死バス
こちらは夏のホラー2024&百物語九十九話の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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私が中学三年生の時のお話です。
当時、私は受験勉強の真っ只中で、朝から夜遅くまでひたすら勉強勉強勉強…
そんな日々が続いていました。
その日、学校を終えた私はいつも通り塾へ通い、夜遅くまで受験勉強をしていました。
塾が終わったのは夜の10時過ぎ。いつも通りバスに乗って帰る予定でした。
しかし、ここでトラブルが発生してしまったのです。
バス停に到着後、私は塾の机にお財布を忘れてきてしまったことに気がつきました。私はすぐに駆け足で塾へ戻りました。
幸いなことにまだ塾には先生たちが残っていたので、お財布はすぐに見つけることができました。
しかし、いつも乗っている時間のバスにあともう少しというところで乗り損ねてしまったのです。
「やってしまった。次のバスはいつ来るのかな…」
私の家は塾からバスに乗って約40分近くの場所。町外れのご近所さんすらいない場所に住んでいた私のとって、バスを1本逃すということはなかなか大変なことでした。
次のバスが来るまで約30分。私は家族に連絡を済ませた後、仕方なく誰もいないバス停で次のバスを待つことにしました。
バスを待ち始めてから20分後…
普段見慣れないタイプのバスが私の座るバス停で急停車したのです。
私は驚きましたが、ブザーと共に目の前のドアが開き、運転手さんのアナウンスが私に向かって話しかけて来たのです。
「乗りますか?」
声の感じからして、初老の男性運転手さんだったと思います。私は咄嗟に運転手さんへ質問をしてみました。
「あの、北〇〇町前のバス停に止まりますか?」
私の質問に運転手さんはすぐに答えてくれました。
「あぁ、止まりますよ。乗ってください」
私は見慣れないバスに少し驚きながらも、小走りでバスへ乗車しました。
(私の知らないバスだけど、特別車なのかな。とにかく早く帰れるしラッキー!)
私は内心そう思いながら、すぐ近くにあった1人席に座りました。
バスの中にはこんな時間にも関わらず、乗客が12、3人くらい乗っていました。サラリーマン風の人もいれば私と同じ中学生くらいの子も乗っていたと思います。
私が席に座るとバスはすぐに発車し、車内に運転手さんのアナウンスが流れ始めました。
「本日は〇〇交通の〇〇バスにご乗車いただき、誠にありがとうございます。次の到着します場所はS橋前、S橋前…飛び降りの方はこちらでお降りください。次に到着します場所はぁ…」
運転手さんのアナウンスに、私は奇妙な違和感を覚えました。
(…今飛び込みって言った?)
観光地を走るバスでは、バス停の近くにある観光名所を運転手さんが紹介することがあるのですが、正直なところS橋前はそういう場所ではありません。
それどころか、S橋は「自殺スポット」として近所の人たちの間では有名な場所だったのです。
私は頭の中に浮かぶ不気味な違和感を必死に抑えながら、息を殺してバスの床を見つめていました。
しばらくすると…
「S橋前…S橋前です…お降りの方は…前の扉よりお降りください…」
バスがS橋前のバス停へ到着した。
ビィ~…
古いブザーの音と同時に乗客の若い女性が1人、バスの前方へ歩き始めた。どうやら、S橋前で降りるらしい。
女性は料金を払わないまま、ゆっくりとバスを降りていった。運転手はそれを注意するどころか、不気味なくらい笑顔で女性の後ろ姿を見つめていた。
ビィ~…
女性が降りると同時に、また古いブザーが車内に響き渡った。
すると、車内ではとんでもないことが起こったのである。
席に座っていた乗客たちが突然狂ったように立ち上がり、全員バスの窓ガラスに顔面を貼りつけながら降りていった女性を見つめ始めたのです。
そして…
「死ねぇええええええええっ!死っ!ねっ!死っ!ねっ!死ぃいいいいいいいいいいいねぇえええええええええええええええええええっ!」
「飛び降りろっ!早く早くっ!飛び降りろぉおおおおおおおおおおっ!」
「死ねよ死ねよ死ねよっ!早く死ねぇ!」
「私にも死ぬとこ見せてぇええええええええええええええええっ!」
乗客たちは目をギラギラと輝かせながら、口々に降りた女性に向かって恐ろしい言葉を叫び始めたのです。
私はその光景を見て、あまりの恐怖で瞬きすらできませんでした。
乗客たちは女性の姿が見えなくなると、何事もなかったかのようにそれぞれの席へ戻って行きました。
(あぁ…なにこれ…意味わかんないんだけど…)
手が震え、心臓が破裂しそうなくらいバクバクと暴れまわっている。
乗客たちの顔も怖くてまともに見る事ができない。
私は息を殺し、目的地のバス停に到着するまでひたすらにバスの床1点を見つめていました。
15分後…
「次に到着します場所はぁ…北〇〇町前…北〇〇町前です…」
運転手さんのアナウンスが聞こえた途端、私はすぐに近くにあった停車ボタンを押した。
その時、車内の空気がドッと重くなったことを今でも覚えています。
「北〇〇町前…北〇〇町前…お降りの方はすぐに降りてください…」
バスが止まった瞬間、私はすぐに扉へ向かい、持っていたIⅭカードをタッチする場所を探しました。しかし、かなり古いバスなのかIⅭカードをタッチする機械が見当たりません。私が焦っていると…
「お金を払ってください…ここ…」
運転手さんが無表情で現金投入口を指さしている。私はお財布に入っていた小銭を全て現金投入口へぶちまけると、逃げるようにバスから飛び出しました。
「あぁ、助かった…!」
無事に目的地へたどり着けたことに安心した私は、自然と乗っていたバスを振り返って見てしまったのです。
「えっ?」
そこにあったのは、ボロボロになった無人のバスでした。
誰も乗っていないバス。
しかし、バスは私を降ろした後、すぐに次の目的地へ静かに向かって走り始めました。
当然運転席も空っぽです…
私の記憶はここで終わっています。
どういうわけか私はバス停で気を失ってしまい、バス停まで車で迎えに来た家族に助けてもらいました。
私は家族に今までの出来事を話したのですが、誰一人そのことを信じてはくれませんでした。普段より早くバス停にいたことについては、疑問を抱いていましたが…
それからしばらくして、私は学校の友達へ今回の出来事を話してみました。すると、友達の1人から奇妙な「うわさ」を知る事が出来ました。
「それって『死バス』じゃん…」
死バス。通称「天使のバス」と呼ばれる怪談(都市伝説?)がウチの学校には存在したのです。
死バスはある日突然町に現れ、生きる事に疲れた人を「確実に死ねる場所」へ送り届けてくれるそうです。
何日の何時何分、どこに来るのかも不明。死バスは生きる事に疲れた人の前にしか現れないといううわさなんです。
「そのバスに乗った人は自殺スポットまで自殺に行くか、バスに乗ったままあの世まで連れて行かれるらしいよ」
友達の話が本当ならば、私はとんでもないバスに乗ってしまったみたいです。
正直な話、当時の私は受験や一部の人間関係でとても悩んでいました。そりゃもう「死にたい」と思ってしまうくらいに…
あのバスが噂の死バスなのかはよくわかりません。
ただ、もしあのバスに乗り続けていたら、私はもうこの世にはいなかったかもしれませんね。
今は元気に暮らせていますが、あの時のことは今でも覚えています。
ちなみにあのバスの通称が「天使のバス」である理由は、バスに乗っている乗客は自殺者以外みんな天使であり、死へ向かう自殺者を祝福してくれるから「天使のバス」とも呼ばれているそうです。
あの時狂ったように叫んでいた乗客たちが「天使」ですか…
あれが天使なのであれば、天国も地獄もそんなに変わらないのかもしれない。
…っと私は思いました。
今年も参加させてもらいました!
そして百物語も残りあと1話…!