襲撃の話 亡霊の話
姉ちゃんがいた。たくさんのナイフを持って構えている。
草原獅四吼が僕を殺そうと地面を蹴る。
その瞬間に僕と彼を隔てるように投擲されたナイフが刺さる。前に出ようとしていた彼が数歩下がり、舌打ちを一つしてナイフの飛んできたほうに向き直る。それからボクシングと中国拳法の中間みたいな、奇妙な構えを取る。半身立ちで右手は顎の側で握られているが、左手に力が入っておらずだらりと垂れ下がっている。
「引いて。お願い」
「断る。殺意を持ってきたものには俺は容赦しない」
空気にヒビが入るのを感じた。
「引けっつってんだろうがゴミぃっ!」
喉の奥から絞りだすような怒声をあげて姉ちゃんが動く。ナイフを投げた。草原はそれを左手で掴んだ。人間技じゃない。風を巻いて姉ちゃんが懐に入る。両手には二本のナイフ。素手の草原に襲い掛かる。パンッ。と鋭い音がした。翻った左手で姉ちゃんのナイフが片方、叩き落される。もう片側は半歩だけ下がってかわし、空いた隙間に右拳を放り込む。
拳を見ないまま頭を下げてかわした姉ちゃんが体を振って草原とほぼ同時に蹴りを放つ。脛同士が激突して鈍い音がする。体格で劣る姉ちゃんが衝撃でよろける。草原は足を引き戻し、右手で目を狙う。姉ちゃんが無手の左手を振り上げた。たしかに何も握られていなかったはずのそこに、黒いナイフが突然現れる。ギリギリで軌道を変えた草原の指を浅く切り裂いて、振りぬかれる。草原が後ろに下がる。肉食獣の笑みはまだ消えない。
「それが“亡霊 (ファントム)”と名高い変幻自在の斬撃の種か? くだらん」
「脳みその足りてない筋肉バカよりましだと思わない?」
今度は草原から仕掛けようとして、足を止めた。
姉ちゃんが上着を脱いで大きく振った。あちこちから零れた無数のナイフが宙に浮かぶ。その一つ一つを丁寧に指で軌道を整え、三十数本のナイフが一斉に草原へと向かった。
「“捕食者”が殺し技、第一位 『蜂の巣』 ……だっけ」




