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欠落の話
出てきた中年の女性が持つ雰囲気は明るかった。一時は鳴り止まない電話にノイローゼに近い状態になっていたのかもしれないが、八年もの歳月が開けば、立ち直るには充分か。また作り物でない笑みが込み上げてくる。僕は彼女をぐちゃぐちゃに壊してやりたいと思った。
「サインお願いできますか」
娘さん宛てになっている荷物とペンを渡す。特に疑問を持たずにその人がペンを受け取り、署名欄に視線を落とす。僕は荷物の下から、彼女にスタンガンを押し当てた。小さく短い悲鳴のあと、彼女がばったりと倒れた。振り返って目撃者を確認する。大丈夫だった。彼女の皺の多い手足を縛り、持ってきた運送物を開けてボールキャグを取り出して口に咥えさせる。一度家から出て、バイクを別の場所に移動させた。一緒に運送屋の制服を脱いで、徒歩で家に戻る。誰もきていない。
家の中をじっくりと見て回る。
僕が失ったものと彼らが持っているものを、ゆっくりと眺めていった。




