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逆鱗の話
窓を見るとあいつが逆さまにぶら下がっていた。
ガラス越しに顔だけ覗いていて短くはない黒髪が垂れている。
「切味。あんた何回ぶら下がるなって言えば理解できるわけ!?」
笠原さんが窓を開けて怒鳴る。
殊更切味ちゃんは耳を両手で塞いでいる。
「怒るな。鮫口。皺が増えるぞ」
いま逆鱗に触れた音がしたんだけど切味ちゃん大丈夫かな?
笠原さんは窓をピシャリと閉めた。
「シキ。玄関の鍵閉めてきて。いますぐ。子供たちにも戸締りちゃんとするように言っといて」
「ラ、ラジャー」
窓を叩きながら切味ちゃんが「そ、そんな殺生な?!」とか言ってるけどガン無視。
正直逆らうのが恐い。
「待つのじゃ既死期! 早まるでない!」
「じじい言葉出てるよ」
「あぅ」
切味ちゃんは逆さまのまま涙目になる。本人いわくじじい言葉は黒歴史なんだそうだ。矯正してるのだけど興奮すると地が出る。私はかわいいと思うが。
部屋を出て玄関を目指した。なるべくゆっくりしたペースで。




