街のギルド
まずいですよ!(投稿ペースが)
「お元気かしら?」
フードを外し、紅茶を片手ににこやかに話しかけてくるお姉さん。
前は見えなかったが人間離れしたような美しい顔をしていて、モデルをやってると言われても違和感なかった。
「知り合いかい?」
「ええ、まあ……あの、お姉さんここで何してるんですか?」
知り合いと聞いて警戒を解くアキラ。
「何ってそりゃアフターフォローに決まってるじゃない」
「アフターフォロー?」
おうむ返しに尋ねる私にお姉さんは紅茶を一口飲んだ後。
「人を見知らぬ地に飛ばしておいてあとは知らんぷりなんてのはひどいでしょ?だから飛ばした張本人である私はあなたたちが一人前になるまで面倒を見る義務があるの」
確かにいきなり飛ばされて何もわからずどうしたものかと悩んでいたのだ、ありがたい話ではある。
「それは嬉しいですけど具体的になにをするんですか?」
「そうねえ、まずは常識を身につけることかしら。次に魔法や精霊術を教えて上げる」
魔法と聞いて少し身を乗り出す。
異世界と言えば魔法、魔法と言えば異世界。是非とも覚えたいものである。
「そんな慌てなくてもちゃんと教えるわよ……それと、まだ自己紹介したなかったわね。私の名前は[あるか]、世界の渡し人をやってる者です」
なんとなく中二病臭い自己紹介をしたお姉さん改めあるかさんはそのまま言葉を続ける。
「ではさっそくだけどこれを渡しておくわね」
といって取り出したのは表紙が同じの二冊の本だった。
「これはこの世界の常識をある程度記した所謂教科書、これでお勉強してね」
この世界に来ても勉強をしなければいけないのか。
「あ、ありがとうございます」
「お勉強……嫌だなあ…………」
受けとるも露骨に嫌がる沙織、まあ苦手なのは昔から知っているが。
「そんなこといってもしないわけにはいかないでしょ、私も手伝ってあげるから」
項垂れる沙織をなだめつつ、あるかさんに話を進めるよう促す。
「…まあ無理な内容は書いてないつもりだから適度に頑張ってちょうだい。それとこれも今渡しておくわ」
と、今度は表紙の違う二種類の本を取り出した。
「こっちは魔術に関する事を書いた本…所謂魔導書ってやつね。そしてこっちが精霊術に関する本」
はい、っと二人に渡すあるかさん。見れば魔導書の方は表紙が黒く、精霊術の本は白く対照的で。どちらもそれっぽい雰囲気を出している。
「そういえばなんで私が精霊を連れてくるって知ってたの?」
ふとしたように受け取り様に沙織が問いかける。
確かにそうだ、私達はここにくるまで彼女にはに会っていない。知ってるはずがないのだ。
それを聞きうーん、とひとつ唸るあるかさん。
「あなたが精霊に好かれる体質なのは知っていたし、こうなるようにわざわざ精霊の多いところに飛ばしたのよ。それに安全には最大限配慮していたわ」
「危うく私死にかけたんですけど」
この世界に初めて降り立った時の事を思い出す。
あの時はアキラが来てくれたからいいものの、もし来なかったと思うと考えたくもない話である。
「直前になったら助けて上げたわよ、言ったでしょ?飛ばしておいて知らんぷりはしないって」
なんか釈然としないがここで言い争っても勝てる気がしない上に時間の無駄だと悟る。
「そういうことならいいですけど……話を戻しましょう」
「そうね……で、カノール街道が使えないのは知ってるかしら?」
コクコクと頷く私達、そもそも二週間ほど通れないからここに来たのだ。
「なら二週間はここにとどまるでしょ?だからその間あなたたち二人に修行をつけようと思ってね。習うより慣れろが私の流儀なの、というわけで明日からここに来てほしいのよ」
修行……なんと心に響く言葉であろうか。
昔の中二病の古傷が軽く疼いている。
「わかりました、明日の朝ここにくればいいんですか?」
「うん、よろしくね。沙織さんもちゃんとくるのよ」
サボりそうな沙織に釘を指し、それじゃあねと席を立つあるかさん。
「はい、沙織は私がしっかり連れていきますので」
「ええー」と嫌がる沙織をみてあるかさんはクスッと笑いギルドを出ていった。
「なんかすごい人だったな」
「うむ、感じる魔力からしても人の領域から逸脱しておる」
「そ、そんなにすごい人なの?」
私にはアキラと同じくなんかすごい人という認識しかなかった。
「それより早く下見を済ませよう、私お腹すいちゃった」
いつもの能天気な沙織、時刻はもうお昼を過ぎている。
「そうだね、どのみち明日会うんだし…あ、受付はあそこみたいだよ」
見渡せば入り口からは少し見辛い位置に受付らしき所があった。
受付まで行き書類仕事をしていた受付嬢さんにすみませんと一声かける。
「はい、ご用件はなんでしょうか?」
「私達この町に来たばかりでよくわからなくて…クエストを受けるには何か必要なことはないか聞きたいんです」
そこまで言い終えると受付嬢はなるほどと呟き棚の下から全員分の紙を取り出した。
「それでは冒険者としての登録をしますのでこちらに必要事項を記入してください」
紙を受け取り、名前、年齢と生まれ月等を記入していく。
記入し終え受付嬢に紙を渡すと受付嬢は奥に引っ込み、しばらくして人数分のカードを持ってきた。
「こちらが所謂冒険者カードになります。再発行はできますがあまり紛失しないようにしてください」
渡されたカードを手に取ると、左上の四角い空白になんと自分の顔が出てきた。
「すごい、どうなってるんだろうこれ」
沙織が面白そうにカードを食い入るように眺める。
「詳しくは私達も知らないんですが、なんでも持ち主の魔力を読み取ってるんだとか。偽装できないように持ち主以外が触っても顔が表示されないので身分証明書として使用できますよ」
カードについて説明を行う受付嬢さん。
仕組みは全くわからないが魔法とはなんとも便利なものである。
「ではこれにて冒険者登録は完了しましたので、いつでもクエストを受けることができますよ。さっそく受けていきますか?」
クエストを受けていくかの問いに私達は今日は遠慮すると答え、ギルドを出る。
すると沙織のお腹がきゅ~と鳴る。
「さて、どこでご飯食べる?」
その声と共に皆もお腹から空腹を訴える訴える音色が聞こえてくる。
「どうしようか、お店に入る?それとも買い食い?」
「さっき見かけた露店にいかないか?肉と野菜を生地でつつんだやつ」
反対の声はない、アキラの提案に皆賛成のようだ。
「あのお店ね、そこにいこう!」
言うや駆け出す沙織。
今日も私の親友は元気だなと思いながら。
「まってよ沙織ー」
もう遠くまで距離の離れたその後ろ姿を追いかけた。
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翌朝
ふかふかのベッドで目覚めた私達は食堂になっている宿屋の一階にて朝食を摂り、私と沙織、ベンヌはギルドへ。アキラはこの街にあるという親戚の家を探しに行った。
「ひぇもひゅひょうっへはひふふんはほ」
沙織が口をりすのように膨らませている、いつのまにか買い食いをしていたようだ。
「食べながら喋らないの……そうね、実習をやるって言ってたし座学よりもそっちがメインなんじゃない?」
私の言葉に沙織は口の中のものを飲み込み。
「そうかあ、昨日もらった精霊術の教科書読んでみたけどよくわからなかったんだよね。美花は内容わかった?」
「うーん、私もよく読んでないんだけど…人が扱えるのが体に溜め込んだ内部魔力で、空気中に漂ってるのが外部魔力って呼ぶことぐらい」
それ以降は眠れなくなりそうだったから見てないだけだけど。
「やっぱり美花すごいなー、3ページめくっただけで寝ちゃったんだよね」
沙織はいつもそうだねーと言いながらギルドへ入る。
すると昨日と同じ場所にあるかさんが座っていた。
「よし、ちゃんと来たわね。じゃあさっそくだけど場所を変えましょうか」
言うやあるかさんはギルドを出てその裏側へと回った。
裏側といっても職員用の勝手口と朽ちたドアがあるだけで、ここで魔法の練習ができるとは到底思えない。
「こっちよ、ちゃんと着いてきてね」
あるかさんは朽ちたドアを開け、暗く細い道を進んでいく。
私達も後を付いていく。
歩いて数分と経たずに明るい光が見えた。
さらに進んでやっと細く暗い道を抜けると、やや広めの草地に出た。
「到着、今日からここが修練場よ」
見渡せば街を囲う外壁の一部があり、木や民家により周りからは見えないようになっている。
「さっそくだけど実習に入りましょうか」
あるかさんは満面の笑みでそう言い放った。
次は生きてる内に投稿します(適当)