エピローグ:とある日の灰島冬美
名前を呼ばれた気がして振り返ったけれど、知り合いらしき人は誰もいなかった。なんだろ。なんだろ。気持ち悪っ。
「どしたの?」
中園四季が私の顔を覗き込んでくる。
「……なんでもない」
「歯切れ悪いなぁ」
「誰かに呼ばれた気がして」
「私じゃないよ?」
「だよねえ。変なの」
知ってる声だった気がする。懐かしい感じがした。
私の周りで死んだ人は結構多い。リアルコナンくんだ。事件を解決したりはしないけど。
灰島 好彌。
京本 証。
坂北 カオル。
葛西 義人。
灰島 慎吾。
須藤 南。
どれとも違うと思う。かといって生きてる人間に心当たりは……。
あ……。お兄ちゃん?
急に足を止めた私を四季が怪訝そうに見る。
「講義、遅れるよ?」
「あ、うん」
気のせいだと思う。灰島冬季は六年前にふらりと帰ってきて、またふらりとどこかに消えてから姿を見せていない。廃縞十鬼とか名乗って殺し屋をやっているんだと自慢げに語っていた。真性のアホだけどたぶん事実だった。全身ナイフで武装していて対刃繊維服で現れたら信じざるをえない。
一緒に母さんを食べたあの日から冬季も私もおかしくなった。
「大丈夫? 熱でもある?」
四季が私の額に手をあてる。乱雑に振り払って「大丈夫よ、馴れ馴れしくしないで」突っ撥ねてみる。
「これが流行のツンデレねっ!」
きゃーきゃー言って四季は楽しそうだ。幸福を自己生産できる人間って得だなぁ。私はため息を吐く。それから次の講義に遅れないように少し歩みを速める。




