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無駄話、いかがですか?  作者: ほくろう
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魔法~まほう~


魔法[まほう]…不思議な事を起こさせる術。妖術ようじゅつ、魔術。






ここは居酒屋「無駄話」。売りは店主の無駄話。果たしてそれは無駄なのか。それを決めるはあなた次第。


それは常連「田中さん」。居酒屋「無駄話」をこよなく愛するサラリーマン(おじさん)。愚痴も聞いてくれる優しいおじさん。だが、いつも一言多い。


そして私は「桜井はるか」。不思議なチラシに招かれて、店に入るは何の縁か。今ではすっかり常連に。どこにでもいる普通のOL。歳は27。今日も楽しくお酒を楽しむ。



お店に置かれた1台のテレビ。お酒を呑みながらじっくりと見ることってほとんどない。でもどうしてだろう?テレビの音があるとなんとなく落ち着く気がする。

今流れているのは昔流行った映画の再放送だ。ある日、自分が魔法使いだと知った少年が仲間と冒険をしながら成長していく、そんな物語。


「魔法か~。私も魔法が使えたらな~。」


なんとなく呟いた一言に常連の田中さんが反応する。


「なんだい?はるかちゃん魔法使いたいの?意外に子どもみたいな事言うね~」


「意外かどうかは置いといて。魔法があったら素敵じゃないですか。空飛んだり、炎とか水とか出したり!」


「えー。空飛んだり、突然炎とか水出したら悪目立ちしちゃわないかなー。おじさん恥ずかしいなー。」


「田中さんって変な所で現実的ですよね…」


「…よく言われる。あ!女の子にモテる魔法があったらおじさん頑張っちゃうかも!」


「…あったら素敵ですね。(多分、そんな魔法使ってる人はモテないと思う)」


でも、本当に魔法が使えたらな楽しいだろうな~。


ふと視線が店主さんに向く。店主さんは手際よく料理をしている最中だった。あの天ぷら美味しそう、後で頼もう!店主さんは魔法とか信じなそうだよね~、理屈っぽそうだし。


「店主さんは魔法ってどう思います?信じますか?」


私の質問に田中さんが笑っている。多分、田中さんも店主さんが魔法を信じるなんて思ってないのだろう。


「魔法ですか?…ありますよ。覚えるの大変ですけど。」




え?私と田中さんの思考が止まる。店主さんの言っている事が頭の中で処理出来ずにいる。店主さんは何をイッテイルンダ?


「何を驚いているんです?言っていませんでしたっけ?私、魔法使いなんですよ。」


「な!?」

「なん!?」


「ちゃんと学校がありましてね。卒業するのに結構苦労するんですよ。単位とか多くて。」


「学校!?」

「単位!?」


「あ、一般の人にはあまり教えてはいけないんでした。なるべく内緒にしていてくださいね。」


「た、田中さん!どうしましょう!?私たち、とんでもない事を知って!!!」


「お、落ち着けはるかちゃん!冷静になるんだ!ま、まずは願書だ!願書の準備を!!誰か!誰か願書を!紙とペンを!」





「待ってください、田中さん!やっぱり可笑しいですよ?」


一通り騒いだ後、少しずつ冷静さが戻ってくる。


「本当に魔法が使えるなら何で居酒屋の店主なんてしてるんですか?」


「言われて見れば確かに。というか魔法なんて本当にあるとは思えん。おじさんの純情を利用して巧妙な罠を張ったな御店主。」



店主さんは私たち二人の顔を交互に見た後、しばらく何かを考えるような素振りを見せた。そしてようやく言葉を発した。


「なるほど。では今日は『魔法』について無駄話をひとつしましょうか。」


店主さんは柔和な笑みを浮かべながら更に言葉を続ける。


「なに、簡単な事ですよ。魔法を見たことがないから信じられないのです。論より証拠。百聞は一見にしかず。どうぞご覧あれ。」


そう言いながら、店主さんは右手を上にあげ手のひらを開く。するとそこに…


「!?ひ、火の玉が!!」

「!?嘘だろ、おい!?」


「火を生むものは、闇も生む。光と闇はひとつでなければいけない。」


店主さんが何か呪文のような物を唱えだす。そして火を作った右手の手のひらを閉じた瞬間。


「きゃ!何!?」

「なんだ!?急に真っ暗に!」


火も電気も消え、辺りは闇で覆われる。


「闇の世界に恐れを抱くことなかれ。闇の世でしか見れぬ物もある。」


「た、田中さん!?あれ!!」

「何だ!あれは!?」


カウンターの奥の壁があった所にぼんやりと幾何学的な模様が浮かび上がる。それは暗闇に覆われたこの場で唯一見える光で……それはまるで


「魔法陣!?」

「マジかよ!?」


そこで急に電気が点く。一瞬眩しくて目が細まる。目が慣れて見た先には先ほどと変わらぬ位置に店主さんが立っていた。


「如何でしたか?魔法の存在を信じていただけましたか?」


店主さんは柔和な笑みを浮かべたまま私たちに問いかけてくる。


「本当に魔法があったなんて」

「おじさん、夢でも見てるのか?」


信じてなんていなかった。あったら良いなとは思っていたけど、本気で存在しているなんて考えた事もなかった。

けど、存在した。見てしまった。目の前で。


「…信じます」

「参った。信じるしかねえ」


もう認めるしかなかった。


そんな私たちを見て、店主さんは頭を下げる。その動作の意味が分からずキョトンとする私と田中さん。そして店主さんが口を開く。


「すいません。全部ウソなんですよ。今見せたの簡単な手品なんです、種も仕掛けもバッチリある」


開いた口が塞がらない。この言葉は今の私達の為にある。そう言い切れる程、私達は呆けた顔をしていた。


「…ウソ?」

「……………」


田中さんなんてショックのあまり声も出せない様だ。というか目の焦点が合っていないような気がする、大丈夫か?


「ハッ!?俺は何を!?」

「あっ、田中さん(魂)が帰ってきた!」


5分ほどして田中さんの魂が戻った所で店主さんのネタばらしが始まる。


「…という感じで手首の所にチャッカマンを仕込んでおく訳です。よくマジックの本にも載っています」


「急に真っ暗になったのは?」


「視線が右手の火に集中しているので、空いている左手であらかじめ近くにおいてあったリモコンで電気を消しただけです。右手の火を消すのに合わせるのがコツです」


「じゃ、じゃあ!あの魔法陣は!?」


「魔法陣?あーこれの事ですか?これは夜行テープを貼っているだけですよ。急に停電になった時でもある程度の位置が分かるように店の中にいくつか貼っているんです。」


「何で無駄に幾何学的な模様なんですか?」


「無駄は私のポリシーですよ?」


全ての説明を聞いた私達はひどく脱力していた。



「はあー、魔法があると思って興奮したのに全部ウソだったなんて」


「おじさんの純情が、モテる魔法の夢が…」


項垂れている私たちを見ていた店主さんは穏やかで静かな口調で話し出す。


「人は自分の信じた物しか世界として捉えない。自分の常識、知識の範囲内で理解出来るものは現実。それ意外は幻。

科学で解明出来ない物を人はなかなか信じる事が出来ない。しかし実際に目の前で起きた事を否定する術もない。

だから人は『魔法』を作った。魔法という括りに入れてしまえばどんな不可思議な現象もとりあえずは受け入れられる。

昔は魔法も多かった事でしょう。自然現象にしろ、科学現象にしろ、知識を持たぬ物の前では魔法となります。現在は皆、知識を持っていますからね。もう誰も雷や地震を魔法とは呼ばないでしょ?」


「ただの自然現象ですからね」


「昔は魔法だったのですよ。多くの人にとって。その人が本当の理解を得るまでは確かに魔法は存在するのです。その人の心の中に。

お二人の中にも先ほどまで確かに存在していたでしょう?」


「うー、そう言われると確かにあの一瞬は確かに魔法を信じていたわけだし」


「確かにあのときは魔法があったのかもな」


「そうそう、嘘をついていた事に変わりはありませんので、今日はとびっきりの良いお酒をご馳走させて頂きます。」


「本当ですか!?」

「お!気が利くね~御店主!」


「お二人にはいつもご贔屓にして貰ってますからね~。えーと確かあのお酒は、あったあった棚の一番上にあるあのお酒ですよ。」


棚の上を見ると確かに高そうなお酒が並んでいる。高いお酒が呑めるとあって、私を田中さんも思わずニヤケ顔だ。そして棚の上のお酒が一本浮く。



浮く!!?



浮いた酒瓶はそのまま棚からゆっくりと動いて私達の前に降りた。


「て、店主さん!今のは!?」

「御店主!今のも何か種があるんだよな!?なあ!?」


店主さんは悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべる。



「魔法ですよ。今はまだ。」




あなたは魔法を信じますか?

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