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私達の冒険譚  作者: 喜求
19/20

19話:近道

 

 結局一時間は持たなかった。

 5分が限界だった。


 人間って結構無意識に考え事していたんだなって実感する修行だった。

 あまりにも短かったから才能ないってことで呆れられるかもと思ったけど。


「一日目で1時間はできる人いないと思うよ、5分でも充分凄い方だから」


 そう言ってもらえたのでだいぶ救われた。


 今後も毎朝瞑想して集中力を磨くようにとのことだったので、やっていくことにする。

 数日はこの街に滞在するらしく、リアさんはこの間にある程度旅ができるだけの準備をするつもりらしい。



「今日は座学からやるよー」



 タブレットサイズの石板を渡された。あとペン。

 どうやらペンで引っかいて文字を書くらしい。水を含んだ布で擦れば消えるのでメモ帳として使うもののようだ。

 街の建物の屋根と同じ素材な気がする。ハンザス側も石材は潤沢なようでそこかしこで使われているのが見て取れた。


 紙も見かけはしたので無いわけではなさそうだが、おそらく気軽に使えるものでは無いのだろう。



 講義はというと受けるのは私だけなので魔法に関する内容のようだ。


 二人は相変わらず少し離れた位置で修行している。


「本格的なのはこっちの文字を覚えてからにするとして、軽めに魔法とは何か、からいこうか」

「お願いします」







 魔法とは


 人間の魂にある門より取り出したエネルギーを加工し具現化させる方法である。

 このエネルギーを魔力と呼び、一連の流れ(特に具現化の工程)を魔法と呼ぶ。

 魂の門は訓練次第で拡張することができ、この大きさにより扱える魔力量が変化する。

 また、魔力を流入させすぎると門が摩耗し倦怠感に近い症状で体に現れる。

 無理をすれば門が壊れ付随して魂がダメージを負い死に至る可能性がある。

 門は通常閉まっているが感情の高ぶりにより開くことがあり、一般人でも無意識に魔法を発動していることがある。

 特に第二次成長期に当たる子供は門が開きやすい。しかし具現化のための法を知らないため多くはエネルギーの流入のみで終わる。



 石板にまとめた内容を読み返す。

 まだ細かい理論やらなんやらはわからないが、ざっくり説明するとこうなるらしい。

 私がやっている瞑想の修行は門を開くさらに前段階の準備だとか。


 魔力があって、それを扱うための法。これが魔法であると。



 いいねいいね、興味のある話を専門的な人から聞けるのはすごく充実していて素晴らしい。

 興奮のあまり鼻血が出てしまいそうだ。

 後でさらに読み返すのでまた別の石板を手に取りながら続きの話を聞く姿勢になる。


 ちなみに、リアさんは日本語が読めるわけではないらしく私のメモ書きを読んで首を傾げていた。


「あー...うん。意味はわからないけど美花がまとめられているならそれでいいよ」


 私が読めるのであれば良いというので、しばらくは日本語でメモることにしよう。

 早い所こちらの言語も覚えて本を読めるようにしておかなければ。


 これについてはリアさんも早く手をつけたいらしく、今は教本を用意している所だそうだ。


「明日には準備できそうだけど、今日のところは..はい」


 手渡されたのは一冊の本。


 パラパラとめくるその中身に文字はなくただの白紙だ。

 昨日リアさんにお願いした日記帳として使えるノートだ。



 沙織達以外に同郷の人はいないし過去を振り返る道具もない。


 私達の生きていた世界が記憶から離れてしまうのを防ぐために記録しておきたかったというのが一つ。

 そして、これから起こる様々な冒険譚を書き記すのが一つ。


 中身は日本語で書こうかな、日本語も忘れたくないし。


「ありがとうございます」

「いいのいいの、日記は付けておくべきだしね。私みたいに長生きすると昔のことは忘れやすくなっちゃうし」



 日記帳が欲しいと言った際に肯定的だった理由にはリアさんの経験が多く含まれているようだ。


「私もよく書いてるよ、何年か経ってふと読み返すとね...意外と忘れてることが多いんだ」


 長生きしているリアさんはそれに見合う多くの経験があるのだろう。

 ボケを起こしていないにしても、一週間前の夕飯を思い出すのすら難しいのが大半の人間。

 覚えていることより、忘れていることのほうが多い。


 たとえそれが大事な記憶だったとしても。忘れてしまうのだろう。


 まだわからない感覚だが、もしそうなったときに思い出せるよう対策をしておきたい。



「さ、続きいくよ。その後はまた瞑想ね」


「はい!」








 そんなこんなで二日ほど経過した頃だった。



「今日は特殊な修行をしようか」


 今日は座学よりも先に何かをするらしい。

 何日も前から準備をしていた様子の近道とやらだ。

 座学は教本を貰ったのでそれを元に文字を学んでいる最中だが、修行といえば瞑想しかしていないのでもう少し進んだことがしたいと思っていたところだった。


 しかしいつもの修行場にはいつもの荷物だけしか持ってきていない。


「何をやるんです?」


「私が手伝うから美花には魔法を使ってもらうよ」



 ふぉ?


 ふぉおおおお!?!



「マジっすか!」


「口調変わってる...本当だよ、これが私の考える一番の近道」


 喜色満面で黄色い声を上げながら詰め寄る私に完全に引いてるリアさん。


「まだリスクがある方法なんだけど、これ以上は時間かかりそうだったので妥協します」


 多少のリスクなんて全然呑み込む、受け入れますとも。

 私の奇行に遠巻きから見てる沙織と明の視線が刺さって痛いが気にしない。


「3%くらいで死ぬけどまあ大丈夫でしょ」



 ピシィ



 時が止まった。少なくとも私には心が固まる音が聞こえた。


 なんてことだ、ガチャのレアリティぐらいの確立で私死ぬのか。



 ...そう思うと滑稽に見えてしまうのでこれは不適切だな。

 変な考え事で正気に戻る。


「...大丈夫なんですかその方法」

「美花の集中力次第かな、流石に死なせるようなことにはしないからそこは安心して。やばくなったら何とかするから」


 この数日の瞑想はこのための修行だったのか。


「そういうことなら頑張ります」

「やってるのは精霊と同じなんだけどね」

「精霊と?」


 ふとベンヌの方を見る。


 ベンヌは沙織に講義しているようだが、当の主人は私を見ていて聞いている様子がない。


「生涯契約って呼ばれてたかな、それを再現してるだけなんだけどね。これが複雑な構造をしててあの二人を間近で観察しててようやく一部を解析できたの」


 なんかまた凄いことしてる。


 人知を超えていそうな存在に人がたどり着いている。


「結構巧妙に隠匿されてて断ち切ることはできても構築までは難しくてさぁ。特に信号の歪まない双方向通信の確立が...」


 リアさんがいつになく饒舌だ。途方もない苦労があったことがうかがえる。

 よくわからない専門用語をつらつらと並べる所を見るにただ喋りたいだけのようだ。

 めずらしい姿だがこういうところは凄く人間味を感じる。


「ああごめんごめん、とにかくやってみるから今日は杖を持って瞑想してね」


 興奮冷めやらぬままだが、とりあえず杖を持ち前に構え、その先端に意識を向け集中を始める。

 集中できる時間はまだ十数分とかうまくいっても20分くらいといったところだが、だいぶ感覚がわかってきた。



 深呼吸をひとつ行って、意識を切り替える。



 ...。


 ......。


 .........。



「そろそろ始めるから落ち着いて、変な感覚がすると思うけどなるべく抵抗しないでね」


 リアさんの手が私の頭に置かれるのがわかる。

 なるべく意識を乱さないようにするがそれでも心臓の脈が早くなるのを感じる。



「いくよ」



 リアさんの手から何かが流れてくるような感覚がする。

 見えているわけではないがピンク色をした煙のようなものが頭の中を広がっていく。


 少しの異物感はあるが、まだ意識はそこまで乱れていない。


 煙が頭一杯に広がったと思ったら、意識のほうに変化が訪れた。

 集中の度合いが一気に深まった。思考はしているがそれ以外の雑念がない、風邪とは違う頭が熱を持ったような感じがする。

 今まで感じたことのないクリアな脳内になったところで、次はもっと強い感触がした。


 今度は頭とも、胸とも違うような場所だ。体のどこでもないようで、けど自分の一部であると直感する。

 何かが壁に当たるような感覚だろうか、ググっと壁に向かって突き進むような感じがしたかと思うとそこから弾けるような感触があった。


 奔流だった、おそらく今しがた門とやらが開いて、そこから魔力が流れてきたのだ。

 体の内側から流れていく感覚は清々しさもありつつ、そのうえで負荷がかかっているのがわかる。


 指向性のなかった流れが次第に整えられていき、杖の先に向かっていく。

 それが一点に集まったかと思うとその場所に向けてまた別の何かが集まってきた。


 数秒経って形になったのは氷の結晶だった。


 握りこぶしくらいの大きさの塊は、不思議なことに宙に浮く。

 氷に魔力がさらに注がれ、圧力のようなものを正面に向けて放った。


 弾き出され射出された氷は数メートル離れた岩に衝突し粉々に砕け散る。

 魔力の流れも次第にすぼんでいき、ピタリと止まる。

 最後に頭から煙が抜けていって、集中力が切れた。



 残されたものは魔力の通った感覚と疲労感。そして砕けた氷の粒だった。




 私はついに、この世界に来て初めて魔法を使ったのだ。



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