20話:修行
昨日は全く眠れなかった。
リアさんから何度も魔法を発動した感覚を反芻するよう言われてたこともあり、ひたすらに忘れないように繰り返し思い返した。
「気持ちはわかるけど睡眠はちゃんととろうね?」
「はい...」
朝になり眠そうにしている私を見たリアさんは若干呆れてるような声をしていた。
顔を洗って無理矢理目を覚まし、今日の修行に臨む。
目指すべき感覚を把握できたことで身の入り方も変わった。
答えに近づくように集中をより深いものにしていく。
何も考えないのではなく、ただ一点に意識をまとめる。
雑念を払い、頭に負荷をかけていく。
結果だけ見ても大きく変わってるわけじゃない、それでもなんとなく前に進めている気がする。
「いいね、昨日より良くなってる」
「ありがとうございます、リアさん」
「まだ魔法を発動できるほどの深度じゃないけど、そう遠くないかもね」
褒められるのはうれしい。
私に成長できているという実感をさせてくれる。
「リアさんはどれくらいで魔法が使えるようになったんですか?」
「私? そうだなあ...10年くらいかな」
「10年!」
驚いたはいいけど実際早いのか遅いのかよくわからない...
けど自分が今の修行を10年続けられるか聞かれると、少し尻込みしてしまう。
「私の場合は他に教わることも多かったからね、これでも早い方なんだよ? 普通の人は修行しても何もできないままで終わるし」
「やっぱり魔法使いって貴重な存在なんですね」
アニメなんかでは気軽に使われていたしリアさんもベンヌも何でもないように使っていた。
だというのに、普通の人には頑張ってもたどり着けない雲の上のような話。
私はとても運がいいのだろう。
魔法が使える上に教えてくれる師匠と出会えたのだから。
「じゃあ次は杖を振るよ、ほら立って」
促されるまま立ち上がり杖を構える。
リアさんの合図で杖を思いっきり振り回す。
目の前に人がいるということを想定し、打ち、払い、突きの動作を行う。
前にリアさんが言っていた体を動かすというもので私にとって護身術となる杖術だった。
長めの杖には物理的な攻撃手段としての役割もあるとかで、魔法が使えない状況での咄嗟の防御にもなると教えられていた。
私達が三人で行動する場合は明が前衛になるわけだが、相手が複数だとどうしても私が孤立する場面が出てきてしまう。
そこで時間稼ぎをしたり魔法を放つ隙を自分で作れるように鍛えることで生存力を高めようという趣旨だそうだ。
「手の動きが緩んでる、流れでやるんじゃなくて一つ終わるごとにピタッと止めるイメージで動かして」
「はい!」
支援魔法すらなしにひたすら全身を使う。
終わるころにはクタクタになるだろうが、この前の戦闘みたいな事が起きた時に庇われる自分ではいたくなかった。
リアさんとの打ち合いも行うが全く勝てる気がしない。
お互い支援魔法なしで、体格も同じだというのにこちらの攻撃は全部逸らされている。
たまに手加減された攻撃が私に当たる。怪我をしても終わった後に全部治せるが、それを前提にしているため最終的に全身打撲だらけになってしまう。
「修行で受けた痛みはその分実際の戦いで受ける痛みを減らしてくれる、ここに関しては手を抜かないよ」
有言実行とばかりに毎回ボコボコにされているが、言い分は真っ当で納得のできるものなので我慢した。
この姿を見て沙織が凄い剣幕になっていたりするが彼女も理解してはいるのだろう、黙って見ててくれた。
「はい、治していいよ」
リアさんからの攻撃が止み、沙織が駆け付けて治してくれる。
治療の修行も兼ねているので癒すのは沙織の担当だ。
ちなみに明はこれと走り込みと素振りを一日中やってる。
たまに死んだような目をしているが大丈夫だろうか。
全身痛く回復の際の不快感もほとんど感じられない状態だが、ものの十秒で治療が終わり痛みも引いた。
疲労感はそのままなので体が重い。
「次は走り込みね」
「うげ」
「ここからあの岩まで、私が止めというまで往復してね」
つらい
「魔法使いになるってこんなに大変なんだ...」
四肢を放り投げて天を仰ぐ。
疲労困憊となりもう一歩も動けない私に、リアさんは水を渡してくれた。
「大丈夫? 無理はさせないつもりなんだけどさ、私ももう普通の感覚はわからなくなっちゃったから」
少し申し訳なさそうにしている。
「いいんです、私からお願いしたことでもあるので」
めちゃめちゃ辛いが、力が付けば付くほど安心できる気がした。
ちょっと辞めたいと後悔した瞬間もあるが、それでも続けたいと思った。
「リアさんも昔はこんな修行を?」
「そうだね、きつい時はもっと酷かったけど、おかげで今の自分があるし」
「...リアさんって凄いんですね」
何よりこれに堪えられるメンタルが。
「私は他の選択肢とか無かったから、そう考えると今の君達と一緒かもね」
確かに私達と境遇は似ているかもしれない。私達も他の選択肢を取れずにこうして弟子になっている。
きっと他にも探せばあったのだろう。最初の村でお世話になるとか。
ベンヌを有効活用して自給自足だったり、旅の医者でもやればもしかしたら生活できたのかもしれない。
そうなれば、きっともっと辛い状況だったであろう。
言葉の通じない子供が三人。これで満足な生活ができると思うほど馬鹿じゃない。
だまされて、脅されて、ひどい目にあっていたかもしれない。
あの二人から離れてしまえば私はそれだけで人生詰む程に弱いのだから。
最も安全な選択はこの道で、それ以外は現実的ではない。
実質的に選択肢は一つだった。
あの木の下で私達は自由になった。
けれども、法も社会からすらも離れた自由によって選択を奪われてしまった。
「自由って...なんなんでしょうね」
「うーん...師匠がまさに自由人だからそれを参考にするなら、主導権を握っていてかつ複数あるどの選択肢をとっても問題ない状態...とかになるのかな」
「そんな人が世界でどれだけいるんでしょうね...」
一体上位の何%がその立場にいるというのか。自由とはなんとも狭き門だった。
「本当にね、けど一つだけ言えるのは主導権を握るのも選択肢を増やすのにも力が必要になるよ」
「それは間違いないと思います」
力がなければ何も手にできない。力がなければ何も守れない。
それだけは痛感していた。
「さ、休憩は終わりにして続きをしようか。そろそろ明君が走りすぎで倒れそうだし止めてあげないと」
「ですね」
体は重いが、不思議と気分はそこまで重くない。
もうひと頑張りしてみよう。




