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蹴撃の話
薄手のグローブをはめた二十代前半らしい男が出てくる。そいつが僕に向けて、真っ直ぐ拳を突き出した。僕は驚いて尻餅をついた。真上を拳が掠めていく。
ぶおんと風を切る音。
こいつは危ない。近づくべきじゃない。しかしこの間合いで離れられるわけもない。
拳が引き戻され、左足が神速で動く。
僕は決して運動神経の悪いほうではない。むしろバスケットで鍛えたそれは並以上だと自負している。けれど男の蹴りの速さに僕は反応できなかった。僕は掛け値なく吹き飛んだ。人間って蹴られて宙に浮くことがあるんだなと、痛みの中で考える。苦笑いが浮かぶ。
「“守り屋”草原獅四吼、一応名乗っておこう」
「守り屋? 殺し屋の親戚かい?」
「ああ、その通りだ」
男は肉食獣の笑みで僕を見た。
僕は立ち上がれない。脳みそがまだ揺れているのだ。ああ、僕はここで死ぬんだなとなんとなく思った。まだ土屋を殺していないのが心残りでならなかった。
「カズっ」
誰かが叫んだ。




