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私達の冒険譚  作者: 喜求
4/20

4話:サバイバル

 


「ねえベンヌさん。私魔法が使えるようになりたいんですけど」


 歩く最中、私は最も大事なことを大精霊へと問いかける。

 沙織の隣をトコトコ歩く姿はこうして見ている分にはかわいげがある。

 ダンディな声とのギャップで未だ脳が追いつかないがきっと慣れる...はず。


「ミカ殿と言ったか、我の契約者はあくまで沙織殿なのだが...我ら精霊と人では勝手が違う。見て学ぶか人に教えを乞うことじゃ」

「見て覚える...て、手本をお願いします」

「手本か...サオリ殿。良い機会じゃ、魔術を使ってみましょうぞ」


「えっ、そこは魔法じゃないの?」


 首をかしげる沙織。


「人の意思に応じて精霊や悪魔が魔法を発動することを魔術と呼ぶのじゃ、試しに先ほど我が獣除けに使った障翳を意識してみるのじゃ」

「わかった、やってみる」


 沙織は足を止め、眼を閉じる。


「こ、こんな感じ?」


 はたからでは何をしているのかさっぱりだが沙織には感覚で何かわかるのだろう。


「うむ、初めてにしては上出来じゃ。きちんと伝わっておる...「障翳」」


 ベンヌがそう唱えれば、沙織の周りの草木が避けるように折れ曲がった。


「おぉ~」


 三人して感動と驚きの声を上げる。


 ......じっくり見たつもりだったけど全く真似できる気がしないんですが。


「無理では...?」


 せめてエフェクトの一つでも欲しかった、何もとっかかりないんですけど?

 あのアニメとかでよくある魔法円的なものとかは?

 沙織がちょっと...いや、かなり羨ましい。魔法に一足先に触れられるなんて。


「通常の契約なら術式等もある故説明もしやすいのじゃが...これではちと荷が勝るか。仕方がない、できる人を探すことじゃな」



 ...。


 .........。



 結構ショックだな。言葉にできないけど。


 項垂れる私の肩に明が手を置くが今の私には慰めにならぬのだ...。


 ええい! 気にしない! 要は師匠を探せばいいだけ! そういうこと!


「よし! 師匠を探しに行こう!」


「立ち直りが早いな」

「明、私はやるよ!」


 絶対魔法使いになってやるんだから!


「それはいいけど、まず今日の宿だろ。今一文無しの三人組だぜ」

「うぐっ...」


 そういえばそうだった、今の私達は明日すら怪しいんだった。


「村についたとしても日が暮れた後だろうし、そもそも泊めてくれるかもわからないしな」

「流石に夜間に歩くのは危ないしね、となると今日寝る場所と食事の確保か」

「そうだね、ベンヌ、ここらへんで食べれらそうなものってある? 私達でも取れそうなもの」


 私達というところで結構ハードル上がりそうだけど大丈夫だろうか。」


「ふむ...森まで行けば何かあるやもしれぬが食用かはわからぬな。先のイノシシなんかはどうだ、三人で食うなら量が多い方がよいだろう」


 私達でも取れそうなものって言葉が聞こえなかったんだろうかこの鳥。


「さっきそいつ相手に見事に死にかけたけど」


 ベンヌがいなければ沙織はどうなっていたかわからないのだ。少なくとも大けがは免れない状況だったと言える。


 隣をみれば明がばつの悪そうな顔してる。

 正義感の少し強い明のことだから自分がかばわれたのが嫌だったのかも。

 けどあれはしょうがないと思う。あんな状況で動けるのは沙織くらいだよ。


 というかまず魔法が使えるベンヌが倒せば良くない?


「ベンヌって攻撃魔法とか使えないの?」

「一切使えぬ。我は医療支援特化の精霊であるが故」

「よくそれでイノシシ狩り提案できたな」


 なにそのありがたいけど今の状況にマッチしない特化は。

 一切って言いきっちゃうあたり攻撃に関してはほんとに頼りにならなそうだ。


「ふむ...とはいえ他に取りやすく食料になりそうなものとなると...うーむ」


 ベンヌが悩み始めて一拍、明が口を開いた。


「いや、あのイノシシを取ろう。少し思いついたことがあるんだ」


 どうやら作戦があるらしい明は、少し自信がなさげだった。











「ねえ、これ本当に成功する?」


 明の立てた作戦の通りの配置で時を待つ。

 私とベンヌが草の陰に隠れ沙織が開けた場所で立つ。明が追い立てる、というより喧嘩を吹っ掛けて逃げてくる役だ。


「なに、失敗しても死ぬ前なら我が何とかする」

「頼もしいけど死ぬ手前までいったらもう色々ダメだと思う」

「縁起悪いなぁ、明なら大丈夫だよ」


 もうかれこれ5分程か、草陰トークに花を咲かせていると遠くで草木を駆ける音が聞こえる。


「きたぞおおお」


 明の元気な声もばっちり聞こえる。


「頑張って沙織」

「任せてよ」


 ほどなくして明の姿が見え、さっきよりも一際大きなイノシシがそれを追いかけている。

 ベンヌの魔法によって強化された脚力はどうやらイノシシの猪突猛進とタメがはれるらしい。

 こちらに注目されないよう息を殺し、姿勢をより低くする。


「沙織い! パス!」


 まっすぐ来た明が沙織にバトンタッチし、すかさず。


「「障翳」」


 イノシシが横にそれる。

 勢い余った巨体は穴と呼べるほどの窪みに突っ込み、体勢を崩したまま岩に衝突し転倒する形で動きを止めた。

 それを確認した私はすかさず強化された力をフルに使って手元の一抱えもある石を持ち上げ駆け寄り、その後ろ足に向けて投げつける。

 不安だったが岩は狙い通りにあたってくれたようで、深手を負わすことに成功したようだ。


 後は三人で岩を投げつけ完全に動けなくした後、先端を多少尖らせた聖剣グラディウスを明が心臓の近くに突き刺した。


 しばらく待ち確実に仕留めたと確信できたところで、息をつく。


「はぁ...仕留めたみたい」

「き、緊張したあ」

「うまくいくもんだね」


 なんとか初の狩り成功である。


 このまま座り込みたいところだが、そうもいかない。


「さ、悪くなる前に解体できるもの探さないと」


 ナイフなんて上等なものがない以上代用品から探す必要がある。

 解体の時間を含めると余裕がない。


 確か自然界でナイフの代用になるのは器用に割った石や貝殻、魚や動物の骨....。


 イノシシの牙、さっきの衝撃で一本折れてるけどこれ使えないかな。

 いや、鋭利だけどそのままじゃ肉の加工には向かないか...削って研ぐ必要がある。


「こいつを探してた時川を見つけたんだ、そこなら何か使えそうなものがあるかも」

「そうだね、行ってみよう」


 イノシシを置いて明の道案内のままに川へと歩みを進める。



「というか川あったなら魚なりなんなり狙えば良かったんじゃ?」

「ちょっとベンヌ?」

「我はあまり地理に詳しくないのだ」

「まあ魚だって確実に獲れるわけじゃないし...結果オーライだよ」


 全員怪我無く食事を確保できたんだから結果は上出来。



 大して歩くこともなく、せせらぎの音が聞こえ始めた。


「もうすぐだよ、あのイノシシそこで水飲んでたから多分飲めると思う」


 そこまで大きくもない歩いて渡れそうなくらいの物だが、ちゃんとした川がそこにあった。

 数分もかからない距離で助かった。水も澄んでいるし、あまり良くはないがそのままでも大丈夫そうだ。

 今夜はこの近くにキャンプを張るとしよう。


「よし、今日はここをキャンプ地とする!」

「それ言ってみたかっただけだろ」

「何かのネタ?」

「うん」


 いいじゃん言ってみたかったんだから。





 三人がかりでイノシシを運び込み。


 川を漁って適度な石を拾い、沙織がそれを器用に刃物に変えていく。


 明が必死の顔をして木をこすって火を起こし。


 私がイノシシを解体する。


 その後みんなで枯草を集めベッドのようなものを作り上げる頃にはすっかり日が落ちていた。




 平べったい石に雑に切られただけの肉を並べていく。


 自分達で手に入れた初めての食事。


 異世界(仮)に来てなんでサバイバルしてるのかと今日何度目かの思考を振り払い、焼けた肉を食べる。

 ちょっと獣臭いけど何度か食べたことがあるからそれもすぐ慣れた。

 二人も父のジビエ料理を経験してるからか抵抗はなさそうだ。


 ふと家族を、思い浮かべる。


 両親は今頃何してるだろうか、結局親孝行らしいことはできなかったなあ。

 高校生になってからは会う機会も減ったけど、もしかしたらもう一生会えないかもと思うと...。


 いや良くない、今は生きることを考えよう。私にできることはそれだけだ。


 精霊とかいう存在に出会って魔法を見て、元の世界とは違うんだなと考えてしまうがそれがどうした、私は生きるのだ。

 親友たちがいるのだからそれだけで十分だ。


「塩が欲しいな」

「...そうだね」

「ベンヌー、塩だしてー」

「無理じゃ」


 沙織は結構ベンヌに無理難題を吹っ掛けたりする。できるできないの基準でも探っているのだろうか?


「それにしても、スカウトの授業が役に立つなんてな」

「人生何があるかわからないもんだね」


 軽く談笑しつつ食べられるだけの肉を食べ終える。


 余った肉や内臓は軽く土をかけて埋めておいた。気休め程度だけど肉食動物を引き付けないとも限らないし。


 ふと空を眺めれば綺麗な星空が私達を照らしてくれる。

 風に揺らめく草と川のせせらぎ、そして爆ぜる焚火の音だけが支配する闇の中にいるとつい危機感を失ってしまいそうだ。


 自然の中にいるという感傷にしばし浸る。けれども体はそろそろ眠気を訴えてきた。


 水を飲み用を足し火に土をかぶせておく。多少風があるからつけっぱなしは危ない。

 少し肌寒いが三人で身を寄せ合って寝れば風邪はひかないだろう。


「我が見張りを行う、安心して寝るとよい」

「お願いね」


 精霊は肉体の依存が少ないからそんなに寝なくても良いとかなんとかで、見張り番はベンヌが引き受けてくれた。



 明は少し遠慮する素振りをしていたが気にしなくてもいいのに。半ば無理矢理に枯草の束に連れ込む。

 枕がないから寝心地は良くないが、休めはしそうだ。


 さて、今日は眠れるかな。


「それじゃあ、お休み」

「おやすみ」

「おやすみ」



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