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第十四話 劉備玄徳(りゅうびげんとく)

春風が吹いていた。

だがその風は、ただの優しさではなかった。

焼け落ちた洛陽の城門をくぐり抜け、朽ちた屋根の上を抜け、焦土と化した都の地表を撫でるたび、過ぎ去った戦火の記憶を呼び起こしていた。


かつては漢の威光を誇った帝都。

いまやその姿は見る影もなく、民の嘆きと兵の怒号だけがこだましている。

しかし、そんな地に、一筋の光のような影が現れた。


遠くから蹄の音が響き、反董卓連合軍の野営地に、馬の砂煙が迫ってくる。

やがて旗印が見えた。


黄地に「備」の一文字。


「おい、来たぞ……劉備玄徳だ!」


伝令の声が飛ぶ。陣内にざわめきが走る。


やがて姿を現したのは、一人の長身痩躯の男だった。

漆黒の鎧をまとい、澄んだ目に慈悲を宿すその男の名は、劉備玄徳りゅうび げんとく

時に年三十半ば、貧農の出とはいえ、漢中王室の末裔を自称する男である。


「洛陽の空気は……重いな」


馬上から、劉備は静かに呟いた。

その口調は柔らかだが、内に燃える覚悟は確かなものだった。

彼の腰には、左右に吊られた二振りの剣——雌雄一対の「双股剣そうこうけん」が光を放っていた。

それは一説に、かつて黄帝が佩いたとされる伝説の対剣であり、劉備の清廉と勇気の象徴であった。


彼の背後には、ふたりの屈強な男が控えていた。


一人は、長い黒髯をたなびかせ、凛とした面持ちで馬を進める。

肩に掛けられた大刀、その名も**青龍偃月刀せいりゅうえんげつとう**は、見る者に畏怖を与える。


関羽雲長。


義に生き、礼に従うこの男は、劉備の右腕にして、忠義の化身と呼ばれるに相応しかった。

青みを帯びた顔と鋭い眼差しは、ただ立っているだけで人を圧倒する威厳を持つ。


そしてもう一人。

やや小柄ながら、筋骨隆々たる身体に、黒き蛇矛だぼうを担いだ男。

鋭く光る眼、荒れた声、情熱と怒気を同時に抱えるかのような雰囲気。


張飛翼徳。


その声を発すれば、山が揺れ、獣も逃げるといわれた豪傑。

だが、豪放磊落なその性格の奥には、兄弟を誰よりも慕う情の深さがあった。


三人は並んで馬を進める。

まるで、かつての「桃園の誓い」の情景を、再び浮かび上がらせるかのように——


「兄者。洛陽の地に、我らが立つ日が来ようとはな」


張飛が、ぽつりと呟いた。

関羽が眉をしかめる。


「だが、見るがいい。民の嘆き、火の海となった都……これが、董卓のやり口だ」


「……許せぬ」


そうつぶやいたのは、他ならぬ劉備であった。

その眼には、深い哀しみと怒りが浮かんでいた。


「我らは……この民の苦しみを、見過ごしてはならぬ。漢王朝の血を継ぐ者として、命を懸けねばならぬ時が来たのだ」


その声は低く、だが確かな意志を伴っていた。

洛陽の風が再び吹き抜け、焦げた瓦礫の隙間を鳴らす。


そのとき、陣幕の奥から、別の一団が劉備のもとへ歩み寄ってきた。


「劉玄徳殿。ようこそ」


迎えたのは、反董卓連合の盟主・袁紹、そして孫堅、曹操らであった。


だが、彼らの表情は一様に曇っていた。

董卓が都を焼き払い、長安へ遷都し、なおも勢力を拡大しているという現実が、彼らの心を覆っていたのだ。


その中で、劉備は一歩、前に出る。


「この劉備、たとえ軍勢少なからんとも、天命を信じ、董卓を討つ覚悟で参った。桃園の誓い、いまも胸にあり——この戦、命を賭す所存にございます」


関羽と張飛が、無言でその背に続く。

三人の姿に、一瞬、重苦しい空気が動いた。


それを見た曹操は、かすかに笑みを浮かべた。


「……この三人、名はまだ知られておらぬが、やがて天下の名を轟かせるであろう」


「将軍、彼らは……」


「見ろ、あの剣。双股剣に青龍偃月刀、蛇矛——三器が揃いし時、天下もまた、動き出す」


やがて、日が傾き、洛陽の空が赤く染まった。

その色は、焼けた都の残影か、それともこれから始まる血戦の兆しか。


しかし、その夕日に照らされながら、劉備は静かに目を閉じた。

己の信じる正義が、たとえ弱き者の道であれ、背くことはできぬ。


その想いは、風に乗り、やがてこの乱世のどこかに届くであろう。


——桃園の誓い、再び焦土に響く。血は繋がらずとも、その絆は兄弟を超えていた。



劉備の一行は、盟主・公孫瓚の庇護を受けながら北方より馳せ参じた。

旅路は過酷であったが、董卓の暴政を前に、黙ってはいられなかった。


「義に生きる者として、悪を許すわけにはいかぬ」


それが、劉備の信念だった。



洛陽西の野営地、反董卓連合の本陣にて——


白銀の鎧をまとい、居丈高に座するのは、連合の盟主・袁紹本初。


彼の両脇には、策士・曹操孟徳と、傲慢なる袁術公路の姿があった。


劉備は静かに進み出て、袁紹に一礼する。


「この劉玄徳、遅れて参上いたしました。今後とも連合軍の一兵卒としてお力添えいたします」


袁紹は軽く顎を引き、半ば面倒くさそうに返す。


「うむ。貴殿らの働きには期待しておるぞ。……して、戦況を知りたいか?」


劉備が頷くと、袁紹は地図を広げた。


「先陣は、孫堅軍。すでに汜水関へ向けて進軍した」


「汜水関……董卓軍の第一防衛線ですね」


「うむ。そして、その背後に控えるのが虎牢関。貴殿らには、その備えについてもらいたい」


「承知いたしました」


劉備は深く頭を下げた。



本陣を後にした劉備らは、軍営に戻った。


張飛が声を荒げる。


「ちっ、先に戦ってんのが孫堅ってのは面白くねぇ。俺が出れば、一撃で決めてやるのによ!」


「翼徳、そういうことではない」


関羽が厳しく諫めた。


「我らの任務は、虎牢関の守備。油断すれば董卓軍が背後から来る。そこを守らねば、連合軍は潰れるぞ」


「わかってるさ……だがよ、俺だって手柄を立ててえんだ」


関羽が静かに笑みを浮かべる。


「その時は必ず来る。それまで、兄者を信じよ」


劉備はふたりを見て、ふと昔を思い出す。


あの日、桃の花が咲き誇る園で、三人は剣を掲げて誓った。


——この乱世を終わらせ、義をもって世を治める。


たとえ血は繋がらずとも、志は一つだった。



その夜、軍営には微かな風が吹いていた。


劉備は静かに帳の外に出て、空を見上げた。


月は半分。空には雲が流れている。


そう呟いたとき、公孫瓚軍が到着した。


「劉備殿、遅くなった!」

公孫瓚の声であった。両脇に、孫剣、京子の姿があった。


「これは、公孫瓚将軍、この劉備待ちわびておりましたぞ!」

「これ、関羽、張飛、こちらえ。公孫瓚将軍どののご到着だ。お越しになられたぞ」


「兄者、誰が来た?」


張飛であった。

関羽も足早に駆けつけた。

「こ……これは、公孫瓚殿、お噂は兼ねており聞いております」


劉備はゆっくりと頷く。


「そうだ、雲長。こちらが、若かりし頃、ともに盧植先生の教えを受け、共に学んだ、かつて同じ机を並べ、剣を交わした仲でもある、公孫瓚将軍です。


「あの頃の兄弟子が、いま幽州の地に勢力を築いているとは……大変嬉しく存じます。」

劉備は言った。


剣人こと孫剣は、この幕舎で、出会った3人をスカウターで観察していた。


―スカウター画面―

劉備玄徳りゅうびげんとく

武力:82 知力:82 政治:99 魅力:127 体力:80 統率:99

※劉備は、後漢末期から三国時代の武将、蜀漢の初代皇帝。字は玄徳。 黄巾の乱の鎮圧で功績を挙げ、各地を転戦した。後は諸葛亮の天下三分の計に基づいて益州の地を得て勢力を築き、後漢の滅亡を受けて皇帝に即位して、蜀漢を建国した。その後の蜀、魏、呉による三国鼎立の時代を生じさせた。蜀の地に蜀漢を築いた英雄。



―スカウター画面―

関羽雲長かんううんちょう

武力:107 知力:92 政治:99 魅力:107 体力:100 統率:100

※関羽は、中国後漢末期の武将。字は雲長。子は関平・関興・関索。蜀漢の創始者である劉備への忠義を貫き、その人並み外れた武勇や義理を重んじた伝説の武将。

武器は、青龍偃月刀。



張飛益徳ちょうひえきとく

武力:106 知力:75 政治:59 魅力:77 体力:102 統率:99

※矛を得物とし、後世で演義に語られる場面では明時代の武器・蛇矛を武器にする。

彼は1人で1万人に匹敵する強さを誇り、劉備と関羽を兄と慕う。従順な反面、酒での失敗や、部下への罰則が厳しすぎるという一面もあり、たびたび問題を興し、劉備たちを悩ます。

武器は、「張飛といえば蛇矛」というイメージが定着しており、彼を象徴するアイテムとなっている。


剣人はスカウター越しにこの3人を見て、あまりの凄さに、言葉が出なかったのであった・・・

これが、三国志の英雄たち、劉備、関羽、張飛の3人だ・・・



――洛陽の城内


華雄を失った董卓は、洛陽城内の宮殿にて震えていた。


「呂布……お前しかおらぬ。すべてを焼き払え。連合軍の希望を打ち砕け……!」


董卓の命に応じ、漆黒の甲冑に身を包んだ猛将が立ち上がる。


呂布奉先りょふほうせん――

天下無双と謳われし猛者。その背に担がれしは、神槍・方天画戟。



ついに、虎牢関の戦いへ突入する。

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