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跳躍の話
殺されていたのは見知らぬ男だった。いや 俺はこいつを知っている。事前調査の際に目撃した依頼人の浮気相手だ。
近くで警報の音がする。通報? ミスはしていないつもり──、隅に集音機を見つけて俺は戦慄した。
ヤられた……
依頼人は元より俺が自分を殺しにくることを知っていたのだ。
この男を殺した罪を俺に擦り付けようとしている。弱みと邪魔者を一挙に打ち消す一石二鳥の策。
狭い家屋の中。狼狽える俺。警報が家の前で停止する。複数の人の足音。
どこかに逃げ場は…… 俺は咄嗟にベランダから屋根に上がることを思い付く。
死に物狂いで登り屋根から隣の屋根に跳躍。「上だ!」誰かが叫ぶ。一番端の屋根まで追い詰められた俺。次の屋根が遠い。目算六メートル。背後は警察。選択肢はない。俺は跳んだ。着地点に足を伸ばす。あと50センチで、落下を始める。
べちゃり
不快な音が自分の内側から聴こえた。
……という妄想を俺はおおよそ六秒のあいだに組み立てた。




