二話:勇者さま、再挑戦と新展開
勇者さまがまた死んだ。
トロールに頭をパックリやられてから数日後、今度は前回のダンジョンに再チャレンジするらしい。
俺、ロイは「勇者探知機」を手に持つ。
ちっちゃい水晶盤に赤い点がピコピコ光ってるのが勇者さまの位置だ。
便利っちゃ便利だが、こいつが動かなくなると「あ、また死んだな」と分かるのがちょっと切ない。
俺たちは洞窟の入り口から遠目に勇者さまを見守る。
黒髪をポニーテールにした細っこい影が、意気揚々と剣を手に突入していく。今回はどうなるやら。
「見つからないように気をつけろよ」
俺はパーティメンバーに小声で指示を出す。
国から「勇者さまへの接触は慎め」と言われてるからだ。
遠くから見守りつつ、死体を回収するのが俺たちの仕事。
助けるなんて御法度だ。
まあ、死ななきゃ回収の必要もないんだけどさ。
毎回そうなるとは限らないのが、この仕事の辛いところだ。
「準備は怠らない。俺たちはプロなんだからな」
賢者トリオに目をやると、ユーリが冷めた目で頷き、ゴウトが「うむ」と真面目くさってうなずく。スタンチクは「へいへい」と気楽に手を振ってる。
こいつら、見た目はバラバラだけど頼りになる。
俺たちは洞窟の外で待機しつつ、勇者探知機の「ヒットポイントメーター」を確認する。勇者さまの生命力が数字で分かる優れものだ。
満タンなら100、死んだら0。シンプルで分かりやすい。
「さてさて、今回の勇者さまはいかがかな。この洞窟も4回目だし、そろそろクリアして欲しいもんだ。ガンバレー勇者サマー!」
スタンチクが焚き火をいじりながら茶化す。元遊び人らしい軽いノリだ。
「毎回トロールにやられてるんだから、学習能力が問われるわね」
ユーリが毒舌を吐く。彼女の氷みたいな口調はいつものことだ。
「某は思うに、勇者さまは技よりも精神が試されておるのやもしれぬな」
ゴウトが賢者っぽく難しい顔で言う。こいつ、神聖な雰囲気出すのが好きだよな。
俺は黙ってメーターを睨む。勇者さまのヒットポイントが少しずつ減り始めた。
戦闘が始まったんだろう。ガッツリ減ったらすぐ動く準備だ。
しばらくして、メーターが急にガクっと下がる。40、30、20……と落ちていく。
俺の背筋がピンと伸びた。
「またダメか?」
思わず呟く。でも今回は様子が変だ。ヒットポイントが5でピタリと止まった。ゼロじゃない。動かないけど、生きてる。
「微妙に……ヒットポイントが残ったまま止まったな。これはどうするべきか」
ゴウトがメーターを覗き込んで俺に聞く。真剣な目だ。
いつもならゼロになって回収に向かう。でも今回は瀕死で止まってる。
王城の魔導士からこんな場合の指示は聞いてない。
「一応生きてるなら、これまで通り放置でいいんじゃない? 死んだら向かえばさ」
ユーリが冷たく言う。彼女らしい人でなし発言だ。まあ、気持ちは分からなくもない。
「うーん……」
俺は考える。このパーティのリーダーは俺だ。決断は俺の仕事。いつもは死体なのに、今回は生きてる(瀕死だけど)。さて、どうする?
基本的に瀕死の人間を救うには高位の回復魔法が必要だ。
でも、うちには賢者が3人もいる。生きてさえいればどうにでもなる。
ただ、移動中に死なれたら元も子もない。
瀕死のままじゃ攻略も続けられないだろうし、放置するのも後味が悪い。
「決めた。勇者さまを回収しに行くぞ」
俺は立ち上がる。ユーリが眉をひそめた。
「大丈夫かしら? 国に怒られるわよ」
「意識もない勇者さまを洞窟に放置するわけにはいかねぇだろ。俺が決めたんだ。文句あるか?」
「ないけど、後で責任取ってね」
ユーリが肩をすくめる。ゴウトが「某も賛成だ」と頷き、スタンチクが「面白そうじゃん!」とニヤつく。
「勇者さまがやられるようなダンジョンだ。全員気を引き締めろよ」
俺たちは魔法の灯りを手に持つ。
青白い光が洞窟の入り口を照らす中、4人で奥へと進み始めた。
洞窟の中は薄暗く、湿った空気が肌にまとわりつく。
壁には魔物の爪痕、床には血の跡。勇者さまが戦った証だ。
「毎回思うけどさ、勇者さまってほんと死にっぷりが派手だよね」
スタンチクが軽口を叩く。確かに、頭パックリは派手すぎる。
「それだけ敵が強いってことよ。トロールなんて、私でも一撃じゃ倒せないわ」
ユーリが冷静に言う。彼女の氷魔法ならトロールを凍らせられそうだけどな。
「神々の愛が試練を与えておるのじゃ。勇者さまの成長のためであろう」
ゴウトが賢者っぽい解説を入れる。こいつ、こういう話好きだよな。
俺は黙って勇者探知機を確認する。赤い点が少しずつ近づいてくる。まだHP5のまま。生きてる。急がなきゃ。




