夕立ち
西の空は淀んでいた。
暗雲は山の稜線に寝そべっていた。
夏の終わりの頃であった。
窮鼠猫を噛むとはよく言ったもので、窮地の際、動けるのが大衆、動けないのが個人であるとそう思っていた。自分は残念ながら平々凡々な後者であり、大衆に飲まれて群れをなす1人でいいと、個性を押し殺してでも、一人にはなりたくなかった自分の弱さに反吐が出そうになりながらも、確かにそう思っていた。
ところがこの景色はどうだ。皆一様にこちらを向き、呆気にとられている。このクラスは僕の独壇場と化したのだ。彼は、今、見えない相手に真っ向勝負を挑んだのだ。勝てるなど考えたこともなかった。考えれる訳もなかった。個性という牙を抜かれ、爪は剥がされ、肉は削ぎ落とされ、反抗する手段は全て取られていた。だがそこに、さも当然かの如く、一本の糸は垂らされた。掴まない余地は既に無かった。彼は震える声と手と足と怒りを持ち丸腰で言い放ったのだ。勝ち負けなら分かっていた。それでもなお、彼には今しかなかったのだ。これ以上、自分の魂を腐らせようとは思えはしなかった。
今、没個性の少年は大衆に火花を飛ばした。
夕立ちの雲は気だるい顔で街に降りて来た。




