一話:偉大なる勇者さまの死にっぷり
勇者さまは偉大な存在だ。
勇者さまは、神々に愛されている。
光の勇者さま。魔王を倒せる唯一無二の希望。
そんな勇者さまが、今、洞窟の奥で頭をパックリ割られて転がっている。
どうやらボスのトロールにやられたらしい。棍棒で一撃、脳みそが飛び散るほどの豪快な一発だったんだろう。血と岩の破片が混ざり合った床は、まるで芸術的な惨劇だ。
「生きてますかー? 勇者さまー?」
俺、ロイは一応声をかけてみる。返事はない。そりゃそうだ、頭が半分なくなってるんだから。
念のため確認したけど、待つまでもなく分かる。死体だ。いや、「ただの屍」と呼ぶにはあまりに偉大な存在すぎるか。
勇者さまは偉大な存在だ。
勇者さまは、神々に愛されている。
その愛のおかげで、勇者さまは死を超越する。死んでも何度でも復活するチート能力持ちだ。
ただし、そのためには誰かがこの死体を王城まで運ばなきゃならない。そしてそれが俺たち、「偉大なる勇者さまを支援するパーティー」の仕事ってわけだ。
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「おお勇者よ、死んでしまうとはなさけない……って感じじゃないか。今頃王宮じゃさ」
焚き火のそばで、俺は酒瓶を傾ける。火の粉がパチパチと跳ね、夜の森に響く。
俺の名はロイ。職業は戦士。世界を救う勇者さまのお手伝いが仕事だ。といっても、俺が魔王をぶった斬るわけじゃない。あくまで勇者さまが主役。俺たちは裏方だ。
勇者さまには出来ないこと、苦手なことがいくつかある。特に「死んだ後に自分で城に帰る」なんてのは最たるものだ。
死体が歩いて帰るなんてホラーすぎるし、そもそもそんな芸当ができる奴がいたら俺が会ってみたい。普通は死んだら終わりだろ?
でも勇者さまは違う。死んでも復活する。それが神々の愛ってやつだ。まあ、苦手なことがある方が人間味があって可愛げもあるってもんだ。
俺のパーティーはその勇者さまをサポートするプロ集団だ。メンバーは俺を含めて4人。
俺は戦士。頑丈さが取り柄で、魔法は使えないけど剣と盾で前線を張る。
あとの三人は賢者だ。ユーリ(22歳、女)、ゴウト(32歳、男)、スタンチク(18歳、男)。そう、全員賢者。
「なんでそんな偏った構成なんだ?」ってよく聞かれる。
元々は国が紹介してきたメンバーで、魔法使い、僧侶、遊び人(何で遊び人が入ったのかは今でも謎)だった。
ところが、遊び人のスタンチクが突然「賢者になる!」と言い出して、誰よりも早くクラスアップしちまった。
それを見て、魔法使いのユーリと僧侶のゴウトが火をつけた。「負けてられるか!」と血の滲むような修行を積んで、二人とも賢者に昇格。
賢者ってのは素養がなきゃなれないレア職なのに、うちには3人もいる。贅沢すぎるって文句も出るけど、俺たちはこの編成で絆を深めてきた。変える気はない。
俺は魔法が使えない分、この賢者トリオが頼りだ。攻撃魔法、回復魔法、支援魔法、何でもござれ。俺が盾なら、彼らが槍って感じだ。
さて、パーティの話はここまでにして、本題の勇者さまに戻ろう。
勇者さまは魔道技術の結晶、光の使徒だ。魔物を倒し、その魂を取り込んで成長する特別な力を持つ。
高位の魔物は勇者さまにしか完全に倒せない。他の人間が倒しても、魂から復活する厄介な仕組みだ。
だから俺たちは、勇者さまが強くなるのを支え、見守る役割を担ってる。
とはいえ、まだ駆け出しの勇者さまはよく死ぬ。今回みたいにね。
そこで俺たちの出番だ。王城の錬金術師が作った「勇者探知機」を手に持つ。
これがあれば、勇者さまの居場所も分かるし、生きてるか死んでるかも一目瞭然。便利なもんだ。
死体を回収して王城に届けるのが任務。ダンジョンの奥だと骨が折れるけど、それが仕事だ。
「勇者さまにパーティメンバーはいないのかって? いないよ。ソロプレイヤーなんだ」
焚き火の前で酒を飲みながら、俺は苦笑する。
偉大なる勇者さまが一人で戦う理由は、国の方針らしい。俺たちも接触は極力避けるよう言われてる。
でもさ、こんな死にっぷりを見てると、少しは助けてやりたくなるよな。