奇妙な場所
こういう内容って、ジャンル的にはどれに分類されるのですかね?
よくわからないので、とりあえず「その他」にしてしまいましたが・・・。
ーなんだここは・・・?ー
ふと気が付くと、ピピロは全く見覚えの無い場所に立っていた。
周りを見渡すと、今まで見たこともないほどの数の人間が、何列にもわたって整然と並んでいる。自分の左右にも、前後にも、全方位に渡ってだ。自分が立っている場所だけではない。目の前にはなにやら白い壁が広がっており、その壁から少し離れた向こう側にも、同じような白い壁が広がっている。そして、その奥にもやはり、こちらと同じように何十人、いや、何百人という数の人間が、規則正しく、ずらりと並んでいる。
ーこれほどの数の人間は、村の祭りでも見たことがない。よほど盛大な、祭りかなにかあるのだろうか・・・しかし・・・ー
ピピロは思った。
ーそれにしては皆、同じ所に突っ立ったまま、やけにだんまりとしているな。それに、ほとんどの人が、下を向いたままだ・・・ー
彼の周りで、口を開く者はひとりもいなかった。ほとんどの人は一言も言葉を発しないまま、手元の、やはり今まで見たことの無い不思議な物体をじっと見つめているか、その物体の上を親指で撫でている。
ーそれに何より・・・ー
それに何より、彼の周りで、祭りの時のような満面の笑顔をしている者は、ひとりもいなかった。皆、全くの無表情か、狩りを終えた後のような疲れきった顔をしていた。いや、それとも違う。狩りが終わった後は確かにくたくただが、命の限り戦い、その見返りとしての確かな成果を得た、えもいわれぬ爽快感やたち成感がある。この人たちには、それが全く感じられない。何かどんよりとした、肩に黒い重荷でも背負っているかのような、そんな顔だ。
ーということは、これは祭りのはずがないな。こんな顔をして参加する祭りなどない・・・ー
ピピロはそう思った。
さらによく見回してみると、ピピロはまたあることに気が付いた。
ーここにいる男たちは、皆同じようなものを着ているな。上半身には、首を中途半端に隠したなにやら布のようなものの上に、さらにもう1枚、手首まで身体を覆う、やはり布のようなものを重ねて身に付けている。下半身には、足首まで覆い隠す長い布を着ている。色に関してはまちまちだが、布の形に関しては、皆、一緒だ・・・ん?ー
よく見ると、自分自身も、周りの男たちと同じ服装をしている。
ーいつの間に・・・それにしても、これがこの村の風習なのだろうか?ずいぶんと、重い布だな。それに、上に身に付けた2枚の布は、結局、どちらも手首まで覆っているじゃないか。下半身の布も足首まですっぽりと覆っているし、やたらと厳重に身体を守っているのだな・・・ー
ピピロの村の人間も、もちろん布で身体を覆っている。しかし、ここまで厳重ではない。
第一、揃いも揃って同じような形の布を身に付けている、というのが、彼には不思議でならなかった。彼の村の人間は、それぞれが思い思いの形の布を着ている。肘の上まで覆うものであったり、もっと短かったり、極端な場合、ほとんど裸と言っても良い程度しか身体を覆っていない者もいる。しかし、温暖な気候のピピロの村では、それで死ぬような心配は無い。他人の服装を、わざわざ咎める者もいない。
ーそれなのに、皆が皆同じ服装をして、暑苦しく思う者はいないのだろうか?それともこれは、何か特別な意味でも持った布なのだろうか?まさかこんなものを、意味も無く着ている訳もあるまいが・・・ー
ピピロはそれを、周りの者に聞いてみたかった。いやそれ以前に、ここがいったいどこなのか、皆はなぜこんな場所に、こんな整然と密集しているか、知りたくてたまらなかった。
しかし結局、周りの者に声を掛けることは出来なかった。それはなにも、彼が人見知りであったからではない。むしろ普段のピピロは、誰とでも仲良くなることが出来る、快活で明るい男だ。
ではなぜ声を掛けられなかったか?それは、周囲を覆う、重苦しい空気が原因だった。ピピロにはそれが、
「わたしに話しかけるな」
という無言の圧力のように感じた。実際、自分の身体が時々周りの者と触れたりぶつかったりしても、周りの者は何も言葉を発しない。良くて、こちらをほんのちらりと見るだけだ。それは、ピピロの常識ではあり得ないことだった。
ーもしや、この村の人々は、言葉を持たない人間たちなのだろうか?ー
そうピピロが思い始めた直後、
「★※§△◯♧★¶」
女性と思わしき人間の声が、ピピロたちのいる空間に響き渡った。しかし、何を伝えているのかは全く分からない。どうやら、ピピロの住む村のそれとは、全く異なる言語を使っているようだ。
ーなんだ、言葉はあるんじゃないか・・・それにしても、ずいぶんな大声を持つ女だな、どこにいるのだろう?ー
そう思ったピピロは、謎の大声を発する女を探すべく、辺りを見渡した。しかし、彼を囲む大量の人間に阻まれるせいか、お目当ての女は見当たらない。
ーおかしいな・・・これほどはっきりと声が聞こえるのなら、見えないほど遠くにいる筈はないのだが・・・ー
そう訝しんだ次の瞬間、またまたピピロの目に、今まで見たことも無いものが飛び込んできた。それは、細長い筒のような形をした銀色の物体で、不思議な甲高い音を発しながら、彼の右手から左へと滑るように進み、やがて、前に広がる白い壁を挟んだすぐ目の前で止まった。
ーな、なんなんだ、これは・・・ー
しかしながら、それが何なのか考える時間は無かった。謎の物体が完全に止まり、目の前の壁と物体がぱっくりと口を開けた次の瞬間、彼の周囲にいる人間たちが、一斉にその口へ殺到し始めたのだ。
ーなんだなんだ!?今度は何が起きている!?ー
ピピロには、その人間たちの波に逆らうことさえ出来なかった。そのまま波に押し流されるようにして、彼は謎の物体の中に入ってしまった。
ーなんということだ、すぐに出なければ・・・ー
しかし、もはや物体からの脱出は難しそうであった。入ってきた時の口からはだいぶ離されてしまったし、何より口にたどり着くまでの間には、後から入ってきた何人もの人間の塊を掻き分けなければならない。
ーこの人数を掻き分けるには、かなり手荒な手段をとらねばならぬが、そんなことをすれば、相手から何をされるか分からん。なにせこの人数が相手では、喧嘩になった時に勝ち目がない・・・。仕方がない、元々、ここがどこなのかもよく分からない身だ。しばらく、このまま様子を見るか。・・・それにしても・・・ー
それにしても、この人間の詰め込まれ具合はどうだ。たいして広くもない物体の中に、いったい、何十人の人間が居ることか。改めて見回すと、物体内部の壁際に居る人々は皆座っているのに、壁と壁に挟まれた空間に居る人々は、ほとんど肌が触れ合わんばかりに密集して立っている。
ーもしかするとこの村の人々は、皆がお互いにとても親しい関係にある、素晴らしい村なのだろうかー
ピピロはいったん、そんな仮説を立ててみた。そうでなければ、お互いがこれほどに至近距離に立っていられる説明がつかない気がした。
しかし、彼はすぐに自分の仮説を取り下げざるを得なかった。目の前の人間たちは、あまりにも無表情だ。それに、お互いに顔を合わせる素振りさえ無く、先ほどからお馴染みの、手元の不思議な物体を、ただひたすらにいじくっている。こんな様子の者たちが、お互いに親しい間柄であるようには、ピピロにはどうしても見えなかった。
ーとすると、なぜだ?なぜこの人たちは、こんなに密集してまで、この狭い空間の中に立っているんだ?・・・そうか!ー
ということは、この人たちは誰かに無理矢理この空間に押し込まれたのだな。ピピロはそう推理した。この推理は、我ながらかなり信憑性があるように思われた。なにより、先ほどの自分がそうであったし、彼らの表情の無い顔付きからしても、これは明らかに彼らの意思に反した状況であるように思われた。
ーとなると、誰が我々をこの空間に押し込んだのだろう・・・?これだけの人数が逆らうことの出来ない相手だ。恐らく、人間の力を越えた相手に違いない・・・ー
ピピロはさらにそう推理した。
えらいところに来てしまった。そんな恐ろしいものが支配する村からなど、早く抜け出したい。早く、平和な自分の村に戻りたい。得体の知れない恐ろしい怪物などではなく、愛と慈しみが人々を満たす、あの美しい村へ。しかし、無理にこの物体から出ようとしても、何人もの人間たちが行く手を遮る。無理矢理に押し通ろうとすれば、どんな目に遭うか分からない。目の前の人間たちを支配していると思われる、恐ろしい怪物に襲われるかもしれない。いやその前に、目の前の何十人もの人間から袋叩きに遭うかもしれない。従って、どうすることも出来ない。ただ、この人ごみの密集の中で、観念して立っているしかない。
ーああ、なぜこうなってしまったのだ!ー
ピピロは叫んだ。ただし、心の中で。
ーオレが、何をしたというのだ!こんな仕打ちを受けるいわれはないはずだ!確かに、全く悪いことをして来なかったと言えば、それは嘘になる。子供の頃、我が家の大事な壺を割ってしまったのに、そのまま黙っていたこともある。友達を泣かせたこともある。だが、そんなことは誰でも1度や2度はあるはずだ。少なくともオレは、それ以上の悪いことはしなかった。村の者に親切にしてきた。困っている仲間は助けるようにしてきた。村の狩りには率先して参加し、かといって手柄を独り占めするような真似はしなかった。どれも、愛する父親や母親の言いつけに従ったのだ。正しいことだと思ってやってきたのだ!ああ、それなのに、なぜオレだけ・・・なぜオレだけ、こんな目に遭わなければならないのだ!ー
そんな怒りと悲しみが、彼の心の中に渦巻いた。しかし不思議なことに、その心が声となって出ることは無かった。いや正確には、彼自身が、声を出す気にならなかった。従って外見上は、ピピロはずっと黙っていた。黙ってぼんやりと、前を見つめていた。
突然、聞いたことのない音楽が響き渡った。その音は、ピピロたちが押し込まれている物体の中からではなく、外から流れ込んで来る音のようであった。やがて、その音楽は聞こえなくなり、それと入れ替わるように、ピピロを飲み込んだ物体の口が閉まった。そして物体は、静かに動き出した。
ーああ、どうしたら良かろう?ー
走る謎の物体の中で、無言のピピロは静かに絶望していた。
ーいったい、オレたちはどこへ連れていかれるのだろう。周りの人たちは、自分たちがどこへ向かっているのか分かっているのだろうか?だいたい、こんな状況だというのに、なぜこの人たちはこんなに静かで、しかも無表情なんだ?もしや、自分たちのこの状況に、諦めきっているのか?だとしたら、これだけの人間を諦めさせる相手とは、いったいどれだけ強大な怪物なんだ・・・ー
そんなことを思っているうちに、物体は静かに速度を落とし、やがて止まった。
ーおや、やけに早く止まったが・・・いずれにせよ、オレたちはこの物体から降ろされた後、どうなるのだろうか?まさか、怪物のエサになるのでは・・・ー
しかしそんな心配とは裏腹に、再び開いた物体の口から、人々は降りようとしなかった。逆に、新しい人間たちが、次々と開いた口から飲み込まれて来るではないか。
こうして、ただでさえ密集状態であった内部に、さらに人間を詰め込んだ物体は、その口を閉じ、また静かに動き出した。もはや人と人との間は、肌が「触れ合わんばかり」どころではなく、本当に触れ合っている箇所もあった。特に、人々を飲み込んだ物体の口の付近は目を覆わんばかりの状況で、自分の足の置き所さえままならない者が、壁際に座る者の上に覆い被さるような姿勢で、辛うじて身体を支えていた。
それでも、人間たちは相変わらずの無表情であった。口のそばに座る者たちは、他人が自分を覆うように立っているにも関わらず、まるでそれに気づいていないかのように、ただ俯いて座っていた。
その後も、ピピロたちを乗せた物体は、走っては止まり、走っては止まりを繰り返しながらも、彼らをどこかへと運んで行った。止まるたびに、新たな人間が飲み込まれてきた。
初めは心の余裕が無かったピピロも、物体が進んでは止まりを繰り返しているうちに、次第に余裕を取り戻してきた。そして、落ち着いた心で新たに飲み込まれてくる人々を見ている中で、ある違和感を覚えた。
ーおかしいな・・・この人たちは、誰かに無理矢理、ここに押し込まれているんじゃないのか・・・?それにしては、新しくここに入ってくる人々の様子を見ていると、どうも自分からここに入ってくるように見える。少なくとも、誰かに押されて、とかではなく、自分の足でここに入って来ている。どういうことだ?なぜ、こんな場所に自分から入ろうと思う?ここは何か、特別な場所なのか?もしや、特別な身分の人々だけが入ることを認められた、神聖な場所なのか?ー
一瞬、そんな考えが頭をよぎったピピロだが、すぐにそれを打ち消した。
ーいやいや、そんなはずは無い。こんな、人間が、人間以外の家畜か何かのように、ぎちぎちに詰め込まれている場所が、神聖な筈はない。きっと、新しく入ってくる人たちも、オレからは見えない位置から怪物に脅されて、嫌々ここに入ってきているに違いない。もしや、怪物というのは、人間風情の目には映らない存在なのか・・・ー
そんなことを考えているうちにも、物体はどんどん進んでいった。どんどん人間を飲み込んでいった。ある停止場所では、物体の口が閉じようとした所に人が飛び入り、手に持っていた黒い何かが口に挟まれてしまった。どうするのかと見ていると、物体の外からまた別の男が駆けつけてきて、なにやら大声を叫びながら、口をこじ開けようとしていた。
ーもしや、我々を助けに?ー
とも思ったが、黒い何かが口の中にすっぽりと入った瞬間に、外の男はその手を離した。そして物体は、何ごとも無かったかのように、また走り出した・・・。
・・・いったい、どれだけの場所に止まっただろうか。ピピロの体力は、限界に近づいてきていた。これだけの人間の中に放り込まれるのはもちろん初めてであったし、物体の中の息苦しさにも、もはや耐えられなくなってきていた。
ーあとどれだけ運ばれれば、我々はここから出られるのだろうか・・・ー
彼は心の中で疲れきった声を発した。
ーまさか、ここから降りた後にも、何かする訳ではあるまいな。こんな酷い目にあった後は、もはや、何をすることも考えられん・・・いや、こんな酷いことをする怪物のことだ。当たり前のように、我々にまた何かを要求するかもしれん。はあ、なぜこんなことに・・・ー
やがて物体は、10何個目かの場所に止まった。
ーさて、今度は何人の人間を飲み込むつもりだ?もうこれ以上は、本当に入りきれないぞ・・・ー
そう思ったピピロの心配はしかし、物体が口を開いた瞬間に裏切られることになった。
なんと、それまで動かなかった人間たちの塊が、今度は一斉に口から出始めたのだ。ピピロは思わず、その人間たちの波を避けるために壁際に身体を寄せた。物体に押し込まれた時とは違い、波は、彼の身体を避けるようにして過ぎていった。波の一部は彼の腕や肩にぶつかっていったが、そまま何も言わずに去って行った。
やがて、内部のほとんどの人間を吐き出した物体は、今までと同じくその口を閉じ、また動き出した。物体の中には、呆然と立ちすくむピピロと、わずかに残された他の人間たちが居るのみであった。
ーいったい、この物体は、この物体に居た人間たちは、なんだったのだろう?ー
彼は思った。
ーオレは、あの人間たちは無理矢理にここに詰め込まれていたのだとばかり思っていた。しかし、先ほどの様子を見ていると、やはり、自分の意思でこれに乗り、自分の意思でここから降りたのだとしか思えない。でなければ、オレやこの少数の人々だけが降りなくとも済んだ理由がつかない・・・ー
ピピロの無言の独り言は続く。
ーだとすればなぜ、あの人たちは、自分からこんな場所へ飛び込んで来たのだろう?なぜ、あんなに不幸な顔をしながらも、こんな苦労に自らを委ねるのだろう?心を通わせる温かな会話も無い。身を休める落ち着きも無い。ただ、大量の人間の波の中で、無表情のまま、手元の不思議な物体をいじるだけだ。そんな場所に、自ら乗り込むとは。何とも、奇妙な場所だ。何とも、奇妙な人々だ・・・ー
そんなことを思っているうちに、ピピロの目に映る景色が急にグニャリとゆがんだ。それと共に、辺りが徐々に、白く霞んでいった。それでも、ピピロはこう考えることをやめなかった。
ー奇妙な場所だ、奇妙な人間たちだ・・・ー
ピピロはハッと目覚めた。見渡すと、そこは見慣れた、いつもの自分の土の家の中だった。窓から見える景色も、彼が生まれ育ってきた、いつもの村の景色であった。
ーそうか、あれは夢だったのかー
立ち上がりながら思った。
ーやけに生々しい、不思議な夢だった。それにしても、あの奇妙な物体と、奇妙な人間たちは、いったい何だったのだろう・・・ー
「やっと起きたのね、ピピロ。ずいぶんぐっすりと眠っていたようだけど」
見ると、母親がそばに立ち、こちらを見つめている。
「そうでしたか、ぐっすりと眠っていましたか・・・実は、今まで見たこともない、奇妙な夢を見ていましてね・・・」
「ピピロ!たいへんだ!」
ピピロが母親に夢の内容を語ろうとした時、彼の友人のラミラが駆け込んできた。
「おや、ラミラ、おはよう・・・」
「『おはよう』なんて言っている場合じゃない、海へ行ってみろ。凄いものが現れたぞ」
「『凄いもの』?」
「ああ。今まで見たことも無い巨大な船だ。オレたちがいつも漁に使っているものの、何倍、いや何十倍の大きさで、しかも1隻じゃない、何隻もが海の果てからやって来たんだ。その中には、やっぱり今まで見たことの無い、白い肌をした人間たちが大勢乗っている。どうやら彼らは、オレたちと話がしたいようだ」
「なんと、すぐ見に行こう!」
こう言ったきり、ピピロは彼の母親を置き去りにして、家を飛び出した。話しかけの夢の話も。もはや、ピピロの頭の中には、先ほどまでの夢のことはすっかり無かった。無邪気な彼の頭は、見たことも無いという巨大な船と、白い肌の人間のことで一杯だった。白い肌の人間というのは、どんな人間たちなのだろう?優しい人々だろうか?友達になれたらいいなぁ・・・。
・・・結論から言うと、白い肌の人間たちは優しい人々では無かった。当然友達にもならなかった。彼らは、上陸した土地の人々を言葉巧みにだまし、あるいは無理矢理縛り上げ、彼らの船に乗せてしまった。
ピピロもラミラも、彼らの船に無理矢理乗せられ、どこかへと運ばれた。抵抗しようと試みた者もいたが、白い肌の人間たちが持つ細長い筒が轟音を立てたとたん、その者は血を流し死んでいた。それ以来、ピピロたちは白い肌の人間たちを恐れ、抵抗を諦めた。
船は、付近の島から島へと止まり、そのたびに、島の住民たちを船の中に飲み込んだ。やがて、ピピロたちが押し込まれた部屋の中は人で一杯となり、足の踏み場さえ無い状態となった。初めのうちは、身体がぶつかり合うたびに
「おや、これは申し訳ない」
「いえいえ、良いんですよ、こんな状態ですから」
と言葉を交わし合っていた人々から、徐々に口数が減っていった。今では、肌が触れようが、身体がぶつかろうが、互いに何も言わない。もはや、悲しみや怒りの表情さえ無い。ただただ、無表情のまま、前をぼんやりと見つめるままである。そしてそんな船の中に、新しい人間たちが次々と容赦無く詰め込まれていく。
ピピロは無表情のまま、こう思った。
ーああ、何て苦しい場所だ。オレが、オレたちが、いったい何をしたと言うのだ。母さんに会いたい、家に帰りたい、懐かしい村の景色が見たい・・・そういえば、あの不思議な夢の時も、人間たちはこんなふうに詰め込まれ、皆、無表情だったな。入れ物自体は、ずいぶんと違うものだったが・・・あの人たちは、なぜあんな場所に、自分から乗り込んで来たのだろう。やはり、オレたちと同じように、騙されたのだろうか?しかしだとすれば、後から入ってきた人たちはどうだ?あの人たちからは、あの物体の中身が人間で一杯なことが見えていたはずだ。うーん、分からん、全く分からん。考えれば考えるほど、奇妙な人間たちだ。奇妙な場所だ・・・ー
お読みいただき、ありがとうございました。
もしよろしければ、簡単で構わないので感想をお聞かせください。
(「この部分が読みづらい」「何が言いたいのかよくわからん」等のご指摘大歓迎です)