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七話:最上階


 俺たちはタワーを駆け上がる。

 

 勇者さまに会うためだ。

 

 国の「手出しするな」は頭にある。

 

 でも、宿屋で勇者さまと話して以来、彼女が何度も死ぬのを普通と思えなくなっちまった。

 

 ひとこと言いたくて、ここに来た。

 

「ロイ、急ぎすぎだよ!」


 スタンチクが息を切らしながら言う。

 

 俺は振り返らず進む。

 

「急がねぇと間に合わねぇだろ!」


 探知機がヒットポイント30を示す。

 

 まだ生きてる。

 

 でも、減り続けてる。

 

 魔物の死体を踏み越え、階段を跳ぶ。

 

 賢者トリオの魔法が背後で炸裂する。

 

 ユーリの氷が凍らせ、ゴウトの光が焼き、スタンチクの緑が吹き飛ばす。

 

「ロイ、落ち着きなさいよ!」


 ユーリが叫ぶ。

 

「落ち着けるか! 俺たちが話したせいで、勇者さまの死が普通じゃなくなったんだ!」


 俺は返す。

 

 胸がざわつく。

 

 あの夜の笑顔が頭を離れねぇ。

 

 最上階に着いた。

 

 広い円形の部屋だ。

 

 中央で勇者さまが戦ってた。

 

 ボスは魔法使いタイプの魔物。

 

 黒いローブをまとい、杖で骸骨兵やゴブリンを召喚する。

 

 勇者さまは剣を手に炎を放つ。

 

 だが、剣が折れてる。

 

 鎧がボロボロだ。

 

 肩から血が滴る。

 

「くそっ!」


 俺は剣を抜く。

 

 我慢できねぇ。

 

「セイッ!」


 一閃。

 

 ボスの首が飛ぶ。

 

 一撃だ。

 

 召喚魔物が消える。

 

「何!?」


 勇者さまが驚いてこっちを見る。

 

 膝をついて息を切らしてる。

 

「勇者さま、ひとこと言いたいことがあります」


 俺は言う。

 

 剣を握った手が震える。

 

「何を突然!? それに何で倒しちゃうの? 君たちとは話さないって……我慢してたのに……」


 勇者さまが混乱する。

 

 声が震えてる。

 

「お前が俺たちに気づいたせいで、罠を壊したり道を示したりしてるだろ?」


 俺は一歩近づく。

 

「し、してないよ!」


 勇者さまが目を逸らす。

 

「嘘だ。案内図も描いた。罠の爆発跡も血痕もある」


 俺は言う。

 

 勇者さまが黙る。

 

「お前がそんな危ねぇ戦い方してるのは、俺たちを心配してるからだ。だが、それでいいのか?」


 俺は続ける。

 

 声が低くなる。

 

「でも……私が死んでも大丈夫だから。みんなは違うから……」


 勇者さまが俯く。

 

 小さな声だ。

 

「勇者さま!」


 俺は声を張る。

 

 勇者さまが顔を上げる。

 

「死んでも大丈夫なんてねぇ!」


 俺は叫ぶ。

 

 勇者さまが目を丸くする。

 

「お前が俺たちに気づいたみたいに、俺たちもお前と話したせいで、お前の死が普通じゃなくなった。お前が死ぬたび、見てるだけが辛いんだ。それでいいのか?」


 俺は言う。

 

 喉が熱い。

 

 あの夜、お前が笑った顔が浮かぶ。

 

 死体を運ぶたびの虚しさが重なる。

 

「……どうして謝るの?」


 勇者さまが聞く。

 

 困惑した顔だ。

 

「悪かった。気づかなかったからだ。お前が一人で頑張ってたのに、俺たちは運ぶだけだった」


 俺は言う。

 

 胸が締め付けられる。

 

 お前と話したせいで、心が繋がっちまったのかもしれねぇ。

 

「分かった……私もごめんなさい」


 勇者さまが俯く。

 

 しばらく無言が続く。

 

「ロイ、感情的すぎるわ」


 ユーリが冷たく言う。

 

 俺の背後に立つ。

 

「感情的でも言うよ。俺たちが話したせいで、こんな気持ちになったんだ」


 俺は振り返る。

 

「それは分かるけど、落ち着きなさいよ」


 ユーリが杖を握り直す。

 

「僕も思うよ、ロイ。勇者さまの死、見てられなくなったネ」


 スタンチクが言う。

 

 珍しく真剣だ。

 

「気づいた……私が死ぬのを普通と思えなくなったの?」


 勇者さまが呟く。

 

 俺は頷く。

 

「そうだ。お前が俺たちを心配するように、俺たちもお前を放っておけなくなった」


 俺は言う。

 

 勇者さまが目を潤ませる。

 

「……ごめん」


 勇者さまが小さく言う。

 

 声が震えてる。

 

「今日のことは内緒だ」


 勇者さまが立ち上がる。

 

 マントを握り直す。

 

「また今度、私一人でボスを倒しに来る。それじゃ……」


 勇者さまが去る。

 

 後味が悪い。

 

 俺たちは黙って見送る。

 

「ロイ、気持ちは伝わったかネ?」


 スタンチクが聞く。

 

「分からねぇよ。こんな別れ方じゃ……」


 俺は呟く。

 

「甘いわね、ロイ」


 ユーリが言う。

 

「あの子、多分また同じことするよ」


「どうしてだ?」


 俺が聞く。

 

「寂しいからよ。一人で戦うしかないって頑張ってたけど、あなたと話して温かさを知った。もう孤独は耐えられないわ」


「……」


 俺は黙る。

 

 ユーリの言う通りだ。

 

 俺も同じだ。

 

 お前と話したせいで、心が揺れてる。

 

「勇者さま、別の世界から来て、一人で戦ってるネ。すごい頑張ってるけど、寂しいんだネ」


 スタンチクが言う。

 

「バカなんじゃない?」


 ユーリが冷たく言う。

 

「神への使命感があるんだろ」


 ゴウトが呟く。

 

「ロイはどう思う?」


 ユーリが聞く。

 

「……俺たちは裏方だ。次は見てるだけだ」


 俺は言う。

 

 でも、心はもう裏方じゃねぇ。



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