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最終話:仕事ではなく夢

 塔を出てから、数日が経った。

 

 勇者さまは深い森の中の古い遺跡。ダンジョンを攻略中だ。俺達は外で待機をしている。


 俺等をちらりと見て、ダンジョンに入っていった勇者さまが頭から離れねぇ。

 

 あの後味の悪い別れ。

 

 「次は見てるだけだ」と言った俺の言葉が、胸に重く残ってる。

 

 賢者トリオはいつもの調子だ。

 

 ユーリが杖を磨き、ゴウトが本を読み、スタンチクが指輪を弄んでる。

 

「ロイ、ぼーっとしてるわね。何考えてるの?」


 ユーリが冷たく言う。

 

「……何でもねぇよ」


 俺は目を逸らす。

 

 嘘だ。

 

 勇者さまのことしか考えてねぇ。

 

「嘘ね。顔に出てるわ」


 ユーリがニヤリと笑う。

 

「ロイ、勇者さまのことだろ?」


 スタンチクが言う。

 

 図星だ。

 

「うるせぇ。仕事の話だよ」


 俺は強がる。

 

 でも、心は揺れてる。

 

 勇者探知のヒットポイントが減り始めた。

 

「大丈夫かな、勇者さま」


 スタンチクが呟く。

 

 俺の手が酒杯を握り潰しそうになる。

 

「ロイ、落ち着きなさいよ」


 ユーリが言う。

 

「落ち着けるか。俺たちは勇者さまと話をしちまった。どんなやつか知っちまったんだ」


 俺は言う。

 

 声が震える。

 

「それは分かるわ。私だって、あの子に何か引っかかってる」


 ユーリが珍しく静かに言う。

 

「僕もだネ。あの笑顔見ちゃうと、死体を見るのが辛いよ」


 スタンチクが言う。

 

「神の試練とはいえ、某も心が重いな」


 ゴウトが呟く。

 

 俺は黙る。

 

 みんな同じ気持ちか。

 

 勇者さまと話した夜が、俺たちを変えた。

 

 酒を飲みながら、俺は思い出す。

 

 俺たちだって、昔は世界を救う旅をしてた。

 

 炎の谷、強風の砂漠、氷の山。

 

 いろんなダンジョンを攻略した。

 

 レベル1から始めて、賢者まで育て上げた。

 

 でも、「高位の魔物は倒しても復活する」と知った。

 

 俺たちの努力は無駄だった。

 

 魔王を倒す力はなかった。

 

 そこに勇者さまが現れた。

 

 光の勇者。

 

 魔物を完全に倒せる存在。

 

 俺たちは悔しかった。

 

 だから裏方の仕事を受けた。

 

 金のためって言ってたけど、強がりだ。

 

 世界を救う旅を続けたかっただけだ。

 

「ロイ、どうする気?」


 ユーリが聞く。

 

 俺は酒を一気に飲む。

 

 心が叫んでる。


 

 勇者探知機が赤く輝いた。ヒットポイントがガクッと減ったので警報が鳴る。

 

 30、20、10……そして0。

 

「また死んだ……」


 スタンチクが呟く。

 

 俺の胸が締め付けられる。

 

「回収に行くぞ」


 俺は言う。

 

 いつもの仕事だ。

 

 でも、足が重い。

 

 遺跡の中へ進む。

 

 戦闘の跡が広がる。

 

 魔物の死体。

 

 血の染み。

 

 そして、勇者さまが倒れてる。

 

「毎度ひどいな……」


 俺は呟く。

 

 頭に矢が刺さってる。

 

 血だらけだ。

 

「ロイ、運ぶよ」


 スタンチクが言う。

 

 俺は動けねぇ。

 

「ロイ!」


 ユーリが叫ぶ。

 

「……もう嫌だ」

 俺は呟く。

 

 みんなが驚く。

 

「何?」


 ユーリが聞く。

 

「もう死体運びは嫌だ。あいつと話をしたせいで、この仕事がこんなにつらくなるとは」


 俺は言う。

 

 勇者さまの笑顔が浮かぶ。

 

 死体を見るたび、心が潰れそうになる。

 

「ロイ、気持ちは分かるわ。でも、私たちは裏方よ」


 ユーリが言う。

 

「裏方か……」


 俺は言う。

 

 声が震える。

 

「勇者さま、寂しいって言ってたネ。一人で戦うしかないって」


 スタンチクが言う。

 

「だから頑張ってたんだろ。俺たちが助けたせいで、温かさを知った。もう孤独は耐えられないって、ユーリが言ったよな」


 俺はユーリを見る。

 

「……そうね。私が言ったわ」


 ユーリが目を逸らす。

 

「俺もだ。勇者さまと話して、死体がただの物じゃなくなった。毎回、心が重いんだ」


 俺は言う。

 

 ゴウトが頷く。

 

「僕だってさ、あの子の笑顔見ちゃうと、こんなの運べないよ」


 スタンチクが言う。

 

 俺は勇者さまの死体を見つめる。

 

 もう我慢できねぇ。

 

「こんな仕事はもう辞めだ」


 決意が固まる。

 

「どうする気、ロイ?」


 ユーリが聞く。

 

「辞めてやる」


 俺は言う。

 

 みんなが驚く。

 

「勇者さまの回収の仕事はどうするネ?」


 スタンチクが聞く。

 

「知るか。王様や大臣に何言われてもいい。この仕事はこれで終わりだ」


 俺は言う。

 

「ロイ、馬鹿ね。でも、嫌いじゃないわ」


 ユーリが笑う。

 

「僕もロイにしたがうネ」


 スタンチクが言う。

 

「神の導きならぬ、ロイの導きに従おう」


 ゴウトが言う。

 

 俺達の意見は一致した。

 

 

------------------------------------------------------------------


 その後、俺たちは勇者さまを王城へ運び、復活の儀式に立ち会った。

 

 いつも通り光に包まれて、勇者さまが棺桶からゆっくり顔を出す。

 

 黒い髪が乱れて、目を擦りながら起き上がる。

 

 まだ状況が分かってねぇみたいだ。

 

 王様が玉座から立ち上がり、勇者さまを見て言う。

 

「おお勇者よ、死んでしまうとはなさけない」


「ごめんなさい……」


 勇者さまが申し訳なさそうに呟く。

 

 小さな声で俯く。

 

 ふざけやがって。王様も、そこの小さな勇者さまも。

 

 俺は怒っていた。

 

「情けないなんてことねぇ!」


 俺は叫ぶ。

 

 王様が驚いてこっちを見る。

 

「何だと!?」


 王様が声を荒げる。

 

「勇者さまは一人で頑張ってたんだ。情けないのは見てるだけの王様だろ!」


 俺は言う。

 

 胸が熱い。

 

 勇者さまが目を丸くして俺を見る。

 

「そうだわ。王様、あんたが魔王倒しに行きなさいよ!」


 ユーリが冷たく言う。

 

 杖を手に持って、王様を睨む。

 

「王様、勇者さまを責めるなんてひどいネ!」


 スタンチクが言う。

 

 指輪を弄ぶ手が止まり、真剣な顔だ。

 

「情けない王様だな」


 ゴウトが呟く。

 

 静かに、でもはっきり言う。

 

 王様の顔が真っ赤になる。

 

 額に血管が浮かんでる。

 

「貴様ら、黙れ! 勇者は我が国の宝だ。一人で戦うのが定めだ!」


 王様が叫ぶ。

 

 勇者さまは復活したばかりで、ポカンとしてる。

 

 俺たちの言い合いを聞いて、首をかしげる。

 

「定めとか知るかよ。俺たちは冒険者だ。奴隷じゃねえ」


 俺は言う。

 

 勇者さまの前に進み、手を差し出す。

 

「勇者さま、これからは俺らが一緒だ。一緒に冒険しよう! 冒険ってのがどんなものか、俺が教えてやる」


 俺は言う。

 

 勇者さまが目を丸くする。

 

「俺と合わせて、前衛2、後衛3。理想のパーティだろ。冒険はつらいだけじゃないんだ。世界中を旅しよう」


 俺は笑う。

 

 勇者さまが少し考えて、笑顔になる。

 

「え、えっと……うん!」


 勇者さまが頷く。

 

 小さな手が俺の手を握る。

 

「貴様ら、何!? 勇者を連れ出す気か!」


 王様が叫ぶ。

 

 玉座を叩いて立ち上がる。

 

 兵士が動き出す。

 

 槍を手に、俺たちに近づく。

 

「連れ出すも何も、勇者さまの意志だろ!」


 俺は言う。

 

 勇者さまの手を引き、祭壇から降ろす。

 

「ロイ、急ぐわよ。王様、顔真っ赤よ」


 ユーリが笑う。

 

 杖を構えて、兵士を牽制する。

 

「僕、勇者さまと一緒なら嬉しいネ!」


 スタンチクが言う。

 

 指輪をポケットにしまい、準備万端だ。

 

「神の試練を超えた絆だな」


 ゴウトが言う。

 

 静かに微笑む。

 

 俺たちは勇者さまを連れて、王城の大広間を駆け出す。

 

 背後で王様が叫ぶ。

 

「待て! 貴様ら、裏切り者だ! 兵士、捕まえろ!」


 王様の声が響く。

 

 兵士の足音が近づく。

 

 槍の先が俺たちの背中に迫る。

 

 俺たちは王城の門を飛び越え、外へ出る。

 

 怒る王様と追いかけてくる兵士を背に、森の道へ走り出す。

 

「知ったこっちゃねえ。俺達は冒険者だ!」


 俺たちが叫ぶ。

 

 勇者さまが笑う。

 

「――俺達の冒険はこれからだ!!」


 みんなで声を揃える。

 

 笑いながら走る。

 

 夕陽が俺たちを照らす。

 

 新しい旅が、今、始まった。

 



打ち切りじゃないです!


読んでいただきありがとうございました!久しぶりに頑張りました。

感想いただけると死ぬほど嬉しいです

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