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4話

 カブトムシ、日本におけるカブトムシと言えば一本角を持つ茶褐色の甲虫だ。

 しかし、この世界に置いてはビートルと呼ばれている。そして、ビートルには二種類の種類がおり、所謂クワガタタイプとカブトタイプだ。

 カブトムシはビートルと呼ばれ、クワガタはスターグビートルとか二本角とか呼ばれている。


「で、近くにスターグビートルが出るから討伐して欲しいと?」

「はい」


 シマダは村まで移動して村長の家に居た。居間のテーブルに、シマダは道中で捕まえた大きなカブトムシとクワガタを乗せて戦わせて遊んで居る。村長を含めて村人達はカブトムシやクワガタに対して畏怖でもあるのか、あまり良い顔をしていない。


「クワガタって強いん?」


 シマダの言葉をアキヤマが訳した。村長は既に家を3棟と牛を15頭殺されたと告げる。


「え、何、クワガタって肉食なの?」


 シマダが思わず手に持ったクワガタに視線を落とす。

 村長は首を振り、ビートルもスターグビートルも非常に縄張り意識が高く侵入者は全て排除するのだと告げた。


「成る程」


 シマダは思案した。つまりスターグビートルこと巨大クワガタはこの村を内包した縄張りを作ってしまい、村が困っている。村から救援を乞おうにも、村から出るとバグ避けの香草が無く道を歩いているだけでクワガタに襲われる。

 村には偶々通り掛かっただけの虫狩が二人いるだけで、とてもじゃないが二人の手に負えない。


「そこに現れたのはこの俺ちゃんって事か」


 シマダは背凭れを軋ませて空を仰ぐ。


「如何致します?」

「如何も何も、そもそもオレ虫狩?じゃねーし」


 パスと笑顔で告げるとアキヤマがその旨を村長に告げた。

 シマダはブンブンと口で言いながらクワガタとカブトムシを手に取り、ブンドドをやりながら立ち上がって家を出た。村長の家の前には74式戦車が停車しており、その周囲には子供たちが群がっていた。

 戦車の噂はこの村にも流れている。現物を見た事は誰もない。故にこの鋼鉄の塊に興味を惹かれて子供達が目を輝かせて集まっていたのだ。


「さぁ、退け退け!」


 シマダはそう叫びながらカブトムシとクワガタを解放した。

 子供達はクワガタとカブトムシが飛ぶのを見るやいなや悲鳴を上げながら逃げて行った。シマダはそれを鼻で笑いながら74式戦車に乗る。

 すると今度は虫狩と呼ばれた二人が寄って来た。二人は何かシマダに喋りかけたがシマダには言葉が分からない。


「アキヤマ」

「はい」


 アキヤマが何だと聞くと二人は村を出るなら乗せていってほしいと告げた。シマダは暫く考えて乗りたきゃ金を出せと言って見ると二人は頷いて手持ちはこれだけだとシマダに革袋を二つ投げてよこす。

 シマダは中を見るが貨幣価値がわからないので取り敢えずチャリチャリと弄んでから乗れよと告げた。二人は礼を述べると恐る恐る74式戦車に攀じ登る。

 それから74式戦車は村から出る。虫狩の二人は増加バスケットにしがみ付く。シマダは二人にそこじゃなくて砲塔に乗れとジェスチャで告げる。

 村から出てしばらく走ると空に大きな虫が飛んでいた。シマダが目を凝らすと、巨大なクワガタであった。


「装填手、十時方向上空に対してキャリバー」

《装填手了》


 シマダの指示でアキヤマが目の前にあるキャリバー.50に取り付き、槓桿を引っ張った。キャリバーには対空用の環型照準器と呼ばれる蜘蛛の巣のような円形の照準器を使って狙いを定めるのだ。

 そして、ドッドッドッと凄まじい銃声と共に銃弾が吐き出されて上空を飛んでいたクワガタ、スターグビートルに数発当たる。しかし、殆ど効果は無いようで逆にスターグビートルは74式戦車の存在に気が付いた。

 虫狩二人は何やら叫んでいたが、言葉がわからんとの事でシマダは一笑に付し、アキヤマに装填作業に集中するよう告げた。


「全員に告ぐ。

 第一次攻撃に失敗。敵は空を飛び回る。林内に入って戰うぞ」


 シマダの指示に全員が返事をすると74式戦車は脇の林と言うか森に侵入した。ちょっとした獣道に近い道であったが中々に無茶をする。

 シマダはその際、枝等に叩かれたが大爆笑していたし、虫狩達は己の得物を構えて対空警戒をしていた。

 戦車の後を追う様にスターグビートルも空から後を追うが如何せん木々が邪魔で追い付けない。頭は悪い様だ。


「ヨッシャァ!降りてきたぞあの糞虫!」


 シマダはガッツポーズを決めると同時に砲塔が旋回する。速度と旋回速度を合わせて木々の合間に沿って旋回させたのだ。その技量は凄まじいもので、下手をすれば砲身を損傷し、下手をすれば射撃不可になってしまう。


「おっしゃ!撃ったれ徹甲!」

《発射!》


 シマダの号令に合わせて方が撃たれた。APFSDS弾はクワガタ、種類的に言えばノコギリクワガタに似ている。しかし、そのアゴはノコギリクワガタのそれよりも厳つくカッコよい。

 弾は丁度アゴの付け根中央付近から侵入して背中の羽の合間から抜けた。ほぼ外見を保つと同時に弱点を見事に撃ち抜いていた。最も、74式戦車の51口径105mmライフル砲の貫通力。それを持ってすればスターグビートルの最も硬いと言われるアゴ部から伸びる爪、或いは二本角も2キロからへし折れるが、それはまだシマダの預かり知らぬこと。

 シマダは大喜びで角を取って74式戦車に付けようとアホな提案をして、サイカから物理的、構造的にも不可能であると告げられた。


「しっかし、どーすんよコレ?」


 シマダはスターグビートルの前に74式戦車を持って来ると、グシャリと体の力が抜けて腹を地面に付けている。正直、人力で動かせる様な物ではない。

 すると、虫狩の二人が何かシマダに話しかけて来た。シマダはアキヤマを呼ぶ。アキヤマはハイハイと器用にロングスカートを翻さずに74式戦車から降りてくる。その際、シマダはスカートの中を覗こうとしたが見えなかった。


「近くのバグハンターギルドに持って行けば高値で売れるそうです。

 こんなに状態がきれいなら100万ゴールドも下らない、と」

「ほーん。

 なら、コレ引き摺ってくべ。ワイヤとロープで行ける?」

「サイカ達にも相談しましょう」


 それから2時間程掛けてメイド3人と虫狩二人は木を伐採し、74式戦車が通る道を開墾してから再度、スターグビートルの尻の方にワイヤーと虫狩達が持っていた楔とロープを使って牽引体勢を取った。


「よーし、それで、その街はどこよ?」


 シマダは端末を二人に見せると二人は此処だと現在地から120キロ程離れた場所の街を指差した。

 シマダはサトウに指示を出すと、74式戦車を走らせた。



 シマダ達が出発してから凡そ2日後、シュリダンとパットンが現れる。

 凡その道取りは路上に残る履帯痕で分かるのでその後を付いていくのだが、如何せん74式戦車の足は速かった。更に言えば、途中でマンティスや異常発生し易いローチ等を討伐していたら余計に遅れたのだ。


「何だ?途中で道を外れてるな?」


 そして、シマダがカップラーメンを食べていた丘に登り、下車する。丘の天辺より少し下に陣取り、バラキューダを展開した跡と何よりも汁まで綺麗に飲み干したカップラーメンのゴミが放り捨ててあった。


「うわ、74式戦車の人、情報の秘匿する気サラサラ無いよ」


 カップラーメンのゴミや杭を打ち込んだ跡を見ながら男は苦笑する。


「そもそも、この人情報秘匿とかの概念無いでしょ?

 私もこっち来たばっかの時とか世界の構造知らなかったし、この人みたいにどっちの勢力にも入らなかったら、余計でしょ?」


 パットンの少女は肩をすくめてエム・アンド・エムズのチョコを食べた。


「しかし、この人凄いなぁ。ここに来るまで一回も止まってないよ」

「確かに……公共無線で呼び掛けてみる?

 反帝国主義の方との協定で決めてあるし伝えたと思うんだ」


 男の言葉に少女は頷いた。

 周波数は19.3991を開いてみせる。


「あー74式戦車のプレイヤー。74式戦車のプレイヤー」


 少女は暫く無線に耳を傾ける。この公共無線は基本的に会話は無い。と、言うのも敵も味方も無線が聞けるので不用意な発言から情報漏洩を防ぐ為だ。


《74式戦車のプレイヤーって俺ちゃん?》


 少女は直ぐにスピーカーに切り替えた。


《はぁ!?74式戦車来たのか!?》

《まじかよ!コリャ勧誘合戦スゲーな!》


 ニワカに無線が騒がしくなる。しかし、少女は無線に怒鳴り付けた。


「無線に割り込んで来んじゃねぇ!ルール守れよ!」


 少女の一括に他の無線は沈黙で答えた。


「74式戦車のプレイヤー、こちらはM48パットンのプレイヤー」

《あー……パットン、ナナヨン》

「私はアンタがカップラーメンを食った地点にいるんだが合流出来ないか?」


 少女は送信ボタンを離した。その場にいる全員の顔に緊張が走っていた。


《フッ!パットン、ナナヨン。

 そこは二日前だ。今は……そっから北にある……何つったっけ?》

「ナナヨン、パットン!

 位置は言うな!我の位置から北に130キロ程行った街だな!?」


 少女が慌てて叫ぶ。


《フッ!パットン、ナナヨン。その通り。

 とりま、明日まで居るつもりだから合流したいなら早めにな》

「ナナヨン、パットン。

 1日伸ばして貰っても良いか?」

《パットン、ナナヨン。

 クソでかいアゲハチョウ探しに行くから無理》


 少女はその返答にイラッと来たが、フードの女がパットンに攀じ登ってきた。そして、女が少女にヘッドセットを寄越せと手を出した。


「ナナヨン、パットン。

 アゲハチョウの生息域なら案内できるが?」

《あ?パットン、パットン。こちらナナヨン。

 感一。ノイズが酷くて聞き取れねぇ。ノイズの概念あんのかこれ?》


 74式戦車のプレイヤーからの返答にその場にいた全員が驚いた。女は再度同じ言葉を繰り返す。しかし、74式戦車の方も同様の通信を返してきた。


《パットン、ナナヨン。こちら流星。連絡通話》

「流星、こちらパットン。何の用だ」


 女は苛立たしげに告げた。


《流星、ナナヨン。流星の感5完》

《ナナヨン、流星。感5。

 パットンの感明はどうか?》

《流星、ナナヨン。感1。ノイズしか聞こえない》

《流星了解。

 我はドムトガルド藩国に拠点を置いており、現在はカチンガルドの森上空にいる》


 不味い、その場に居た誰もが思った。男はシュリダンに飛び乗ると全速力で発進した。

 全体をアルミ合金製で出来たシュリダンの速力は速い。


「済まないが街までノンストップだ」


 男は車内無線で操縦手に告げた。


《流星、ナナヨン。

 メッチャ近いな。流星ってアレだろ?逆ガル翼の攻撃と艦爆両用の》

《ナナヨン、流星。その通り。

 近くならば合流しようじゃないか》

《流星、ナナヨン。了解。そちらに向かう。

 あー、パットン、ナナヨン。聞こえてるか知らんが、我は流星と合流する。場所はカチンガルドの森。繰り返す、カチンガルドの森だ。合流する意志があるならカチンガルドの森に来い。

 以上、通信終わり》


 無線は切れてしまった。


「姫さん掴まって!」

「とっくに!」


 こうしてパットンも走り出したのだった。

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