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痛覚の話
痛みってのはある一点を通り越してしまえば痛みではなくなるらしい。呼吸が不可能だった。やらないを経験したことはあったが出来ないを経験したことはなかった。初めての感覚に戸惑う。即死してないのは右胸だからか? 全身の傷口がただ、熱い。
却って俺は自然に笑みを作ることが出来た。機時の顔が驚愕に染まる。俺は機時の腕を掴む。
逆の手で懐を探る。あった。
機時が振り払おうするが無駄。密着した間合いで出来ることなど限られてるし、なにより本気の人間の覚悟はそんなことでは折れはしない。
機時惨告、お前は人間を舐めすぎたんだ。
「シキ、なりたいならお前が次の愛川になれ」
首だけで振り返る。声は掠れていてどこまで言葉になったかはわからなかった。だが俺はシキが頷くのをたしかに見た。
満足して俺は続ける。
「 見るなっ! 」
俺は『消しゴム』を使った。
俺の背後で多分シキが後ろを向いた。
俺は小さく「死ね」と言った。
そして俺と機時惨告が死んだ。




