第十章 表彰と殺害疑惑
「なんだこれは・・・」
明らかに目的をもって物色したと思われる荒れ方をした部屋の中心にルウォーズはうつ伏せに倒れ、その背中にはナイフが突き立っていた。
ソウルは驚きつつも冷静さを保ち、まずルウォーズに駆け寄って脈をとるも、既に事切れている確認にしかならない。
身体の温かさや周囲の血液の様子を見て、まだ死んでからそれほど時間が経っていない事はすぐに分かる。
だが、かつて『鳳凰の飛翔師』として名を馳せたルウォーズ=センテリウスが明らかに殺されたと分かる状態で部屋の中央に倒れている。
ソウル達がグリーズデラブレー討伐に赴いた時には当然生きており、倒して、さらに殆ど崩壊状態だった町の修復をある程度行ってからこの部屋に戻って来るまでおよそ五時間。
その間に、少なくともウレ王国ではその名を知らぬ者などいないほどの強者であるルウォーズが簡単に殺される筈が無い。
だが事実、ルウォーズは殺されている。
侵入も撤退も決してソウル達に気付かれる事無く。
「不死なる鳳凰も、だが無敵ではなかったか・・・」
誰しもが言葉を失っている中で、フィルがポツリと口を開いた。
≪不死なる鳳凰≫・・・それはルウォーズが≪鳳凰の飛翔師≫の銘を受けた原因であり、最も得意していた魔法である≪ファルセルス≫の別名。
裂こうが砕こうが、死ぬ事は無く増え続け、いつか敵を圧倒する炎の擬態。
ソウルの知る限り、過去一度たりとも破られた事は無かった筈だ。
「で、でも!一体いつ誰がこんな事をしたって言うの!?」
おそらく、思考回路は冷静に働いているのであろうハリアが、しかし感情的にはとても冷静でいられなかったようで、ヒステリックに金切り声を出す。
それはルウォーズが亡くなった悲しさよりもそんな事が出来る者に対する恐怖心が上回っている様な、そんな声だ。
「ルウォーズ・・・校長・・・」
声を発す事無く無残に横たわるルウォーズの死体を見つめながら、クライスは小さく呟いた。
悔しさを噛み潰しているのか、歯噛みして、掌をグッと握り締めている。
「・・・」
それが穏やかな死に顔であったなら、誰もここまで言葉を失う事も無かっただろう。
ルウォーズの目は信じられないと言った驚愕に見開かれている、それも苦痛の。
とても安楽死したようには見えなかった。
レイアーズが無言でルウォーズの死体に近寄り、ソッと両目を閉じさせた。
「なぁソウル。」
「なんだよレイアーズ。」
レイアーズは背中越しに、いつもの能天気な感じの抜けた真面目な口調でソウルに話しかける。
部屋は物色されたように荒らされてはいるが、戦闘による破壊の痕はほとんど見られない。
せいぜいがルウォーズが吹き飛ばしたであろう部屋の一角程度。
それはつまり、殆ど一方的に、それもルウォーズが反撃する機会も無いほどに瞬殺であったということか。
それでなければ、ルウォーズの魔法でこんなにも部屋が綺麗に残っていることなどありえない。
≪ファルセルス≫による最強最後の攻撃も発動する暇も無かったと見える。
「こんなこと・・・簡単には出来ないよな・・・」
「少なくとも俺には不可能だ。」
ソウルの脳内には、声を掛けられるまでずっとその存在に気付かなかったあの黒髪の男の姿が残っていた。
☆
ルウォーズの葬儀は身内のみで厳かに行われたらしい。
故人が死して人の時間を割かせるのを良しとしなかった為だ。
「休校かぁ。」
「そうだな。」
グリーズデラブレーによって町は半壊状態。
死傷者も多数出て、その騒ぎに乗じて、ストラート魔法学校の校長が何者かに殺されたとなってはそれも仕方のない事だとソウルは納得している。
「疑い・・・晴れるかなぁ・・・」
「潔白である以上、疑いは必ず晴れる。殺せばどこかにその証拠が残るように、殺さなければ殺さなかった証拠がどこかに残るものだからな。」
あの後、何らかの用事で校長室にやって来た教師によってルウォーズの死体は発見され、騒ぎはすぐに広まった。
その際に、都合悪くその場にいた五人、すなわちソウル、レイアーズ、ハリア、クライス、フィルは第一級の容疑者となってしまったわけだが、ソウルはそれほど悲観してはいない。
生徒がルウォーズをナイフで殺すなど限りなく不可能であることが分かり切っているからだ。
「しかしおかしいな・・・」
「何がだ?ソウル。」
しかし、その状況にソウルは引っかかるものを感じる。
「俺達が犯人だと思われると言う事は、俺達があの部屋に入る前には誰も校長室に近寄らなかったという事だ。外で戦っていた俺達には兎も角、内部に残っていた千人近い生徒や、または教師全員が気付かなかったなんて事はあり得るのか?」
「そう言われてみれば・・・」
レイアーズも何か得心が言ったように顎に手を当てて考え込む。
おかしい事はまだある。
校長室は別に完全防音になっているわけじゃない。
あの部屋で戦闘があったのならば、その音を聞いて駆け付ける人間がいても良い筈だ。
「それにだ、ルウォーズ程の人間が相手との力の差が分からなかったはずがない。瞬殺されるほどの相手にルウォーズは一人で応戦しようとしたのか?何か、助けが呼べない状況にでもあったのか・・・」
「一つ気付いたんだけどよ、」
気付いた違和感について、声に出しながら思考していると、ふとレイアーズが声を出した。
「どうした?」
「さっきから言っているのは、相手が一人だった場合だろ?複数だったらどうなるんだ?」
「確かにそれは考えていなかったな・・・しかし同様だろう?音や戦闘の気配などはむしろ相手が複数であった方がより大きく感じる筈だ。」
「ああ・・・そうだな。」
そこで思考は行き詰る。
「動機も分からなければ、方法も分からない。物色された跡があるにしても、元々何があの場にあったのかが分からなければどうしようもない。」
「八方塞ってわけか。」
レイアーズの言う通りだ。
どのように考えても、途中で袋小路に迷い込む。
勿論ソウルは気配と存在を隠蔽する上位魔法≪スティルレクト≫の存在を知っているが、それは戦闘の気配まで覆い隠しはしない。
つまり、校長室で誰にも気づかれずにルウォーズを殺害する方法としてはこれだけでは説明がつかない。
「で、どうするって言うんだ?」
「お前はどうしたいんだ?レイアーズ。」
ソウルとレイアーズは現在、ソウルの自宅のソファーで座って話し合っている。
疑いの晴れない今、ストラートの町の自警団に家に留まっているように言われたからだ。
ちなみに、ハリアは風呂に、クライスは眠って使った魔力の回復を図り、フィルはここにいるが目を閉じて瞑想をして、一応全員ソウルの家の中にいる。
「旅に出たい。」
「現実逃避も大概にしろよ。」
後程、全員取り調べを行うと言われ、できれば全員固まっていて欲しいと言われたのでソウル達は大人しくここにいる。
する事も無く退屈なので、ソウルとレイアーズはルウォーズの件について思考を巡らせているのだ。
もっとも、何度思考を繰り返しても、結局は同じ場所で行き詰るのだが。
「そういえばさ、」
「なんだ?」
ふと、レイアーズが話題を転換する様に口を開く。
「あの二人、え〜と・・・なんてったけ・・・あの・・・」
「カイとバルアだったか?」
「そうそう、その二人。」
「ウレ国王直属の『レギオン』だって言ってたな。」
グリーズデラブレーをフィルが倒して少しした後、王宮からの救援であるという二人の男が現れた。
一人は、痩身の男。首の後ろで一本に束ねられた緋色の髪が特徴。壮麗だが鋭い突き刺す様な視線と必要以上の言葉を発しない様子から気難しい性格の印象を受けた。
一人は、大柄な巨漢。短目に切り揃えられて逆立つ黄緑色の髪が特徴。やや幼さの残る顔立ちをしていたが、しかし数々の視線を潜り抜けたと思われる精悍な表情をしており、女性受けをしないタイプの端麗さが窺える。表情は豊かで性格的に軽薄そうな印象を受けた。
そういえば「王宮の方に救援要請を出してあるから、それが来るまで持ちこたえて欲しい」というのがルウォーズの最初の説明だったか、とソウルは思い出していたが、まさかたった二人とは思っていなかった。
「格好良かったよな〜。」
「それは見た目の話か?」
「それもあるけど、なんて言うかさ・・・風格。」
「分からんでもないが・・・」
二人はグリーズデラブレーの死体を見て軽く表情を驚愕に歪め、何事かを話し合った後、「報告のために一部をもって帰る」と宣言して角を一本折り、筋肉の一部を切り取って保存用の入れ物に入れて去って行った。
特に話は聞けなかったが、二人が並の使い手でない事はすぐに分かった。
身体から溢れんばかりに放出される覇気が桁違いなのだ。
特に痩身の方(カイと名乗った)は、ソウルが今まであった人間など比べ物にならないほどの身体能力と魔力を保有している事が感じ取れた。
実力者は自身の魔力を抑え込んで隠す事が出来るが、そんな事をする事すら馬鹿らしいほどに巨大で膨大な魔力であった。
巨漢の方(バルアと名乗った)だって、カイに負けず劣らずの力を持っている事が分かったが、こちらは体内に魔力を感じなかったから魔法師ではないのだろう。
ただ、肩に担いでいたバルアの身長以上の大きさを誇る無骨な大剣には目を引かれたが。
「・・・結局のところ、いつまでこうしていれば良いんだろうな・・・」
少しの沈黙の後、突如としてレイアーズは今までの話題も慮らず、そんな事を言いだした。
今後の不安の募らせ、その不安を一時的に忘れるための質問であろうことはソウルには容易に想像できる。
「さぁな。」
ソウルは自身の事を少なくとも無愛想な人間であろうと自覚していたが、それでもそこまで素っ気なく突き放すような言い方をしてしまうとは思わなかった。
「(つまり、俺も不安に感じているという事か・・・)」
表情を変えずにそう思う。
ルウォーズですら相手にならないほどの敵。
もしその牙が敵意をもって自分に向いた時、ソウルにもレイアーズにも歯向かうほどの力も手段も無い。
自身の弱さへの焦りと強くなるためにどうすれば良いか分からない憤り。
それらを綯い交ぜにした様な形容し難い不安感はソウルすらその心の有り様を軽々と打ち崩す。
「ありがとう。良い湯だったわ。」
そこにハリアが戻って来る。
仮眠をとっていた筈のクライスも幾分楽になったような表情をして傍らに立っていた。
湯に濡れて艶のある金髪を櫛で整えながらハリアはソファに腰を掛ける。
寝ていたクライスの髪は寝癖がついてクシャクシャになっていたが、こちらはハリアと違い、特に気にする風も無い。
「ほら、髪くらい整えなさいよ。」
「あ、ありがと・・・」
自身の髪を整え終えたハリアが今度はクライスの髪に甲斐甲斐しく櫛を通していく。
その様子はさながら仲睦まじい夫婦の様である。
もっとも、仲睦まじいのは事実であるが。
「二人だ。」
やや顔を赤らめながらもクライスが大人しくハリアに髪を整えてもらい、やがてそれが終わる頃になって突然フィルが呟いた。
一瞬その意味をソウルは考えて、やがてそれが来客の人数だと悟る。
「総決済ってのはこんな気分なのかなぁ・・・」
「なにを大袈裟な。」
冗談めかして言うレイアーズにはソウルが相の手を打つ。
レイアーズの足が緊張のためか恐怖のためかガクガクと震えていた事はソウルは見なかった事にした。
−コンコン−
「お邪魔しますよっと。」
「・・・」
フィルの言葉通り、鍵の掛っていない扉をノックした後、開けて入って来たのは二人組の男だった。
片や痩身、片や巨漢。
先刻救援にやって来たと言ったカイとバルアだ。
バルアは軽い調子で頭を下げながら入って来たが、カイの方は表情を硬く引き締めながら無言でバルアの後ろを付いて歩いていた。
「・・・」
やって来た予想外の二人にフィルですら言葉を失っている様だ。
せいぜいがストラートの町の自警団の人間が来ると思っていたのだから。
「とりあえず自己紹介しとくか?」
「好きにしろ。」
唖然としているソウル達を目の前にしてバルアが困ったように頭を掻き、カイに助けを請うように視線を向けるが、カイは取りつく島も無く言い捨てた。
「ハハ・・・じゃあ俺から。俺の名前はバルア=ギレ。銘は『剛断の巨剣闘士』。よろしく。」
「カイ=ルネスト・・・銘は・・・『魔麗の剣士』。」
「ウレ王国現国王オールグイユ=ウレ=ダリヴェルン直属レギオン『カイ&バルア』所属ってか二人しかいないんだけどな。ってわけで、そちらもって・・・あれ?」
名乗りを聞いてソウル達の間にさらなる緊張の空気が奔る。
その空気にバルアは困惑し、もう一度カイに視線を向けるがカイは反応しない。
「『魔麗の剣士』に『剛断の巨剣闘士』・・・だってよ?ソウル。」
「ウレ王国最強戦士じゃねぇかよ。」
ウレ王国内どころかクレントリア全土を見ても五指に入るであろう実力者として『魔麗の剣士』と『剛断の巨剣闘士』の名は知られている。
しかし、そこまで有名になると、むしろ銘ばかりが広まって本名や容姿などが伝わらない事がままある。
ソウル達がそれほどの有名人の容姿を知らなかったのもそう言う理由だ。
「ウレ王国最強だなんておこがましい。常に上を向いて精進する日々だよ。なぁ?カイ?」
「どうでもいい。」
カイの対応は素っ気ない。
バルアはまたしても困った顔をして頭を掻きながらソウル達に向き直った。
「で?その最強戦士様が何の用なの?下らない用事じゃないでしょうね?」
「ハリア、もう少し言い方ってものが・・・」
「良いのよ。だって、何も悪くないのにこんな所に閉じ込められてたのよ?文句を言う権利くらいはあるわ。」
「気持ちは分かるけど・・・」
バルアの軽い調子に当てられてか緊張の取れたらしいハリアが常の高飛車な態度でバルアに向かって言葉を叩きつける。
バルアは頭を掻きながら「全く以て申し訳ない」と困り顔で器用に笑って言った。
「こんなところで悪かったな」とソウルが小さく呟いたのは恐らく誰にも聞こえなかっただろう。
「まあまあ要件を言う前に名乗って貰っても良いでしょう?じゃあそちらの金髪のお嬢さん。お名前は?」
そしてバルアは口調をさらに緩めた軟らかい言葉でハリアに名前を聞く。
「・・・・・ハリア・・・ハリア=レジェスターよ。」
ハリアは一瞬「馬鹿にされた」と思ったようだが、それで怒り出すほど子供ではないだろう。
すぐに落ち着いた様子で言葉を紡ぎ出した。
「では、そちらは?」
「僕ですか?僕の名前はクライス=ストルヴェルです。よろしくお願いします。」
ハリアの高飛車な態度と違って物腰丁寧。
実際、きちんと腰を曲げて挨拶をする所などは絵に描いた様な優等生ぶりだ。
それが偽善らしくも見えないのは、クライスが根っから真面目だからだろう。
「最後の血族に悲劇の召喚師か・・・」
カイは二人の姓名を繰り返して言い直しただけだと言うのに、ソウルはそこに何か別の含みがある様に感じ取った。
もっとも、その正体はソウルには分からないのだが。
「では、そちらのお二人は?」
今度はバルアはソウルとレイアーズに向けて同じ質問をする。
ソウルはカイの呟きについてを思考の外に追い出し、そしてバルアの質問に答える。
「ソウル=エルトライト。」
「レイアーズ=クルストスです。以後よろしくぅ。」
ソウルは名前だけをはっきりと答えたが、レイアーズは恐れ知らずにも握手を求めて手を突き出した。
「ああ。これはどうも。」
その手をバルアは嬉しそうに握る。
この二人、何か通じ合う物があるのかも知れない。
その様子を今度はカイは黙ってつまらなさそうに見ていた。
「で、最後に・・・」
「フィル=ライシェイだ。」
バルアが今だ床に座って瞑想しているフィルに近付こうとしたところを遮って、フィルは自分の名前を答えた。
バルアは何か思うところがあるような複雑な表情をしたが、何も言うなという様なフィルの目線に気圧されてか口を噤んだ。
「なるほどなるほど。なかなかどうして・・・」
全員の名前を聞き終わり、バルアは考える様に指先を顎に当てる。
しかし、その能天気な印象のせいで、何かを深く考えている様には見えない。
「で、結局何なのよ!」
煮え切らない様なバルアの態度にハリアの苛立ちも限界に達したのか、少し声を荒げてバルアに問う。
当のバルアは飄々として焦らすばかりだ。
ハリアでなくとも苛立ちは募るだろう。
実際、ソウルも若干イライラし始めていた。
「で、俺が言うのか?」
「早く言え。」
少しバルアは黙考した後、何かを嫌がる様にカイへ視線を流すが、カイは取りつく島なくバルアに先を促した。
やがてバルアは諦めたように大袈裟にゴホンと一つ咳払いをすると、懐から封書を取り出し、広げながら急に厳格な表情を作って口を開く。
「『クライス=ストルヴェル、ハリア=レジェスター、ソウル=エルトライト、レイアーズ=クルストス、フィル=ライシェイ。以上の五名をグリーズデラブレー討伐の栄誉を称え恩賞を送ると共に、ルウォーズ=センテリウス殺害のにおける重要参考人としてウレ王国首都『ウレ』へ連行する物とする。』以上、ウレ王国国王オールグイユ=ウレ=ダリヴェルン署名。」
幸運と不運は本当に紙一重なのだな、とソウルは思った。
☆
ソウル達の暮らすクレントリア大陸は大きく分けて四つの地域に分けられる。
北は年中吹雪の吹き荒れる極寒の地『スノフメル』。
南は灼熱の太陽が照り続ける乾燥した砂漠の地『サラベータ』。
西は水に恵まれ、最も多くの生物が暮らす平原と山脈の地『レーガス』。
東は鬱蒼とした森林に覆われ、殆ど人の立ち入る事の無い前人未到の地『ケルモネ』。
それら四つの地域と諸々の島々を合わせた大陸、それがクレントリア大陸である。
ウレ王国はその内のレーガスに属し、レーガスにある国の中では最も治安が良いと言われている。
異国人にも広く門戸は開けられ、隣国のオスカン公国やスラゼタ帝国、また、遠方のスノフメルに属すヒムリャ公国などからも多くの商人や職人などが国境を越えて集まっている。
その代わり、犯罪などに対する態度は厳格で、『犯罪者は人ではない』という基本精神の元、有罪が確定した人間に対しては、最も軽くて国外追放、重罪には死刑よりさらに辛い刑罰が待っていると住民の間では噂されている。
その国風があって、ウレ王国はレーガス一の治安の良さを誇り、また、厳格でありつつも国民全員に優しい現国王オールグイユ=ウレ=ダリヴェルンは尊敬の対象である。
そのウレ王国と同じ名のついた名誉ある町、それが首都である城下町ウレだ。
町の中からはどこからでも高く荘厳に聳え立つ王宮を見る事ができ、またその城は難攻不落。
かのデラブレーが十頭同時に突っ込んで来ても耐えられるよう設計された堅固な城壁内に緊急時は住民全員が避難する事となっている。
「もう俺、心臓が口から跳び出しそう・・・」
「気持ちは分からんでもない。」
現在ソウル達はその王宮の中、国王への謁見を待つ人間のための応接室に座って待たされている。
なんでも、表彰と尋問を同時に行うなど前代未聞の事だそうで、その準備が忙しいのだとか。
「・・・」
「クライス・・・大丈夫?」
「う・・・うん。」
ストラートの町から馬車でおよそ一日。
カイとバルアによってこの場所へ連れて来られた。
長旅による疲れに国王に謁見する緊張、そして表彰される嬉しさと自らが重要参考人という不安、そんな物全てが綯い交ぜになってプレッシャーで潰されない人間など数えるほどもいないだろう。
実際、ソウルもレイアーズもハリアも見るからに口数が少なく、クライスに至っては少々顔色が悪い。
もともとあまり話さないフィルは良く分からなかったが。
「皆さま、謁見の準備が整いました。どうぞ、こちらへ。」
いくらルウォーズ殺害の疑いが掛っているとはいえ、現時点ではまだソウル達は客人。
城に努める兵士は極めて丁寧に腰を折って一礼し、そしてソウル達を先導して歩き始める。
ソウル達は黙ってその兵士の先導に従い、黙って歩き始める。
やがて一際目立つ大きな扉に辿り着き、その両脇に立っている護衛兵らしき二人がソウル達を先導してきた兵士と視線を合わせて頷き合い、その二人の護衛兵はほぼ同時のタイミングで扉を左右に開けた。
ブワッという応接室からここまでの回廊とは違う雰囲気の空気が扉の中から溢れてソウル達を包み込む。
「ここが・・・」
思わず息を呑むほどに、圧観で壮観な部屋が視界に開けた。
その中央、部屋の一番奥の床より三段高くに設置された玉座に深々と座り、貫禄のある威圧感を放っている人物こそ、ウレ王国現国王オールグイユ=ウレ=ダリヴェルンその人だ。
「入りたまえ。」
声は潰れたような嗄れ声。
すでに老人と言っても差し支えないほどの年。
だというのに、その荘厳な雰囲気には少しの衰えも見えない。
「・・・失礼します。」
クライスが代表してそう言いながら、先頭を切って謁見の間に入る。
そこは、賞賛と失望を綯い交ぜにした様な異質な空気の流れる、少なくともここまで歩いてきた回廊とは全く別次元の、言わば異世界であるように思われた。
本来ならばバルアが封書を読み上げた所で章を区切るべきだったのでしょうけど、僕は零顕ソウルでは一章の長さを八千五百文字前後と決めているので、そこで区切ると少し短かったのです。
だからここまで書きました。
特段深い意味はありません。
ところで、感想ください。
どこが悪い、どこが良いなんていうアドバイスも今後の話作りの参考にしていくので、思った事をガンガン教えてください。