道を欽ちゃん走りのような、競歩のような、とにかく不格好に走った。足は絡まって上手く動かなかった。そしてあいさつも交わさず、お互いを感じあうこともせず、各々車で家路を急いだ。


 次の日、大量のお菓子とサンドウィッチを持って出勤した。お昼休みの二時すぎ、休憩に先に入っている田中を見つけ、テーブルに山盛りの買い物袋を乗せた。

「あ、佐藤さん。ありがとうございますぅ」

 昨日とはうって変わって、田中は落ち着いて佐藤を見上げた。

「ごめんね、昨日」

 佐藤の表情が和らぐ。

「人間が一番怖いですね」と、田中。

「やっぱさあ、結局ゆうれいの正体なんてこういうものだったりするんだよね、すっきりした」

 そう言った佐藤は立ち上がったまま、周りを見渡した。二人以外誰もいない。更衣室を覗いて、外に続くドアを開けた。やっぱり誰もいない。

 田中はスーパーの袋を覗いた。チョコレートの箱をおもむろにつかんで取り出した。

「こんなお菓子じゃごまかされませんよ。足りません」

 田中は箱を開けて、包み紙をとりチョコレートを口に入れた。

「本当にごめんね」

 佐藤は両手を重ね、しっかり謝る。

「そうですよ。逆にゆうれいの方がよかったです」

「そうかな」

 田中がチョコレートを渡してくれた。それを受け取った。袋を剥いて口に入れた。

「面白かったのに。録画するのを忘れていたね」と佐藤。

「やめてくださいよ。そんなことする必要ありませんから」と、田中が返してきた。

「あーあ。証拠押さえるチャンスだったのに」

 佐藤はため息をついた。

「だから。やめてください」

「私、トイレの花子さん見たんです。トイレの花子さんは身障者用トイレにいて、男と女、二人いるんですよ。知っていました? 二人はトイレでHをするんです。エロですよねって、店長に言ってやろうかな」と、佐藤。

「佐藤さん」

 田中が立ち上がった。

「うそ、うそ」

 佐藤はそう言うとうなだれて、テーブルの天板に顔をうずめた。

 田中は店長に怒鳴られるが、死ねとまでは言われない位置にいるパートなのだ。

「そういえば、あれから携帯の存在忘れていたんだよね。ショックで疲れて、夕食も食べないで風呂も入らず寝落ちしたんだ」

 田中からは返事がない。見ると、お菓子を物色していた。

 佐藤は立ち上がって、休憩室内にある更衣室のドアを開けた。中に入って、ずらっと並んだロッカーの横にあるハンガーラックから、かけてあるダウンジャケットを取り出した。ポケットをさぐる。あった。携帯。取り出した。電源が切れている。

「え?」と、つぶやいた。

 バッテリーが空になっていた。昨日、出かける前に充電状況を確認していたはずだった。

「げげっ」

 変な声がもれる。

「佐藤さん、どうしました?」

 休憩室から、田中の声が聞こえた。

「何でもない」

 答えて、ロッカーのドアを開ける。鞄をまさぐり、モバイルバッテリーを出して、充電しながら起動。真っ暗な画面からメーカーのロゴが浮かび上がる。少しして、いつもの画面へ戻った。録画のアプリを起動してみた。長時間録画されている形跡があった。

 更衣室を見渡した。誰もいない。イヤホンをつけて、再生スイッチを押した。

 画面は真っ黒。音だけが聞こえた。

「出たんですよ、トイレの花子さんが。出ました。聞こえたんです。すすり泣く声が」

 田中の声から、スタートしていた。

「えええっ。今日?」と、佐藤の大声。

「今です」

「いま」

「もう、怖くて。一緒に帰る人がいなくて。本当に怖かったんです」

「店長は?」

「川崎さんとバックルームに。なんか在庫が合わない商品があって、本部に朝イチで報告しなきゃいけないらしくって。調べるから先帰ってくれって。レジ締めして作業終わって退勤きって帰ろうと思ったらトイレから女の泣き声が聞こえて。走ってここまできました」

 二人が更衣室を出て、階段を降りたところまでは、はっきりと会話が入っていた。だが。そのあと、原因の分らないノイズが少しずつ大きくなり、佐藤と田中の声をかき消した。

「コツッ、コツッ、コツッ」

 トイレのあたりから、床をかかとで押し滑らしているような、まるで重い体を引きずって歩き回っているような不快な音が聞こえてきた。エアコンの機械音でも、モニターの音でもなかった。

 トイレでの店長と山崎の情事の声が奥で小さく聞こえる。その声を上書きするような女の声が響いた。

「オマエラ、ニドトココニハイッテクルナ。ツギハコロスゾ」

 画面に白い光が入っていた。ゆがんだ女の顔だった。


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