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壊死の話
「屋上を出て隠れていてくれ。すぐに終わるから」
ダメだ。
いま離れたらどちらかが絶対に死ぬ。
なのに切味ちゃんの殺気は痛烈で、試験管を握った成木は見たことない恐い顔をしていて。
「ゆかせて貰うぞ」
「来い」
切味ちゃんが抜き身の仕込み杖を払い、成木の眼球に向けて血を飛ばす。成木が試験管を放る。軌道上の血液を撥ね飛ばし、さらに二本。そして僅かに後退。構わず踏み込もうとした切味ちゃんの動きが、突然止まった。
「……、?」
成木は新しい試験管を袖の内から落とし、五指に挟む。正面に隙を見せないように構える。
ヒュン、と風を切って私の顔の横を何かが通り抜けた。ボウガンの矢だった。成木の背中に、心臓のある左側に突き刺さる。
切味ちゃんの体が揺れた。倒れる。
「やっと隙見せたな」
死出くんがニヤニヤと嫌な笑みを見せる。手にはナイフ。
「苦労したよ、ほんと」
私の後ろで美咲が呟くように言った。
パリンと乾いた音を立てて試験管が割れる。




