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私達の冒険譚  作者: 喜求
5/8

大精霊とキルクスの街

初めは沙織視点です。

 






 …………。




 焚き火の光以外は大した光もない空間。


 静かな時間が刻々と過ぎていく。




「はあ、いったいなんでこんなことに…」


 目が覚めたら異世界の森の中で親友と再開。なんともおかしな話。



 そんなことを考えながら、過去に見た美花の本棚のラノベの内容を思い出す。


「確かあの世界は魔法と科学が対立してたんだっけ」


 これはなかなか珍しいと目をキラキラさせながら説明していた美花。


 多分今凄く楽しんでるだろうなー。


「それに引き換え…」


 私はそんなに異世界に憧れてたりはしなかったし、どうせ夢だと思って二つ返事でこの世界に来るって言っちゃったし。


「ま、来たからには楽しまなくっちゃ、美花もいることだし」





 ふと空を見る。





 そこには都会ではまず見られないであろう星空が広がっていた。



「満点の星空…」



 しばらくそうして空を見上げていると一筋の光が視界を横切った。


「なに!?」


 光の通った先を見る。

 すると野球ボールサイズの光の玉がフワフワ浮かんでいた。


「ん…どうしたの沙織……?」



 先ほどの声で美花が起きてしまったようだ。


「み、美花…あれ」


 少々震えながら指をさす。


「精霊?にしてはさっきみたのより大きいような…」



「精霊?これが?」



 改めて光の玉を見てみる。


 すると精霊?が私の周りを飛行し始めた。


「なんか飛んでるけど大丈夫なの?」



「大丈夫だと思う……多分」



「多分って……」



 親友からの不安な言葉を聞いてしまったが今のところ精霊からは敵意らしいものが感じられない。



「でも今のところは安全……「ボンッ!!」」


 安全そう



 そう言おうとして指でさわろうとしたら突然爆発した。




「なんだなんだ!?敵か?」


 音に反応して飛び起きたアキラが両手剣を手に取り身構える。



「げほっげほっ………なに?」





 煙が晴れるとそこには。


「やあ、初めまして契約者殿。我輩は大精霊にして神聖属性の魔力を司る霊鳥、ベンヌと呼ばれている者である」



 赤い体毛の首の長い鶏サイズの鳥がいた。




 なんというか…そう。


「かわいい!」


「かわ…大精霊たる我輩が……かわ…いい…?」


 私はたまらず抱きついた。


「ちょ、苦しいではないか!はなせ~」


 なかなかいい手触り、色合いも兼ねてかなり好みだった。



「ちょっと沙織、苦しそうだからそれくらいにしときなさいよ」



 いけない、我を失い力が入りすぎてしまったようだ。




 スッと離しようやく解放されたベンヌはゴホゴホと咳払いをし。



「はぁ、はぁ、死ぬかと思った……」


 小声でそんなことを呟いた。


 そもそも精霊は首を絞められたら死ぬのだろうか。




「……コホン、では改めて。我が名はベンヌ、契約の儀によりそなたの力になった者。して契約者殿の名はなんと申す?」


 姿勢を正し、先ほどの首を絞められた鳥とは思えないような威風で話し始める。


「私の名前は沙織。ところで契約ってなに?」


「沙織殿か、承知した……して契約について知らぬとな?」


 うんと頷く。

 そもそも光に触れただけで契約の儀とやらを行った気がしないんだけど。


「久方ぶりに見込みのある人間がいたと思って契約した我は間違いだったのだろうか……」


 と、ベンヌが頭抱えるようなポーズで項垂れる。




 やがて吹っ切れたように頭をあげて。


「まあ仕方がないとしよう、契約は覆せんしな……契約というのは精霊が認めた人間に近づき周りを旋回し、契約の儀を申し込む、それを受けた人間は晴れて精霊使いとなり…」


 長ったらしい説明を始めるベンヌ、これが教室だったらうつ伏せ三秒前だ。




「であるからして精霊は…………で、人々と契約するようになりそして………である」



 もはや半分聞き流していたが、ようやく終わったようだ。



「あ、終わった?もう交代の時間だから私は寝るね」


「……はい」


 さすがに眠くなってきたので美花と交代して就寝の体制に入る。


 ベンヌがなにか言いたそうにしていたがガン無視である。








 ベンヌが長話に入ったときにアキラはもう寝てしまったので、後は美花とベンヌだけになる。


「あなたは寝なくてもいいの?」


 ただ火を眺めているのも暇なので話しかける。


「動物の姿を取っていても元は精霊であるからな、魔力の持つ限りは睡眠は必要ない」

「その姿を維持するのに魔力を使うの?」

「いや、人間が呼吸をして魔力を吸収するのと同じように我々も常に空気から魔力を吸収している、大きな魔法を何度も使わない限りは問題ない」


 へえ~と感心しながら頷く。


「大精霊って言ってたけど他にも精霊の種類があるの?」

「まず下から微精霊だな、具現化も出来ないほど小さなやつらで力も皆無に等しく、それゆえ精霊とすら呼ばれないこともある。次に精霊、これが一般的に見られる光の玉で人間とよく契約するのが特徴。その次が我々大精霊、力も精霊より大きく動物の姿をとり、人語を操る。その上に神精霊というのがあるが我も見たことない、一説には神と言われておる」



 やっぱりベンヌの話は長いと思いつつも会話の内容を頭に入れていく。


「じゃあ神聖属性の魔力って?」

「そのままの意味じゃな、神聖なる魔法を扱うには神聖属性の魔力が必要不可欠で、6つある魔力元素の内の一つである光がこれにあたる」


 そういえばベンヌからは清らかなオーラみたいのを感じる。

 魔力うんぬんはまだよくわからないけどそういうのがあるって覚えておこう。


「じゃあじゃあ…」

「まだあるのか……」






 美花の質問攻めによりベンヌは疲れた顔をしながらも律儀に答えていくのであった。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「さて、行きますか」


「「おー」」



 簡単な朝食を済ませて荷支度を整える。

 3人+1匹となり、随分と賑やかになった。


 親友にも再開できたことで気合いも入り、足取りは軽い。


 精霊踊る湖を出発し、カラフルな森を抜けていく。








「ねえ美花ー、あとどれくらい?」


「その質問これで3回目よ……まだあと少しありそうね」


 地図を見ればキルクスの街は山のふもとにあるらしく、その山らしきものは目には入ってるものの、あと1~2時間はかかりそうだった。


「あの山のふもと、あそこにあるみたい」

「遠い~」


「まだまだかかりそうだしここいらで休憩にでもする?」


 愚痴る沙織に休憩の提案をするアキラ。

 前の休憩から約1時間、歩き慣れてはいない二人にはなかなか辛い。


「さんせーい」

「じゃああそこの木の下で休憩しましょう、あそこまで行ける?沙織」

「美花ってば私を馬鹿にしてるの?私の体育の成績を忘れたとは言わせないわよ」


 そういってクラウチングスタートの体制を取る沙織。

 沙織の体育の成績は基本5で、クラス最高の体力と運動神経を持つ筈だが、どうにも遠い目標にはてんでダメでマラソン大会はよくサボっていた。

 なので小さな目標を作らせなんとか走らせたりした記憶がある。


「ちょ…」



 アキラがなにか言おうとしたが、すべて後の祭り。あっという間に声の届かぬ距離にいってしまった。


「さ、沙織殿ー」



 ベンヌが必死に主の元へ飛ぶ。


「はぁ、まあベンヌがついてるし大丈夫か」


 アキラが追いかけようとして諦める。

 確かに大精霊と呼ばれるだけの存在だし多少は任せても問題無さそう。



「あれはほっといてのんびり行きましょ」





 その後も何事もなく歩みを進めていく。

 時々獣型のモンスターが現れたりしたが、アキラの手により全て葬られている。






「……生臭い」


 そして金になるからと毛皮と生肉を持てるだけ持っていた。

 アキラはともかく私達は一文無しだ、少しは貢献しなければならない。


 という訳があり包み紙越しとはいえ肉の生臭さに愚痴を溢す沙織。


「そんな文句言わないの……ほら、見えてきた」


 視線を向ければ大陸を横断する山脈、そしてそこにぽっかりあいた大穴、その前に半円状に広がる大きな街。



「ここがキルクス……」



 しばらく歩き大きな門を潜り抜け街中に入る。

 見えたのは山の穴へと続く大きな道と、それを歩く人々であった。


「すごい人だかりだね~……あ、あそこお肉屋さんっぽくない?早く行こうよ!」



 目敏く肉屋を見つけた沙織が手に持つ生臭い物を下ろさんと催促する。

 私も早く手元を解放したいのでアキラと共に沙織についていく。



「おじさん、このお肉買い取って!」

「へいらっしゃい!家は高く買い取るよ、買い取る肉はそれでいいかい?」


「はい」と全員が生肉を差し出す。


 肉屋のおじさんは出された肉をじっくり眺め。


「よし、4万…と言いたいところだがお嬢ちゃんの可愛さに免じて5万カルでどうだ?」

「ありがとうおじさん!」


 オマケをしてくれたおじさんに満面の笑みで沙織が答え、お金を手に入れる。


「あの肉の量で5万カルはなかなかいい取引だね、これでしばらくの宿代も手にはいった」


 この世界の金銭価値はまだわからないがアキラからみてもこれはいい取引の分類らしい。




 当面の金も手にはいったので、手近な宿をとり、荷物を置いて街にくり出す。


 この街から進むにはあの大きな穴を通らないといけないらしく、情報収集の為散策ついでに穴の下まで来たのだが。


「すまない、カノール街道は今通行出来ないんだ」


 通れなかった。


 守衛さんに話を聞くと最近地鳴りがあったらしく、落石で道が通れないとのこと。

 それほど大きな規模ではなかったようで、あと2週間もあれば通行可能になるらしい。



「うーん、どうする?」

「どうすると言っても通れないならここにいるしかないんじゃない?」


 他にこの山脈を越える手段は近くには無いらしい。

 となると2週間をなんとかこの街で過ごさなければならない。

 その為にはお金が必要で、現在の手持ちでは1週間が限度だろう。



「となるとどこかで稼がないといけないな、この街には確かギルドがあったはずだ、そこで今日はやらずとも下見に行こう」



 アキラがギルドに行こうと言い出した。


 そう、ギルドである。

 異世界の定番で、荒くれものの集う場所。

 是非言ってみたい所ランキングトップ3に入る場所だった。


「いこう!ギルドに!」



 私は大きい声で賛成した。








 ギルドの場所は街の入り口の側にあった。

 討伐したモンスターを運び入れたりする際に入り口から近い方が便利なのだとか。

 あとはモンスターが街へ侵入した時に迅速な対応が出来るよにとそこら辺にいたおばさんから聞いた。



「ここがギルドかあ」



 3人+1匹の目の前にはレンガ造りの二階建ての建物があった。


 開けっ放しの大きな扉をくぐり中へ入る。


 まず感じるのが酒の匂い、酒場が併設されてるらしく、クエストを終えたらしきパーティーの人達が打ち上げをしていた。



「結構匂うわね…」


 だがそれが醍醐味だとこの状況を密かに楽しんでいた。


「ええっと、受付は……」



 ギルドの受付を探すべく辺りを見回すとなぜか人気の少ない一角があった。

 さらにそこにはなんだか見たことある服装に身を包んだ人がこちらに手招きしている。


 軽く警戒しつつも、誘われるがままにそちらに向かうと。







「こんにちは、お元気かしら?」






 あの時のローブのお姉さんが座っていた。


バイトがつらいです。

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