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第二話 孫策伯符(そんさくはくふ)

乾いた風が吹き抜ける広野に、火花のような剣閃が奔った。鋼と鋼が激突する音が空に響き渡り、周囲を取り巻く兵士たちは固唾をのんで見守っていた。



「これが……孫策……!」



高木剣人は南斗聖剣を握りしめ、目の前に立つ若武者を見据えた。剣人の全身には汗がにじみ、腕には打ち合いによる衝撃の名残が重く骨のずいまで響き渡っていた。



対する男は、まさに英雄の風格を纏っていた。鋭い目つき、しなやかな筋肉、そしてその手には銀に輝く東科帯長剣ひがししなたいちょうけん。彼こそが、呉の若き獅子、孫策伯符そんさくはくふであった。



高木剣人の南斗聖剣


VS


孫策伯符の東科帯長剣



「いざ、勝負!!」「はーー!とりゃーーーー!!!!」


「キーン!カンカン...!!キーン!」


「お前、強いな。だが……まだ俺には届かん!」


孫策が大地を蹴って突進する。剣人も呼吸を整え、南斗聖剣を振るう。軽量かつ鋭利なその剣は、素早い動きに最適化されていた。だが孫策の一撃一撃には、質量の違いからくる重みがある。



何度も刃が交錯する。斬って、弾き、躱して、打ち込む。両者の攻防はまるで舞のようであり、同時に戦場に轟く嵐でもあった。


「剣人の剣速、最高潮に達してる……でも孫策、すごい……」


遠くから見守るのは、剣人のガールフレンド・大塚京子。彼女の腕には、Xwatchが光っていた。今、Xwatchは小窓のYwatch、幸美教授のZwatchと内蔵型無線でリンクされ、有道からのスカウターを通じて、孫策と剣人の、打ち合いの戦い現場データを常時共有していた。


「京子、バイタルに異常は?」


「剣人くん、心拍は高いけど意識はクリア。問題ないわ!」


「孫策のデータも揃ってきたよ……すごいぞ、これは」


そう言ったのは、菅野有道。彼はヘッドマウントディスプレイのスカウターを通して、孫策の戦闘能力をリアルタイムで解析していた。スカウター機能が孫策の身体から読み取った数値が、彼の視界に浮かび上がる。


【スカウター画面】・・・・・・・・・・

孫策伯符


武力:91 知力:81 政治:89 魅力:99 体力:70 統率:100


※三国志に登場する英雄。後漢末期の群雄の一人。三国時代の呉の基礎を作り上げ、長沙桓王と諡された。


※孫権・孫尚香たちの兄。周瑜は同い年の親友にして義兄弟。20代前半で江東を平定した。言わば孫呉の基礎を作った人物である。


「うわ……バグか? 全部Aランク超え……いや、これが“孫策”か……!」


「孫策伯符、おそるべしです...」


菅野の声が驚愕に震える。


戦いは最高潮に達し、二人の剣が同時に振るわれた。



――ガァン!!


互いの刃が真正面からぶつかり合い、火花が閃光のように走る。


その瞬間だった。


「やめよ、策!」


地鳴りのような声と共に、一人の大将が戦場へ現れた。


堂々たる体躯、黒髭を蓄え、王者の風格を放つ男。彼こそ、孫策・孫権の父にして呉の礎を築く男、孫堅そんけんであった。



【スカウター画面】・・・・・・・・

孫堅文台


武力:81 知力:78 政治:72 魅力:80 体力:66 統率:89


※孫呉の礎を築いた孫策・孫権・孫尚香らの実父。

※黄巾の乱が起こると孫堅は鎮圧に力を注ぎ、後に長沙の太守となった。江東の虎の異名をもつ。


「父上……」

「それ以上は無用の戦だ。お前も分かっているはずだ、策」


孫策は息を整え、東科帯長剣を鞘に納めた。そして剣人の方へ歩み寄る。

「……高木剣人、お前強いな。身なりも、目にしない格好だし、どこから来たのだ?」


「令和だ。未来の日本から、来た。いや、孫家の刀に触れたら、何か磁器のようなものが出て外は雷のような、稲妻のような、大きな音が鳴り、五人で、タイムスリップしたようだ」


剣人は、刀をしまいながら言った。


「そうだったのか、いま、俺たち、孫家は、後漢末期の184年の中国において、太平道の教祖張角を指導者としている黄巾族を退治している。 目印として黄巾と呼ばれる黄色い頭巾を頭に巻いたこの組織は、後漢への反乱軍であるので、黄巾賊と呼んで成敗しているのだが、各地の豪族が、違う思惑で動き始めて困っているさなかだ。」


「どうか、その南斗聖剣で、孫家に力を貸してくれないか?」


孫策は、友情の眼差しで、剣人を見つめた。


二人の打ち合いを見ていた孫堅がいった。


「剣人くんといったかな、少年。君に、孫家の仲間になって欲しい、どうだろう?」


「孫策の言う通り、黄巾賊を倒すために立ち上がった豪族たちは、後漢の皇帝を助ける名目で、見せかけは正義をかざしているが、みな正義をきて、後漢に代わる天下を狙っている。剣人少年、どうか我々を助けてくれないか?」


剣人は、有道、京子、小窓、幸美教授の顔を見つめて、表情を確認した。

みんな、微妙だ・・・


「そうだ、名を授けよう」


孫堅は真剣なまなざしで言った。

「お前のその剣と志、孫堅軍の総帥である私が認めた。これよりお前は、孫剣を名乗れ」



「孫剣……」

剣人の胸に、複雑で、それでいて、何か、言いようのない、熱いものがこみ上げてきた。


今の令和の日本、閉塞した社会は、この三国時代前、後漢よりやり直せば、歴史は変わるかもしれない。

それは、未来の戦争や、貧困も、世界が一つにまとまれば、きっと未来に起こる人類の不幸はなかったはずだ。


令和から来た戦士たち5人に、みな、そんな想いが込み上げてきたのだった。

「孫堅さん、孫策さん、光栄です……その名、孫剣の名を、有難く頂戴します。そして、孫家を必ず守り抜いてみせます」


孫策と剣人、二人は、激しい戦いの果てに、互いの心を認め合い、父親の孫堅も、剣人の太刀筋、その実力をただものでないと感じ取っての、決断でああった。



***

その夜、五人は孫家のお城に招かれた。宮殿の中では、簡素ながら温かい歓迎が用意されていた。


そんな中、かわいらしい孫家の女性が出てきた。名を孫尚香そんしょうこうといった。


「みなさーん、私は、孫策、孫権兄の妹で、孫尚香と言います。よろしくでーす。孫堅父上が、みなさんに、着替えるようにと、この服をプレゼントしにまいりました。以後、お見知りおきくださーい」


「京子さん、小窓さん、幸美先生、着替えてくださーい。」


「えー、素敵!!!」


京子と小窓は、孫尚香の持ってきた衣類に感動しながら、大はしゃぎで着替えた。


「この時代の洋服、着物も、ちょいーかわいい!」


「小窓にあうよ!」


「京子、王女みたい・・・可愛い・・」


菅野有道は、孫策の数値データを山中教授に見せながら言った。


それにしても、孫策という男


「将来は呉を率いるカリスマになりますよ、きっと!」


「ええ……まるで歴史が呼び寄せたような男ね」


「でもきっと、弟の孫権くんも、ただものではないわ。」


「あの子の私たちを見る目が、すごく気になるの。知的で、クールで、それでいて、魅力がすごいの。あの子もただものではないわ。」



【スカウター画面】・・・・

孫権仲謀


武力:81 知力:78 政治:72 魅力:80 体力:66 統率:89


※孫堅の息子で、孫策の弟、孫尚香の兄。三国志に登場する英雄。字は仲謀。


※孫権とは三国志の英雄であり、後の呉の皇帝となった人物である。


着替えを終えた京子はXwatchのマップ機能で現在地を測定し、近隣の地形を再構築していた。


「長沙市は、未来の中華人民共和国湖南省の省都。中国中南部に位置する特大都市で、「新一線都市」及び全国交通ハブ都市の一つとして位置づけられている。歴史を持つ古都。その昔は、孫堅文台が長沙太守であった。」なるほど・・・



一方、小窓は兵士たちに自らの防具を見せ、実際に攻撃を受け止める様子を実演して見せていた。「私は、弓道部なので、弓矢も得意でーす!ちなみに、防具のほうは、衝撃吸収率、布の五倍です!」


「おおっ、軽いのに頑丈だ……すごいぞ、この娘!」


未来の技術が、少しずつこの時代に根を下ろしていく。その中心にいるのは、令和からやってきた五人の若者たち。


そしてその筆頭、孫剣――高木剣人。


「孫策に孫権の孫兄弟、そして父の孫堅に、娘の孫尚香……この時代に来た意味、見えてきた気がする」


南斗六聖剣が、静かに鞘の中で光を放っていた。

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