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私達の冒険譚  作者: 喜求
7/8

初めてのクエスト

就活したくねぇ

 


「はい休憩。うん、やっぱり飲み込みが速いわね。私の時はあんなに時間がかかったのに……」


 初めての修行が始まり約3時間。



「そうなんですか?なんだかよくわかりません……」


 修行というのは、魔方陣を意識してそれを具現化させるという内容だった。

 魔方陣といっても円の中に星を書いた簡単なものである。


「昔に教えた子はこれをするだけで3週間はかかったんだから」


 そういってあるかさんは目の前に円を具現化させる。


「でもこれってなにができるようにるの?今のところ見えるだけで触れもしないし……」


 沙織が目の前にある円に指をつんつんする。


 触れるわけではなく、指は空を切るだけだった。



「魔方陣の生成は術者の基本ですぞ沙織殿、魔方陣を介することによって精霊の力を借り強力な魔法を使う事ができるのじゃ」



「言いたいことが盗られた……コホン、まあそう言うことよ。これが使えないと魔法のほとんどが使えないと思ってもらえたらいいわ」


 ベンヌにセリフを取られちょっと落ち込みぎみのあるかさん。




 ……意外と傷つきやすい人なのかな。





 そんなことを考えていると気持ちを切り替えたあるかさんが手をパンパンと叩いた。


「はい休憩おしまい。今日はこれをずっとやろうと思ってたけど、二人とも筋がいいから次のステップに行きましょうか」


 少し急ぎ足な気もするが次の工程にいくようだ。


「なにをするんですか?」



「次は魔法使いと精霊術士の一番簡単な魔法をやってもらうわよ」



 ついにこの時が来た、簡単なものとは言え魔法であることにはかわりない。胸の鼓動が自然と上がる。



「初めに教える魔法は……」








 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 キルクスの街について6日目、現在アキラの進めでクエストに出ていた。

 来る時に見たとはいえ、街を囲む城壁?はなかなか美しいものだった。




「今回受けたクエストって何倒せばいいの?」



 ……のだが早速沙織が不安になる言葉を発した。




「…沙織もあの場にいなかったっけ?」


「ご飯食べてましたごめんなさい」




 なんとも正直なことで。




「はあ……今回のクエストは街の外にある畑を荒らすモンスター“てばり“が増えたから何匹か倒してきてって内容。倒した数に応じて報酬が貰えるから安全を第一に私たちで倒せるだけ倒しましょって」



 初心者にオススメのクエストですよって受付嬢に言われたので受けたのだ。アキラでも十分対象できると思うが、初めてのクエストなので少し臆病にいってみようと思う。



 死にたくはないしね。



「大体わかった!ありがとうございます」


「どういたしまして……あ、あれが畑じゃない?」



 前方に見えてきた畑からは大小様々な野菜が生えていた。





 ……時折葉がピクピク動いているのは気のせいだろうか。


「そういえばてばりってどんな見た目なの?それらしいのは見当たらないけど……」




 沙織の疑問に受付嬢の話を振り返る。


(てばりは足が4本手が2本と丸みを帯びた胴体、それに人面を持った蜘蛛みたいなモンスターです。意志疎通は不可能とされ、知能もそこまで高くないので気持ちが悪い以外は初心者でも十分倒せる相手ですよ)




 ……ちょっと嫌なことを思い出してしまった。



 人面ってさ……モンスターらしいけど………私達平和な日本出身だし…………




 なんてことを思っていても受けてしまったので引き返せないのだが。




「……ええっとね、蜘蛛みたいなやつっていってたよ」



 詳細は濁し、対象を探すべく辺りを見渡す。



「昼過ぎ辺りに出るとあったから、もうそろそろ出るとおもうんだけど」


 そういえばそんなこともいってた気がする。


 というわけで辺りを見渡すが、それらしいものは見当たらない。



「どこにいるんだろう……ん?」




 しばらくするとなにやら森のほうからガサガサと近付いてくる音があった。

 それは一つではなく、まるで波のように押し寄せてくる。



「ねえ、あれって……」


「たぶん…そうだと思う……」


「ちょっと多くない……?」


「うむ、わしから言わせてもらうとこれは……」



 皆が口々に不安を募る。




 その不安が杞憂に終わることもなく、やがて30は下らないであろう数の"てばり"が森からこちらへ飛び出してきた。










「ギギッ!ギギャ!」


「いやーこっちこないでーーー!」


「沙織殿!離れると危ないですぞ!」



 沙織が半狂乱となって全力で逃げ回っている。


 助けに回りたいところなんだが……。



「ギギギッ!」


「ちかいちかいちかいッ!」


 こちらも似たような状況だった。


 地獄絵図とはこのことか、まさに阿鼻叫喚といった感じで私達は逃げ回っていた。


 てばりは受付嬢のいっていた通りの容姿をしていたがいかんせん聞くのと見るのではまるで違い、変な鳴き声と相まってより気持ち悪い生物となっていた。

 なんで受付嬢はこのクエストを初心者向けにしているのだろうか、抗議したい。


 アキラはと言えば顔をひきつらせながらも一体のてばりと戦闘していた。


 だが人面を相手にするのは嫌なのか腰が引けているのかとても優勢には見えなかった。



「あ、アキラ!これダメなやつだと思うの、一旦にげよう!?」


 3体ほどのてばりを引き連れてなんとかアキラの元へたどり着く。


「奇遇だな!僕もそう思っていた所だ!」


 なんとか目の前のてばりを押し返したアキラが同意を示す。

 意見が一致したことで、私達は一目散に目標を撤退へと切り替える。



 というわけで先程からオリンピック選手の如く逃げ回っている沙織を探す。

 見つけてみれば10体にも及ぶてばりに追いかけ回されていた。

 沙織はなにかモンスターを惹き付ける才能でもあるのだろうか。


「ひーーーベンヌー何とかしてー!」


「なんとかと申しても我の得意分野は神聖属性の魔法と言っておろう!攻撃魔法は心得ていない!」



「やくたたずー!」




 なにやら楽しいことになっているようだが、放置するわけにもいかない。



「沙織ー!逃げるよー!」


「はいはいはーーーい!」






 そんなこんなで私達は気持ちの悪いやつらからなんとか逃げだした。







「はあ、はあ……み、皆大丈夫?」



 畑からは離れると、てばりはそれ以上追いかけてはこなかった。


 とりあえず息を整え、皆の無事を確認する。



「はあ…な、なんとか……生きてる……ます……」


「大丈夫だ」


「…うむ」


 沙織の口調が壊れているがまあ大丈夫だろう。



「でもどうしよう、クエストのキャンセルはあまりしたくないし…」



 初心者とはいえ、ポコポコとクエストリタイアしてしまっては信頼が落ちてしまう。


 なので、どうにかあのてばりをいくらか倒しておきたいのだ。



「でも倒すってどうやるの、美花も私もあまり魔法は使えないでしょ?…………それにもうあの顔を見たくないし」



 ぐうの音もでない正論を出されてしまう。


 だけど私にはある考えが頭を巡っていた。



「私に考えがあるの、まずこれこれこうして……」


 ひそひそと皆に耳打ちをする。


「……これ本当に成功するの?それこそアニメとかの話ならともかく……」


「うーん、でも美花の作戦しか今のところ効果的なのは無いんじゃないか?」


「我は構わんぞ、いざというときは任せるが良い」



 賛否両論様々だが、この作戦で行くしかないと思った。



「じゃあ作戦開始!」








 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「アーストラップ」


 詠唱を終え魔法を唱えると、目の前の地面に大きめの穴が開いた。


 アーストラップ…土魔法の簡単な部類で効果は至って単純、落とし穴である。

 練習で何度か使ったが実践は初なので、うまく魔法が発動したことに心のなかで胸を撫で下ろす。



 さて、穴を作ったのは畑からすぐそば。どうにかこうにかしててばりを誘き寄せ穴に落としてしまおうという魂胆である。


 誘き寄せるエサを担当するのは体力に自慢のある沙織選手。しかもベンヌによる精霊魔法の身体強化を行ってるから恐らく人間相手では話にならないであろう。



 しばらく穴を横長に大きくして待っていると、悲鳴とともに沙織が7匹程のてばりを連れてきた。



「やっぱりきもちわるいーーー!」


「キキッ!ギギ!」



「そこの穴を飛び越えて!」



 声をかけると同時にダンッと土を蹴る音がする。


 力強い踏み込みをバネに、沙織は2メートルはある幅の穴を軽々と飛び越えた。


「よしっと」


 着地と共に振り返る沙織。

 見れば作戦は成功し、見事ついてきた全てのてばりは穴のそこにいた。



「やった!うまくいったよ沙織!」


「うん!でももう囮はごめんだけどね」


「すごいな、ここまでうまくいくとは」



 思った以上にうまくいったものである、てばりの頭が悪くて助かった。



 穴の中で蠢いてるてばりを皆で倒し、これを繰り返す。



 想像してた異世界戦闘とは違うけれど、それでも私達の勝利にはかわりなかった。




 今日のご飯は何時もよりも豪華にして、冒険者らしく宴っぽいことをしてみたいな。




 そんなことを思いながら、夕焼けの映える野道を皆で歩いていた。

次があれば会いましょう。

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