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六話:タワーのメモとロイの怒り


 今日も仕事だ。

 

 俺、ロイは「勇者探知機」を手に持つ。

 

 赤い点がタワー型ダンジョンに向かって動いてる。

 

 王城で大臣に警告されたばかりだ。

 

 「勇者さまが倒れるまで手出しするな」と

 

 ――分かってる。

 

 でも、勇者さまの「寂しかった」が頭にこびりついて離れねぇ。

 

「ロイ、距離取りすぎじゃない?」


 スタンチクが馬車の荷台から言う。

 

 確かに、いつもより遠くに陣取ってる。

 

「大臣の言葉だ。仕方ねぇよ」


「ふん。勇者さまが可哀想ね」


 ユーリが冷たく言う。

 

 ゴウトが「神の導きを信じよう」と呟く。

 

 俺は黙って探知機を見つめる。

 

 勇者さまが挑むのはタワー型ダンジョンだ。

 

 古くて巨大な塔で、王城からも見える名物。

 

 中は魔物と罠だらけ。

 

 冒険者なら誰もが知る危険地帯だ。

 

「ヒットポイント、減り始めた。戦闘開始だ」


 俺が言う。

 

 100から90、85と下がる。

 

「今回は死なないでくれ……」


 呟くと、ユーリが「裏方らしくない」とチクッとくる。

 

 うるせぇ。

 

 勇者さまが塔に入って十分経った。

 

 俺たちは入り口に近づき、様子を窺う。

 

 ヒットポイントが50で安定してる。

 

 結構頑張ってる。

 

「ロイ、こんなものが落ちてたネ」


 スタンチクが地面から紙切れを拾う。

 

 手書きのメモだ。

 

「いつも、ありがとう。私はがんばります」


「……何だこれ?」


 俺は眉をひそめる。

 

 紙を握り潰しそうになる。

 

 ユーリが横から覗く。

 

「誰かへのメッセージね」


「こんな場所に来るのは勇者さまと俺たちだけだ」


 俺が言うと、みんなが黙る。

 

 勇者さまから俺たちへ。

 

 考えるまでもねぇ。

 

「ロイ……」


 ユーリがこっちを見る。

 

 その目が何か訴えてる。

 

「行くぞ」


 俺はメモをポケットに突っ込む。

 

 感傷的になるな。

 

 仕事だ。

 

 でも、心がザワつく。

 

 何でこんなメモを?

 

 塔の中は戦闘の跡だらけだ。

 

 焼けた魔物の死体。

 

 剣で切り裂かれた壁。

 

 血の染み。

 

 勇者さまの戦いっぷりは派手だ。

 

 でも、妙な印が目立つ。

 

 壁に剣で描かれた矢印。

 

「これは案内図だネ。僕たちが迷わないようにしてるのかナ?」


 スタンチクが言う。

 

 確かに、矢印は道を示してる。

 

「罠も壊されてるわ。ほら、ここ、爆発の跡」


 ユーリが床の焦げ跡を指す。

 

 罠が無効化されてる。

 

 仕掛けの残骸が散らばってる。

 

「ちょっと待て……」


 俺は立ち止まる。

 

 頭の中で何かが繋がる。

 

「勇者さま、俺たちに気づいてる」


 俺は呟く。

 

 優しさで道案内や罠解除をしてるんだ。

 

「優しい子だネ。でも、これってどう考えても効率落ちるよね」


 スタンチクが首をかしげる。

 

「その通りね」


 ユーリが冷たく言う。

 

「某思うに、勇者さまは我らを庇おうとしておる」


 ゴウトが分析する。

 

 俺は黙る。

 

 胸が締め付けられる。

 

 そして、怒りが湧いてくる。

 

 俺たちは塔を進む。

 

 階を上がるごとに、勇者さまの戦跡が目立つ。

 

 巨大な蜘蛛の死体。

 

 毒沼を焼き払った跡。

 

 折れた剣。

 

「見てみろ、この傷跡」


 俺は壁の焦げを指す。

 

 魔法で焼き払った後だ。

 

 でも、無駄に広い。

 

 本来ならもっとピンポイントで済むはずだ。

 

「ここ、罠の爆発跡だわ。失敗したみたいね」


 ユーリが別の場所を指す。

 

 床に小さな血痕が残ってる。

 

「血……?」


 俺の目が鋭くなる。

 

 探知機を見ると、ヒットポイントが40に減ってる。

 

「勇者さま、罠を壊すのに失敗して怪我してる」


 俺は歯を食いしばる。

 

 スタンチクが「え、マジ?」と目を丸くする。

 

「この矢印もだ。わざわざ剣で描く必要ねぇよな」


 俺は壁を叩く。

 

 勇者さまがわざわざ剣を手に持って、壁に矢印を刻んだんだ。

 

 魔法で戦いながらだ。

 

 非効率すぎる。

 

「何でこんなこと……」


 俺の声が震える。

 

 ユーリが冷たく言う。

 

「私たちを安全にしたいからでしょ。いじらしいわね」


「安全?」


 俺はユーリを睨む。

 

 そして気づく。

 

 勇者さまは俺たちが来ることを知ってる。

 

 だから罠を壊し、道を示してる。

 

 俺たちが怪我しないように。

 

 怒りが沸き上がる。

 

 俺は剣を握り潰しそうになる。

 

 胸が熱い。

 

 何だこの気持ちは。

 

 俺は壁を睨む。

 

「ふざけんな!」


 俺は叫ぶ。

 

 ゴウトが驚く。

 

「俺たちはベテランだ。こんな気遣いなんかいらねぇ。なのに、勇者さまがこんな危険な真似して……」


 俺は拳を握る。

 

 ユーリが冷たく言う。

 

「だからって怒る? 優しさでしょ」


「優しさじゃねぇ! 自殺行為だ!」


 俺はユーリを睨む。

 

 彼女が目を逸らす。

 

 俺たちはさらに塔を進む。

 

 勇者さまの戦跡が痛々しい。

 

 折れた剣の破片。

 

 血の滴る床。

 

 無駄に壊された罠。

 

 怒りが収まらねぇ。

 

「ロイ、落ち着けよ」


 スタンチクが言う。

 

「落ち着けるか! 俺たちが安全になるようにって、こんな危ねぇ戦い方して……何でだよ!」


 俺は叫ぶ。

 

 胸が締め付けられる。

 

 勇者さまが俺たちを気づかって、こんなリスクを冒してる。

 

 俺たちのせいだ。

 

「気に入らないわね」


 ユーリが呟く。

 

 珍しく怒りが滲んでる。

 

「某たちは庇われるほど弱くはない」


 ゴウトが言う。

 

「こんなの間違ってるよ」


 スタンチクが拳を握る。

 

「ロイ、どうする?」


 ユーリが聞く。

 

「最上階へ行く。勇者さまに言うことがある」


 俺は決める。

 

 探知機がヒットポイント30を示す。

 

 まだ生きてる。

 




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