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過去の話(青井ノ影打)
腐臭が鼻を突く。
構わずに踏み込むと地下の空間には拘束された子供が一人呆けていた。
口は開かれて、眼は虚ろ、垢まみれの体には何も身につけていない。
外傷はない。
歳は十歳前後の様だがやせ細っていてそれが正確かはわからない。
俺は視線を動かす。
一人の死体と致死量の数倍に見える血液が床に黒く乾いている。
恐らく壊し治しまた壊しまた治す作業を延々と繰り返したからだ。
ハラワタに蛆が沸いたのは生前だろうか、既に食い尽くされていた。
ふむ、どうやら愛川静誕は死んだらしい。
しかし俺にどうしろというのか?
愛川は三ヶ月前、失踪する寸前に今日のこの日にここに来いと言ったが、俺に何をさせる気だったのか。
「まったく、どうも俺には他人の心がわからない」
一人言のつもりで溢すと泣き声が漏れた。
勿論、俺からではない。
子供からだった。
「…………」
俺は俺がいま何をしたいのか考えてみる。
決まっている。
『泣いている子供を見たら、助ける』、だ。




