8話
少女の名前をセラス=ジャンヌ・アウグストゥスと言い皇族で最も幼く皇位継承権が最も低い少女である。純粋無垢であるがその性格は少々残虐であるが長兄たるギルガメッシュ・オジマンディアス・アウグストゥスに溺愛されており兄の威を借りて好き勝手にし放題の毎日を送っていた。
そして、そんなある日この世界に74式戦車G型と呼ばれるこの世界にあるどの戦闘装甲車、航空機よりも新しい時代からやって来た車両が現れたのだ。それは非常に強力だとかで、兄たるギルガメッシュ・オジマンディアスも欲しがった。
そして、それは偶然にもセラスが見たがっていたアゲハチョウの生息する地域の近くだと知ったのだ。兄は勿論行くし、セラスがそれに同行しないはずがない。
「お前があの戦車のプレイヤーね!?」
セラスはいつものように不遜な態度で告げる。目の前の男はソファーに寝転がって小銃を腹に乗せていた。見たことのない銃と服だった。町の入口に止まっていた戦車にはメイドが居りメイドにプレイヤーまで案内しろと言って連れてきて貰ったのだ。
兄達は乗ってきた航空機をどうにかするためにもたついていたので置いてきた。
しかし、目の前のプレイヤーはセラスの事を一瞥しただけでメイドに目を向ける。そして、近衛兵の如く突然シャキッとした態度できれいな音としか感じない言葉を喋りだす。メイドは勿論、セラスでも分かる言語で喋った。
それからセラスの話に一瞬なるも兄の登場で場は固まり、どうやらシマダというのだろう男は兄なんぞ知らんという顔で兄のプレイヤー達を忽ち撃ち殺してしまった。プレイヤー達は死なない。しかし、だからといってプレイヤーを生身で殺す事をするプレイヤーは今まで居なかった。
当たり前だ、殺人という強いストレスはゲームと違って存在する。故に彼等は殴り合いや兵器を介しての殺し合いはするが、実際にその武器を使って殺し合うことはなかったのだ。
しかし、それを、目の前の男はさも当然のように行った。撃った瞬間のシマダの目はまるでゴミを見るかのような表情だった。まぁ、顔は笑っていたが。
そして、セラスは一人呆然としていた兄達を置いてシマダの後を走って追いかけた。外に出ると、シマダは先ほどの笑みはウソの様に真面目な顔でサイカに何かを話していた。
「ま、待て!」
セラスは再度シマダに話し掛ける。シマダは直ぐに反応した。
「貴方の名前を聞いています」
シマダの言葉を隣りにいたサイカが尋ねる。初めてちゃんと相手にしてくれたシマダに気分を良くしたセラスは胸を張って名乗りを上げる。
長ったらしい口上をバッサリと省略したサイカはセラスの名前だけを告げた。
「何の用か聞いています」
「貴方の戦車、私に寄越しなさい!」
セラスの言葉にシマダは爆笑し、それから頷いて何かを言った。
「車長として戦車を指揮出来たらあげても良いと言っています」
「ホント!?」
「本当です。
明日、我々は巨大アゲハチョウの捜索に向かうのでそこ迄74式戦車を車長として指揮出来れば差し上げるとの事です」
その言葉にセラスは笑顔を見せた。
彼女は別に皇位継承なぞどうでも良い。むしろ、皇帝の座については好きな事もできないのでなりたくなかった。彼女もまた皇位継承権を持っている為にやりたくも無い勉強やマナーの勉強をさせられている。兄たるギルガメッシュ・オジマンディアスがどうせ皇位継承するんだから自分はしなくて良いだろうと常々考えているのだ。
故に自由気ままに兄の周りで楽しそうにしているプレイヤーが羨ましかった。兄にはお前には早いとプレイヤーを擁護する事を禁止されており、兄が擁護するプレイヤー達の戦車や航空機に乗せてもらうことはあってもそれを指揮したり行きたい所に行くよう指示はできないのだ。
しかし、シマダの戦車が手に入れば一々兄に了承を取ったりしなくても良い。
セラスは俄然やる気を出した。
「では、明日の朝、ギルドに向かうのでそこで合流しましょう」
サイカはお帰りなさいとセラスに戻る様告げてから、シマダの後に続いて去って行った。シマダはセラスに手を振るので、セラスもシマダに手を振った。
そして、ギルドの会議室に戻る事にしたのだった。
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…
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日が昇った。結局、シマダは車中泊をしたのだ。夜露避けの為にターピーシートをテント代わりに張ってエンジンルームの上に寝転がるだけで余裕で眠れる。
朝起きて、アキヤマを引き連れてギルドに向かう。サイカには門が開いたらギルドまで来いと言ってあるのだ
アキヤマは64式小銃を担いで行こうとしたが、シマダはグリーズガンにしろと言うのでサイカと弾納を交換してグリーズガンを装備している。
シマダがギルドに入ると朝に貼り出される依頼の争奪戦で騒がしい虫狩達が一瞬で静まり返った。シマダは入り口でギルド内部をゆっくりと見回し、それから奥のテーブル席にて朝食だろうサンドイッチを食べながら話し込んでいるヨリコとシュリダン一派、更に奥で朝から肉を食べているギルガメッシュ・オジマンディアス一派を見付けた。
シマダはスキップしながら貼り出された依頼を見に行く。
全員がシマダのために道を開け、シマダは依頼を眺めて行く。尚、依頼は全てこちらの世界の言語で書かれているのでシマダには読めない。
ただの冷やかしだ。
それから徐に一枚の依頼を手に取った。
「読める?」
「はい。
これは大量に発生したローチの討伐依頼です」
「ほーん」
ゴキジェットプロでも撒いとけよとシマダは笑い依頼を再度掲示板に貼り直す。
それから、特に何をするでも無くウロウロと掲示板の依頼書を眺めてからそのまま奥のメンバー達のテーブルに向かった。
「ヨリコークソデカアゲハチョウ探しに行こーぜー」
「本当に来たわね……」
ヨリコは呆れた顔でシマダを見る。ヨリコ達のテーブルより奥のテーブルに座っていたセラスはバッと椅子から飛び降りてシマダに駆け寄った。何を言ってるのか相変わらず聞き取れなかったが、言いたい事は分かる。
その表情は自身に満ち溢れていた。
「で、カチンガルド大渓谷がアゲハチョウの生息地なん?」
「そうよ。
そこに行くにはカチンガルド川から遡るかカチンガルドの森を通るルートになるわ 」
シマダの取り出した端末を前にヨリコが指差しでルートを示す。シマダは大いに結構と頷くとセラスを抱き上げて椅子の上に立たせる。
「さて、車長。我が車の進行経路とLP及びLP通過時間を示してくれ」
シマダの言葉はアキヤマに拠って訳されると、セラスが目を丸くしてシマダを見る。シマダはホレホレと端末小突いた。セラスはうぅっと怯むも、それから怖ず怖ずと地図の上に引かれた曲りくねった道を指差す。
「この経路を通ってお昼ぐらいには着くそうです」
シマダは相変わらず何を考えているのか分からない笑みのままでホウホウと頷いていたが、その瞳はセラスの一挙手一投足を観察し評価する目であった。
セラスは合ってるのか?という顔でシマダを見るがシマダは何も答えない。
「じゃ、このルートね」
シマダは頷きセラスを見る。セラスは何も言わないシマダに不安を覚えるも、笑っているので合っているのかとも安堵も覚えた。
勿論不正解である。
「それからどうする?」
シマダの言葉にセラスは首を傾げた。
「以上?もう出発して良い感じ?」
シマダがだったら早く行こうとその場で足踏みし始めた。セラスは大きく頷いたので、シマダはじゃあアキヤマと74式戦車まで行って出発準備して来てと告げた。セラスはアキヤマの腕を掴むと早く行こうとギルドから走って出て行ってしまう。
「で、この森はどんぐらい危ねーのよ?」
「そこには三本角のスターグビートルが棲んでいるのよね」
「三本角?」
「ええ。
すごく凶暴でテリトリーに入ったモノは何であろうとその強靭な三本角で真っ二つに割っちゃうの」
ヨリコは戦車も砲塔と車体がオサラバねと肩を竦める。
シマダはまーたクワガタムシと眉を顰め、首を鳴らす。それからセラスの示したルートは途中で行き詰るとして再度道を戻って、少し遠回りになるがカチンガルドの森から切り出した木を運ぶ為の道がある。
シマダはそのルートを通ると告げたのだ。
「ま、普通はそうよね。
了承。空から見てるわ」
「おう。ガチでやばくなったらSOS出すから助けてちょ」
シマダはそう笑うと、行きますかーとギルドを後にしたのだった。
シマダが門前に向かうとエンジンが掛かった状態で待っている。車長席にセラスが首だけ出してシマダを待っており、シマダを認めると何かを叫んでいた。
シマダはセラスに手を振って応えると、砲塔に上がって車長席に移る。そして、セラスを膝の上に乗せてシマダが被っている装甲帽をセラスの頭に乗せた。
サイカやアキヤマはシマダをもう一度見上げ、それから自身の目の前に広がる計器や設備に向き直った。
シマダはセラスの頭をポンポンと撫でると空を見上げた。
セラスは嬉しそうに何かを指示すると74式戦車は走り出す。運転自体はサトウが行うので快調である。時々セラスが何かを話しかけて来るが会話が出来ないので車内無線で喋り、アキヤマがそれを翻訳してシマダに端末のメモを使って書き込んでシマダに渡すのだ。シマダはそれに対して叫ぶ様に答えたり場合によってはメモに書いて渡すのだ。
そんな感じで一時間程でマラソン選手が走る位の大凡18キロ程の速度で走って居る。この速度でいけば凡そ3時間掛かるだろう。
シマダは暫く平和で長閑な平原を見詰めていると、セラスもヌッと顔を出して暫く周囲を伺うとシマダに何かを尋ねた。
アキヤマも装填手ハッチから上半身を出して翻訳した文章を見せた。其処にはシマダはどうしてこの世界に来たのか?と書いてあった。
シマダはそれを眺めてから肩を竦めてさぁ?と応えると、アキヤマが分からないそうですと答えた。するとセラスは自信満々な顔で答えた。
「私の戦車になる為に来たのよ、と仰っています」
アキヤマの言葉にシマダは爆笑をして、セラスの頭をポンポンと撫でた。それから後方を双眼鏡を覗いてニヤリと笑う。シマダの双眼鏡には後をついてくるギルガメッシュ・オジマンディアスとエリザベートの戦車隊が居たからだ。
シマダは更に上空を見上げ、ジェット戦闘機部隊と流星がいるのも確認した。
シマダの表情は実に楽しそうであった。