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前説

前説


 夏のある日。

 とある事件で知り合った女性二人が、美味いビールで有名な銀座の店で飲んでいた。


 一人は長い髪を時折後ろへ流す、怜悧な美貌の持ち主で、モデルか女優かといった女性。名を東条蘭佳という。

 もう一人は、綺麗な額を持つ、パンツスーツが決まっている、いかにも高い知性を有することを偲ばせる女性。名は、長尾亜都子。


 二人の共通点は高学歴、高身長、高収入である。

 蘭佳は開業医だし、長尾は国立理系研究所の上級研究員。

 八十年代の女性たちが、結婚相手に求めたスペックを自分たちで持っているこの二人。男性を寄せ付けることなく、今宵も女だけで飲み、食い、喋る。


「まったく、こんなに超イイ女が二人で飲んでいるっていうのに、誰も声をかけてこない日本の男って、一体なんなの!」


 目の縁が赤くなっている蘭佳が、ぷはあっと息を吐く。


「イイ女過ぎるからじゃない?」


 長尾が笑う。


「ところで蘭ちゃん」

「何? アッコ」


 何故か互いに意気投合し、今では愛称で呼び合う仲だ。


「あなたの従弟の加藤……先生って、ほぼほぼ医者並みの知識あるじゃない? よく研鑽しているよね。学位持ってるの?」

「ああ、アレ。一度医学部退学してるくらいだから、基礎医学の知識は元々あるのよ」

「へえ、なるほどね。そのあとで再度、大学入ったりして養教になったの?」


 蘭佳はふと遠い目をする。


「なんだっけ? 確か外国で医師資格は取ったとか……。帰国して教育学部に編入したんだっけ? 通信だっけ? 学歴はぐちゃぐちゃだよ、アイツ」


「ふうん。医師免許って、どこの国で取ったんだろ。うちの研究所にもいるけどさ、外国で取った医師免許って、厚労省で認可されないと日本での医療行為が出来ないとかなんとか……」


「あら、アッコ。アレに興味あるのかしら?」


 含み笑いをする蘭佳に、慌てて手を振る長尾。


「そ、そういうのじゃないけど……」


「確か、ルーマニアじゃなかったかな」

「あら、東欧で?」

「東欧諸国の中でも、英語が通じて学費が割と安いって。ついでに……」


 蘭佳は肩をすくめる。


「吸血鬼が、いるかもしれないからって、嬉しそうに旅立ったっけ」

吸血鬼(ドラキュラ)がいるかもって。小学生か! だいたい小説書いたのは、アイルランドの人だと思ったけど」

「単なるイメージでしょ? 超視覚優位の瞬間記憶素質保持者さんだから」


 蘭佳の口調は、最早「オカン」である。

 バカ息子と言いながらも、どこかで心配しているような……。


 チーズをつまみながら、長尾は思う。

 蘭佳も、「しょうもない従弟」とか言いながら、随分とアイツのこと気に入っているんじゃないかと。


 アイツ。

 変な男性養護教諭。


 加藤、誠作。

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