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五話:勇者さまとの朝と王城の波乱


 朝、目を覚ました瞬間、俺の人生最大の危機が訪れた。

 

 俺のベッドに勇者さまが潜り込んでた。

 

 黒髪が俺の顔に絡まり、細い腕が俺の胸に伸びてる。

 

 寝息がスースー聞こえてくる。

 

 状況が分からず、俺は硬直した。

 

「うわっ! 何!?」


 慌てて飛び起きると、勇者さまが目をパチパチさせて起き上がる。

 

 マントを羽織ったまま、俺の隣で寝ぼけた顔してる。

 

「おはよう、ロイ……」


「いや、おはようじゃねぇ! 何で俺のベッドに!?」


 勇者さまがニコッと笑う。

 

 無邪気すぎるだろ。

 

 部屋の隅で、ユーリが冷たい目でこっちを見てる。

 

「死ねばいいのに」


「お前、言いすぎだろ!」


 ゴウトが「某も驚いたぞ」と呟き、スタンチクが「ロイ、やるじゃん!」とニヤつく。

 

 朝から大騒ぎだ。

 

 事の始まりを振り返る。

 

 昨夜、勇者さまの異世界トークに賢者トリオが盛り上がってた。

 

 俺は疲れて酒を飲んで寝ちまった。

 

 どうやらその後、勇者さまが俺のベッドに潜り込んだらしい。

 

 宿屋の部屋は二つ借りてた。

 

 俺とスタンチクが一部屋、ユーリとゴウトがもう一部屋。

 

 勇者さまは俺の隣のベッドに寝かせたはずなのに、いつの間にか移動してきたみたいだ。

 

「何で俺のとこに来たんだよ……」


「ロイが優しいから、安心したんだよ」


 勇者さまが無邪気に言う。

 

 俺の心臓がドキッとする。

 

 ダメだ、任務中だぞ!

 

「優しいって何だよ。俺、ただ助けただけだろ」


「でも、助けてくれたのはロイだよ。他のみんなは冷たかったもん」


 チラッとユーリを見る勇者さま。

 

 ユーリが「何?」と睨み返す。

 

「冷たいのはユーリだけでいいだろ。俺たちは温かいよな?」


 スタンチクがフォローっぽく言うけど、ユーリが「黙れ」と一蹴。

 

 ゴウトが「某は中庸を保つ」とか賢者っぽいこと言ってる。

 

 朝からカオスだ。

 

 なんとか勇者さまをベッドから引き剥がし、朝食をとることにした。

 

 宿屋の一階で、パンとスープの簡単な朝食。

 

 勇者さまは俺の隣にピッタリ座る。

 

 ユーリが「汚い」と呟き、スタンチクが「可愛いネ」と笑う。

 

「勇者さま、ちゃんと食えよ。今日、王城に行くんだから」


「王城? 何で?」


「今回の仕事の報告と報酬をもらうためだ。お前も事情を説明してもらう必要がある」


「えー、私、お城嫌いだよ。王様に怒られるもん」


 勇者さまがスープを啜りながら不満げに言う。

 

 分かるよ、その気持ち。

 

 でも任務だから仕方ねぇ。

 

「怒られるのは死にまくってるからだろ。今回だって瀕死だったんだぞ」


「でも、トロール倒したよ! 頑張ったんだから!」


「確かに倒したけど、死にかけじゃ意味ねぇよ」


「ロイだって私を助けたじゃん。一緒に頑張ったんだよ」


「一緒にって……俺は裏方だよ!」


 勇者さまがムッとする。

 

 俺もムキになる。

 

 朝食が言い争いで終わりそうだった。

  

 宿を出る前、勇者さまが俺にくっついてくるのをユーリがガン見してた。

 

「ロイ、いい加減にしなさいよ。このまま城に行ったらどうなるか分かってる?」


「分かってるよ。でも離れねぇんだから仕方ねぇだろ」


「仕方ないじゃないわ。私が引き剥がす」


 ユーリが勇者さまの腕を掴む。

 

 勇者さまが「嫌だ!」と抵抗。

 

 二人で引っ張り合いが始まった。

 

「やめなさいよ、このアホ勇者!」


「離してよ、冷たいお姉さん!」


「何!?」


 ユーリの目がキレる。

 

 スタンチクが「女同士の戦いだネ!」と楽しそうに囃し立てる。

 

 ゴウトが「某は仲裁すべきか」とか言ってるけど動かねぇ。

 

「もういい! 行くぞ、王城に!」


 俺が叫んで無理やり二人を引き離す。

 

 勇者さまが「ロイ~」と甘えた声で寄ってくる。

 

 ユーリが「死ね」と呟く。

 

 宿を出るまでずっとこの調子だった。

 

 王城への道すがら、俺たちは馬車を借りた。

 

 勇者さまを隠すため、荷物用の粗末な馬車だ。

 

 木の板に座ってガタガタ揺られる。

 

 勇者さまは俺の隣で、景色を見て楽しそうにしてる。

 

「ロイ、この世界って面白いね。馬車とか初めて乗ったよ」


「初めて? 故郷じゃどうやって移動してたんだ?」


「ジドーシャだよ。魔法の箱みたいなやつで、馬がいなくても動くの」


「魔法の箱? すげぇな、それ」


 俺は感心する。

 

 勇者さまの故郷ってほんと変なところだ。

 

「でもさ、ロイ。私、こっちの世界に来てからずっと一人だったんだ」


 勇者さまが急にしんみり言う。

 

 俺は言葉に詰まる。

 

「王様に召喚されて、魔王を倒せって言われたけど、友達も家族もいないし……寂しかったよ」


「……そうか」


 俺は何て言えばいいか分からねぇ。

 

 ユーリが「ふん」と鼻で笑う。

 

 スタンチクが「僕が友達になってあげるよ!」と明るく言う。

 

 ゴウトが「某も神の教えとして寄り添おう」とか賢者っぽい。

 

「でも、ロイが助けてくれたから嬉しかったんだ。初めて誰かに守られた気がした」


 勇者さまが俺の手を握る。

 

 俺の顔が熱くなる。

 

 ユーリが「気持ち悪い」と呟く。

 

 馬車の中で気まずい空気が流れた。

 

 王城に着いた。

 

 でかい門をくぐり、門番に用事を伝える。

 

 いつもなら下っ端が対応するのに、今回は大臣がすっ飛んできた。

 

 勇者さまが一緒だからか、さすがの扱いだ。

 

「ロイか。今回の報告を聞こう」


 大臣が威厳たっぷりに言う。

 

 俺は正直に事情を説明する。

 

「洞窟で勇者さまが瀕死になってたんで、助けて宿屋に運びました。回復させて、今ここに連れてきたってわけです」


「う、うむ。大体の話は分かった。よく勇者さまを助けてくれた。さて、勇者さまはこちらへ」

「んー」



 勇者さまが俺をチラッと見る。

 

 名残惜しそうな目だ。

 

 兵士に連れられて王様のいる奥へ行く。

 

 俺たちは大臣と残る。

 

「ロイよ。先程は勇者さまがいる手前、不問としたが、今後はこういうことは控えろ」


「勇者さまを助けたことですか?」


「そうじゃ。今後は勇者さまが倒れるまで決して手を出してはならぬ」


「分かりまし――」


「それはなぜでしょうか?」


 ユーリが口を挟む。

 

 どうやら国のルールに納得いかねぇらしい。

 

「勇者さまは一人で冒険せねばならぬ。これは王命じゃ」


「だから、その理由を」


「君たちに説明する義務はない。不満か?」


「それは――」


「ユーリ!」


 俺が強めに止める。

 

 まずい流れだ。

 

「大臣、俺たちは今まで通りの仕事します。それでいいですね?」


「ならばよい。勇者さまにもこちらで再度事情を話しておく。だが、次があればこの仕事は別のパーティに任せる。分かったな?」


「承知しました」


「分かればよい。頼んだぞ」


 大臣が去る。

 

 ユーリが不満げに黙る。

 

 城を出る前、俺はユーリに声をかけた。

 

「王様にも何か事情があるんだろ。気にすんな」


「……ふん」


 機嫌悪いな。

 

 でも、国から警告された以上、今後は気をつけなきゃならねぇ。

 

 この仕事は金がいい。

 

 破格だ。

 

 勇者さまが行く危険な場所に付き合うんだから当然だ。

 

 でも、俺たちは冒険者として生きてきた。

 

 危険は慣れっこだが、金も大事だ。

 

 この仕事を失うつもりはねぇ。

 

「ロイさ、大臣の言い方ムカつくネ。勇者さま可哀想じゃない?」


 スタンチクが言う。

 

 確かにそうだ。

 

「某も思うに、勇者さまの孤独は神の試練かもしれぬが、国が強いるのは如何なものか」


 ゴウトが賢者っぽく呟く。

 

「私は金さえもらえればいいけど、あの子の顔見てるとちょっとね」


 ユーリが珍しく優しい口調だ。

 

「まあ、俺たちは裏方だ。勇者さまが頑張ってくれりゃ、それでいいさ」


 俺は強がって言う。



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