1話
《あー、11こちら30》
《30、11》
《現在そちらの方面に一個群が移動中》
《11了、攻撃可能位置地入り次第攻撃する》
《30了》
青年のヘッドセットからノイズに混じった声が聞こえてくる。
中隊系の無線だ。30は中隊長車、11は第一小隊長車。青年は第二小隊の小隊長である。
《21、11》
「こちら21」
青年は呼び出しに対して少し気怠げに答えた。
《21小隊は我の後方援護を頼みたい》
「11小隊では敵の進撃を食い止められないのか?」
青年の首筋に俄に嫌な気配が走る。
《21、その通り。
見たことの無い、ビートルが確認された》
「見た事のないビートル?
報告は明確に」
《あー……角が二本、色は金色に近い。そして、巨大である。目測で10メートル以上。非常に巨大である》
その直後、パゥンと砲声が聞こえた。
《糞!21!21!76ミリが弾かれた!繰り返す!76ミリが弾かれ―――
凄まじい金切り音と雑音が混じって聞こえたきた。撃破されたのだ。
「11!11!糞ったれ!
30、21!」
《30。状況は把握している。現場に向かい生存者の回収及び生き残った戦車の撤退支援》
「21リョ!
聞いたな!小隊の全力を持って一小隊の救出及び撤退支援を行う!行くぞ!」
青年の号令と共に藪の中に潜んでいた戦車達が飛び出した。M511シュリダン、M48“Mod.V”パットン、T-55の三両だ。
第一世代主力戦車達は土煙を上げながら猛進していく。途中、子牛程もある蟻や狼ほどの大きさを持つゴキブリ等が歩いて板が、主力戦車達の前では何の障害にもならなかった。
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…
――
―――
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「え?揺れてね?」
ゲーミングマウスと高性能ヘッドセットを付けた一人の成年が異変を感じ取った。
机に置かれたモニターには荒廃した市街地とそこを縦横無尽に走る一両の戦車。74式G型排土板装備。砲塔側面には赤いローマ数字の2に紫色で6をあしらった装飾が施されたペイントがされている。
もっとも、それ等を覆い隠す様にバラキューダを括り付け、木の枝やススキを付けて偽装していたのでその識別表示は見えていない。
「いや、揺れてる!揺れてる!」
青年はそう叫びながらもゲーミングマウスの操作、戦車を操縦する事をやめない。
「えー?これヤバくない?
311よりデケェよ!いやでもゲーム止められねぇ!」
青年は画面から目を離さず、そして、素早くマウスを操作して74式を崩れ掛けたビルの一階に隠してみた。本来なら市街地でこの草木の偽装は効果がない。むしろ、目立つ。しかし、そこはゲーム。停止間の隠匿率を上昇させる性能は市街地だろうが林内だろうが変わらずに発揮される。
「うひゃー!揺れやべぇ」
青年が視線をモニターから窓に目を移した瞬間、眩い光が青年の網膜を襲ったのだった……