序 夢と目覚め
私は今日、満年齢で13歳になる。
最近、同じ夢をよく見る。
私の名は、大姫。この日の本に平和と安寧をもたらした木曾義仲の娘。
夢の内容は、起きて誰かに事細かに話せる程はっきりと記憶している。
夢の始まりは、何処かの武家のお屋敷の庭先。
庭に、一人の女性が、座っている。
私は、それを朱糸縅の鎧に身を包んだ巴母様に抱き上げられながら見下ろしている。
この武家屋敷は、私の住んでいる『松本屋敷』では絶対に無い。なぜなら、見慣れた山々や木々はなく、何よりも空気の感じが全く違うから……。
私を抱いた巴母様が、庭先に座り頭を下げている女性に何か話している。
私が巴母様を何度呼んでも、巴母様はそれに気づかずに女性に対して話しつづけている。
やがて、巴母様は、その女性に背を向けて立ち去り始める。私は、庭先で顔を伏せている女性に無邪気に手を振る。女性が顔を上げて私を見るが、女性の顔はぼやけて判然としない……。
そこで必ず目が覚める。
「おはよう、大姫」
私が目覚めたのを優しい声で確認するように巴母様は言う。
「また……あの夢を見ました」
私は、上半身を起こして巴母様に告げる。
「そうですか……」
私が同じ夢を何度も見るのを巴母様に伝えてから、巴母様は私が夢を見た事を告げると、毎回ふっと寂しそうな表情を浮かべる。そして毎回私が夢について話そうとすると必ず話題を切り替えてしまう。
「さ、大姫。今日は貴女の大切な日です。もう少ししたら義仲様が松本屋敷に参られますから、ちゃんとお出迎えするのですよ?巴母様はお出迎えの用意をしていますから、小百合かか様に後はお任せしますからね」
巴母様は、今日も私が夢について話そうとすると話題を変え、私に告げると私の寝所を後にする。