まっすぐなのはダメージにも繋がります。
翌日。すっかり落ち着いたシアに、ひと晩中寝ずにそばにいたことを謝られた俺は、とにかくその日はゆっくりしてほしいと申しわけなさそうに頼まれ、シアの気が済むようにとそのことばを受け入れた。
護衛の都合上、必要ぶんであれば睡眠をとらないこともままあったので、そんなに気にしなくてもいいのにとは思ったけど、あまり申しわけなさそうにされるのはかえってこちらが申しわけなくなるものだ。まあ、シアが元気になってくれたのならそれでいい。
当分は村に行かずにいるものかと思っていたのだが、あの出来事があった翌々日、シアは改めて村に行こうとくちにした。
「手紙も一応出せたし、無理しなくてもいいよ、シア」
「……無理じゃない。売るもの、売れなかったし、買いたいものあるから」
「買いたいもの?」
「リツカ、調理道具あるといいって言ってた」
ああ、確かに。恩返しのひとつとして提案したはいいけど、道具不足で流れたはなしだ。おかげでいまも料理はほぼシアに頼っているんだけど、彼女のレパートリーは煮るか焼くだけらしい。魔法の使えない俺にはどこまで微調整がきくかもわからないからなんとも言えないけど、リヴィ曰く、だれも教えられなかったし、そもそもシアは器用じゃないから、とのこと。
「あと、服」
「え、いやそこまでは……。もらったぶんで充分だよ」
最初、これは俺のだとしか言わなかったシアだったけど、リヴィが姿を見せてから余っている布で彼女がつくってくれたのだと教えてくれた。服飾系の魔法は妖精の多くが得意とするものらしく、シアや師匠さんの服の多くもリヴィがつくっていたらしい。
ちなみにそういう刺繍やら縫いものやらも、シアや師匠さんは向いていないとのこと。
「そう? 男のひと用の布、なかったから。リツカがいいならいい。けど、必要なら言って」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして。……でもつくるのは、リヴィ」
当然だけど、俺にかかった費用はあとでまとめてちゃんと返すつもりだ。あと、かたちに残るなにかを贈りたいなとも思っているんだけど……。うーん、シアがよろこびそうなものって、何気に難しいかも……。たぶん、アクセサリーや宝石とか贈ったら、お礼は言ってもらえるだろうけど、首を傾げられそうだ。
かたちに残るもの、なんて重いかもしれないとも思うけど、でもその、すきな相手に贈るものだし……。
なんてひとりでうだうだ考えてたりするけど、俺、まだ自分の気持ちをシアに伝えていない。伝えたい、とも思うけど、なんかこう……タイミングが……。
なるべく平静を努めてはいるけど、ちょこちょこもだもだしてしまっている。俺、自分がこんなにもはっきりできない人間だとは思ってなかった……。
「リツカ?」
「え⁉ あ、ごめん、ちょっとぼんやりしてた」
「具合悪い?」
「いや、そういうわけじゃ……。えーと、あ、で、村だっけ? シアが大丈夫なら、行こうか」
「うん。リツカがいてくれるなら、大丈夫」
撃沈。ひとり自分の気持ちを持て余してやきもきしていたなんて言えるはずもなくてはなしを逸らしたつもりだったのに、シアのこたえが容赦なく胸を射抜いてきた。
なんでこう、この子はさらりとそういうこと言うかな……!
素直というか、正直なのはシアの美点だと思うけど、なんの構えもしていないときに穿ってこられると心臓に悪い。本人は特段他意もないんだろうけど……というか、主従の契約があるから信用されているというのが正しいのだろうけど、不意打ちは効く。
……まあ、ちょっと冷静になるとこうして主従の契約のことが頭をよぎって一気に冷静さを取り戻すことになるんだけど。……へこむ、ともいう。
シアは、俺が契約について知ったことをまだ知らない。リヴィも、いずれシアがはなすつもりだったことをはなしてしまったことに、後ろめたさがあるようだ。必要だと判断してはなしたつもりだから、後悔はしていないけど、それとこれとははなしが別らしい。
感情の中身は違えど、こたえがあってもそこに直進できない気持ちは、いまの俺にもよくわかる。
「……リツカ、やっぱり具合悪い?」
「いや、大丈夫、大丈夫だから行こうか」
首を傾げて覗き込んでくるシアに、俺はうまく笑い返すことができたのだろうか……。