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ガラス張りの原宿駅







夏の湿る空気は、泡沫を思わせる。







蒸し暑い空気を乾かすようにしてクーラーの温度を忙しなく下げる。

お構いなしで5℃一気に下げるとさすがに空調も唸りを効かせ始め、

終わりの見えない熱風を睨む。




この季節の熱する空気感は好きになれない。


構わないで欲しいと願うのに、粘着質に追い求めてくる。

性懲りもなくセンチメンタルさえ呼び起こす、不慮のリブート。





SNSのタイムラインは花火大会雨天中止に関するニュースで持ち切りである。

祭り、花火、そういった浮かれ切ったイベントの情報がワイドショーを賑わせる中で、

およそ1ヶ月ほど前にあった梅雨入りのニュースを逡巡させていた。




夏を思うとき梅雨入りを想起するのは恐らく、世界でひとり自分だけではなかろうか。



「分かったような顔すんな」と踵を返すのは、同時にこの世のどこかに、

同等の人間がいると信じているからだ。


だがそれがお前ではない、ただそう通達しているだけのこと。






長く続く廊下、一面の硝子窓、大理石の床。

クーラーが効いた部屋だと足を触れると冷たく、芯から冷気が伝う。


ガラス窓の向こうは漆黒が広がり、煌めく夜景が積もりゆく。


グロス加工されたようなこの景色が好きで、

ぼんやり眺めていると自分という心地を忘れられる気がする。




黒いレザーのソファに身を沈ませると視界がたちまち都会のネオンの星になり、

建ち並ぶビルに浴びせるべくグラスへとシャンパンを注いだ。



氷が溶けて音を鳴らした時、泡が薄く膜を張っていた。

シャンパンに氷を入れると、無駄の真骨頂、非常に滑稽なグリッターが出来上がる。



微炭酸が淡くなっていくのが悔しくて、炭酸水を注ぐ。


シャンパンに氷。微炭酸に強炭酸。


そんな馬鹿らしい発想を嘲笑いつつ、ひとくち含むと舌が痺れた。更に味は薄くなる。










× × ×





この世に必要なのは無駄である。






ムダなものは儚く、愛しい。


例えば本体のないゲームソフトの収集、

セキュリティも糞もないiphoneロック解除パスワード0000、

どう頑張ったって得ようのない朝の占いのラッキーアイテムうさぎの巨大なぬいぐるみ、

非難轟々の原宿駅現代化。





好意は面倒だが、愛は欲しい。



無償の愛も金も要らないから


有償の愛が欲しい。





ガラス張りのシャワー・ルームに敷き詰まる水滴を眺めながら、

夢と幻、その違いについて真面目に考えた。


頭の先から滑り落ち、やがて爪先から排水溝へと流れゆく雨粒の軌跡は無味だった。



考えに考え抜いて、結果的にラズベリーとクランベリー程度の

違いしかないという結論へと導かれた。では、ブルーベリーではどうだろう。

そんな無駄にムダを重ねた思考は、やがてはストロベリーを生み出すってものだろうか。




濡れた髪を荒く梳きながらテレビを付けるも、

面白みもないバラエティ番組しかチャンネルの選択肢がなかった。


なんとかして意味を見出そうとして空回るゴールデンタイムのバラエティよりも、

真夜中のテレフォンショッピング、あるいは真昼間のサスペンスの再放送の方が

無意味な無駄が研ぎ澄まされている気がする。




精巧であればあるほど、無駄は美しい。



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