5話
シマダは74式戦車で引き摺ったスターグビートルのお陰で成金レベルには金になった。この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨に分けられている。
シマダは虫狩二人と共に街のバグハンターギルドにて虫狩の登録を行い、窓口でスターグビートルの売却を行った。最も言葉が分からないし言語も違うのでサイカにほぼ丸投げで、シマダ本人は脇のテーブル席でカップラーメンとスティックタイプのコーヒーを飲んで過ごしていた。
「クソでっけぇクワガタが金貨に変わったな!」
シマダは二百枚程ある金貨をテーブルに広げて積んだり立てたり、回したりして遊び始める。
「シマダ様」
シマダが笑ってるとサイカが話しかけて来た。何ぞと振り返るとギルドの職員も居た。
「何?」
「はい。コチラの方が先程の虫を殺した場所を正確に知りたいと」
「えー?サイカがやってくれよ。
こいつ等の言葉わかんねーし」
「はい。私、詳しい位置を覚えていないのでシマダ様にお聞きに来た次第です」
シマダは心底面倒臭そうに、別に倒したらそれでいいじゃんと端末を取り出す。
そして、地図を開いて確か此処かも知れんとカップラーメンを食べていた箸で指差す。職員は何かサイカに告げるとカウンターに引っ込んでしまった。
「よーし。今の内に逃げるべ。
こーゆーのは面倒事に巻き込まれる前兆なんだ。俺ちゃんは詳しいんだ」
シマダはそう言うとすぐに立ち上がり、サイカとアキヤマを引き連れて外に止まっている74式戦車に飛び乗る。中にはサトウが待機しており、シマダは逃げるぞ!と叫ぶと同時に一発でエンジンを掛ける。
シマダはテーブルに金貨を忘れて来たのに気が付いたが、所詮あぶく銭だと貨幣価値を理解していない特有のもったいない事をして、街から逃げてしまった。
勿論、テーブルに残された金貨はギルドに回収されて保管される。
「こーなったら何か楽しそうなことしてーなー」
シマダは端末を弄ると音楽メディアから音楽を流し始めた。
ポルノグラフィティのアゲハ蝶だ。
「よし!クソでっけぇアゲハ蝶探しに行くぞ!」
しかし、その場所は分からない。時計を見るとすでに夕方だ。
「んー、とりま明日一日はこの街でクソでっけぇアゲハ蝶居る場所探って、明後日出発な」
《砲手了解。
本日はいかがしますか?》
「街の外で泊まる。
中入るとめんどくさそうな事に巻き込まれるから」
《了解》
シマダはよっこいしょとハッチから顔を出した。街の外に続く門は夕暮れの閉門時刻に合わせて閉じようとしていた。シマダはサトウに速度増せの号令を出し、サイレンも鳴らすよう告げた。
74式戦車に乗っているクラクションはまんま消防車のサイレンだ。
74式戦車がサイレンを鳴らして突っ込んでくるのに気が付いた衛兵は最初止まれと叫んでいたが減速どころが増速した74式戦車を見て大慌てで門を開く。ブレードが付いている戦車だ。門に当たっても門が壊されるだろう。だったら門を開けて通してしまった方が良い。
衛兵達が門を開いたのと同時にシマダの乗る74式戦車は門を抜けていった。
そして、郊外の丘に陣取った所でパットンからの無線が入ったのだった。
「ンじゃカチンガルドの森行くべ。
操縦手場所わかるな?」
《はい。把握しています》
「開放で良いから森目指せ。
日が暮れる前に着きたい」
《余裕です》
「よーし。前進」
シマダはそう言うと砲塔から上半身を出した。
「ビバアゲハ蝶!」
大音量でアニソンを流し始めた。双眼鏡で上空を観察し、流星を探す。
勿論、高速で動き回っているだろう航空機を見付けるのは難しい5分程探してから諦めたのかゴソゴソと信号拳銃を取り出して打ち上げた。
それを定期的に行いながらカチンガルドの森林端に辿り着く。
そこで停車してやはり信号弾を打ち上げる何処からとも無くブーンと音が聞こえてくる。
「お?」
シマダが空を見上げて最早紫に変わった空の中から一機の航空機を見つけた。
「おぉ!?
飛行機だ?」
シマダがどーすんだろと眺めていると流星はそのままエンジンを絞って滑空しながらやって来るのだがその動きはかなり不自然だった。
途中からグンとスピードが落ちるとまるで何かに掴まれているかのように姿勢が安定し、それからその場に停止して着地したのだ。
「わーぉ……わーお!ワァァオ!!!」
シマダは興奮しながら74式戦車から降りると流星に近づいて行った。シマダは恐る恐るという感じで流星の後方からヒョコヒョコとコクピットを覗きながら近付いていく。
エンジンが完全に止まり、コクピットのキャノピーが開く。中からは大日本帝国海軍の航空服に身を包む一人の女性が軍刀を片手に現れたのだった。
「ハローナナヨン」
「おうよ、流星」
シマダ、異世界に来て二人目の異世界人だった。
流星の後部のキャノピーを開き一人のローブを纏った中性的な子供を引っ張り出した。
「何お前?誘拐犯?」
「違うわよ!
この子は私が庇護を求めてる藩国の王子様よ」
シマダはほーんと余り理解していない顔で頷くと、王子様はペコリと頭を下げてシマダには聞き取れない言語で挨拶した。
「ドムトガルド藩国の第十四王子のガキと名乗っています」
何時の間にか降りていたサイカがシマダに告げる。シマダはホンホンと頷き俺の名前教えておいてと告げると、流星のプレイヤーを見た。
「コチラは74式戦車G型排土板付きの車長、シマダ様で御座います。
シマダ様はこちらの世界の方と会話が不可能なので私達が通訳させて頂きます」
「何それ?まぁ、良いや。
私はヨリコ。流星のプレイヤーで機長兼操縦手よ。コッチは後方機銃手兼通信手のガキね。
まぁ、通信手なんて手元のタブレットいじれるからガキのやる事は前方から風吹かせてなんちゃってVTOL係ね」
シマダは先程の変態機動で着陸した流星を思い出す。
「シマダは何処の国に守ってもらうか決めた?」
「何それ?」
「この国ってさ一つの帝国が複数の属国従えてるのよ。
で、各国が私等みたいな存在を擁護して国を脅かす存在から守る軍備力にしたりしてるのよ」
シマダはそーゆー展開ねと笑った。
しかし、シマダは先程ギルドからの束縛から逃げて来たばかりだ。最もその束縛と思われたのも実際はその付近の村からスターグビートルの討伐依頼がないかの確認であり、シマダの早とちりである。異世界に来た主人公はふとした瞬間にその力がバレて厄介事に巻き込まれると言うシマダの一方的な思い込みだ。
シマダはヨリコと名乗った女、その女に付き従う王子を見ながら流星に視線を移した。腹に抱えるのは250kg、所謂二十五番と呼ばれる航空機用無誘導爆弾だ。
シマダは翼部の20ミリ機関砲を見た。
「ほーん、まぁ、どうでも良いや。
それよりもアゲハ蝶探そうぜ!無線は真珠湾攻撃の日にちな!」
シマダはポルノグラフィティのアゲハ蝶を歌いながら74式戦車に攀じ登る。ヨリコはガキに乗り込むよと告げると小脇に抱えて後部コクピットに放り込むと、自身も操縦手席に乗り込んだ。
前方から突風が吹きプロペラが回り始める。そして段々とその風はプロベラだけに、強く当たり始めた。次の瞬間、ドルンと誉エンジンは火を吹いた。星型の航空エンジンは機種部に取り付けられた四枚羽のプロペラを回し始める。
「アゲハ蝶見付けたら穏便に別れるか」
シマダは正直、元の世界に帰りたくなった。
そして、端末に19.41128を打ち込んでから送信ボタンを押した。
「流星、ナナヨン。連絡通話」
《ナナヨン、流星。感5》
「流星、ナナヨン。感5。
場所何処よ?」
《ナナヨン、流星。此処から200キロ程北上した所にあるカチンガルド大渓谷って分かる?》
シマダは地図を広げて確認する。大渓谷というだけあってかなり広い川がある。
「流星、ナナヨン。
確認した。こんな遠いんか。明日出発しよう」
《流星了解。
何処か泊まる宛は?》
「ねーよ」
《なら、ちょっと行った先にある街で宿取りましょう》
シマダは地図を広げて確認する。確認するまでもなく先程の街である。
「流星、ナナヨン。
えー?俺ちゃんこの街から逃げてきたからあんま行きたくない」
《ナナヨン、流星。
何したのよ?》
シマダは事の顛末を告げると呆れた様なため息が帰ってきた。
《ナナヨン、流星。
それはその村周辺に出ている討伐依頼が無い照会するためよ。道端に現れたスターグビートルみたいな個体は大抵近くの村や街を襲っていたりするのよ。だから、居ない個体探したりしない様に照会するの。で、出てたらその分の依頼を加算するし、別の虫狩達が出てた場合は向うには報酬達成金額の半分が出て討伐した方にも半分出るわ》
シマダはそんな話を半分近く聞き流した。興味が無いのだ。
「流星、ナナヨン。了!
街に戻るから先行っとくれ」
《ナナヨン、流星。了解。
正門前で合流よ》
「ナナヨン、了解」
こうしてシマダは再び街に戻る経路を進みだした。
時速40キロ。戦車で時速40キロ出すと見てる方も乗っている方もかなり速いと感じる。トラック何ぞと比較にならぬ程に巨大な威圧感のある車両だ。交通事故をしたらぶつかった方が死ぬ程に強固な存在。重量38トンが時速40キロで走るのだ。
因みに74式戦車の後継たる90式戦車はアスファルトの下り坂で時速80キロを出す事も出来る。
「しっかし、面倒クセェ事に巻き込まれる予感ビンビンだなぁ、コリャ。
面倒事を避けるにゃどうすりゃ良い?」
《面倒事を頼んで来る人間が関わりたくないと思わせれば良いのでは?》
シマダの問いにサトウが答えた。シマダは成る程とコペルニクス的発想の転換に手槌を打つ。
「関わりたくないタイプの人間ねぇ……」
シマダは暫く考えてからやっぱサイコパス系は近付きたくねぇよなと頷いた。
「流星、ナナヨン」
《ナナヨン、流星。どうしたの?》
「流星、ナナヨン。こっちの世界では俺等の命と車両の命はどーなってんの?」
《ナナヨン、流星。
基本的には私等異世界人は不死身ね。条件付きの蘇生になるわ。タブレットに機体の損耗とかそう言うの確認するアプリあるでしょ?》
メンテナンスアプリだろうとシマダは開く。
《アプリ開くと画面の右上に数字書いてある欄が二つあるでしょ?》
画面の右上に確かに二種類の数字がある。一つは2000Kと書かれた物。もう一つは0G0S0Bと書かれた物。
《で、左のなんたらGなんたらSなんたらBってのがアンタが保有するこの世界の通貨。もう一個のはアンタがこの世界で殺したバグ分の経験値と言うか蘇生やバージョンアップ、装備変更、弾薬補給、機体修理時の金額よ》
「流星、ナナヨン。
じゃあ、何か?それ等は勝手にこの経験値を消費して元に戻るのか?」
《ナナヨン、流星。その通り。
バージョンアップと弾種変更は人為的だけどね。因みにデッカイカマキリ、マンティスが1匹2万前後、ローチってデッカイゴキブリは1Kから0.5kね。他にも色々いるけどそれは追々憶えて。大体、こっちの世界での売り払い料と同じだから》
シマダは成る程と独りごちる。
「流星、ナナヨン。了解。
通信終了」
シマダは試しに捕まえて縛ってあるカブトムシをガバメントで撃ってみる。カブトムシは絶命し、シマダは端末を確認する。経験値は増えていた。しかし、値段は1桁で拳銃弾すら買えない程安い。
シマダは嘆息してからホルスターにガバメントを納めると、死んだカブトムシの死骸を脇に捨てた。
《前方より車両》
「あん?」
シマダが前を見ると消灯して走ってくる一両の戦車が見えた。双眼鏡を覗くとM511シュリダンである。
シマダは道の端に寄って走れと告げて、そのまま暇そうに路外や上方を眺めていた。
お金的設定決めたけど然程重要ではない
フレーバーだ
シュリダンの方が兆倍重要