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私達の冒険譚  作者: 喜求
17/20

17話:光芒

 

「光だ...」


 出口の方から光が差し込んでいる。

 頬を撫でる風が地上が近いことをこれでもかと主張していた。


 目を焼く太陽の光は強烈で、暗闇の中でたまった悪い気分を浄化してくれるようだ。


「眩しい...」


 私達はようやくカノール街道を抜けたのだ。



 石造りの家々が立ち並ぶ、カノールとはまた違った雰囲気のある建物たち。

 洞窟では単調だった匂いも、複雑で雑多なものが鼻を包む。


 よく見れば服装も若干違いがあるような気がする。

 一番の感動は色彩が豊かなことだ。


 壁が一色じゃないって素敵だ!





 ...さて、感動に浸るのは良いがそろそろ現実を認識した方がよさそうだ。


 強い日差しに照らされた日差し。


 向けられるソレにも強く反射していることからきちんと手入れされていることがわかる。


 私達は複数の兵士に剣を向けられていた。


「あの...これは...?」


 変な動きをせずにリアさんに質問する。

 結構怖い顔つきの人たち、ただその中に困惑が多く浮かんでいるのが気になる。


「守衛だね、たぶんカノールからの先遣隊が到着しないから警戒してたんだと思う」


 そうか、あの全滅した人たちが来ないで私達が来たから怪しく見えているのか。

 女だらけの少数で先遣隊が越えられなかった街道を越えてきた。


 ここだけ聞くと怪しさ満点な私達。

 とはいえこれはいささか警戒されすぎな気がする。


 守衛の一人、一番歳を取っていそうな人が前に出てきた。


「□□...? □□□□□、□□□□」


「話をしてくるから待ってて」


「□□□、□□」

「□□□□、□□□」


「□□...」



 またもやることがない。

 他の守衛に睨まれっぱなしなのでベンヌに翻訳を頼むこともできない。


 仕方ないことではあるが、こうも社会から一歩引いた状態で居続けると自分の存在意義すら疑うようになってしまう。

 本当に考えても仕方のないことなのだが。


 リアさんの話し合いはなにやら大事になっているらしく、守衛ではない偉い雰囲気を纏った人がやってきた。

 守衛が敬礼のようなことをしていることから、それをまとめる立場。かつ服装が他の人より上品なのでこの街のお偉いさんだということがわかる。


 お偉いさんは険しい表情をしていたものの、リアさんの話を聞くにつれて少しだけ穏やかなものに変わっていった。


 最後にお偉いさんがなにか指示を出すとようやく私達に向けられていた剣と視線が外された。

 緊迫の十数分であった。



「...もう、息して大丈夫なのか?」

「よさそう...だね」


「いや息はしてたじゃん二人とも」


 明のボケに合わせていたら鋭いツッコミを頂いた。



 その後あまりよくない顔をしたリアさんが宿で休んでてというので、大人しく移動してきた。

 非常に疲れたためすぐにでも眠れそうだったが、また変な時間に起きてしまうということで話しをしていた。


「リアさん遅いね」


 窓から差す夕日はもうすぐ日暮れであることを表し、この街への到着が昼過ぎだったことを考えると結構長い。


「なー、何してるんだろうな」


 下に降りて夕飯を下に食べに行くか悩み始めたころ、窓の外から悲鳴が聞こえた。

 二人も気が付いたようで急いで窓へ向かう。


 下には路地が見えて、通りのほうから走ってくる男性が見えた。

 体をあちらこちらにぶつけているから相当な焦りようである。


 走る男性のそのすぐ後ろを武装した衛兵らしき人が追いかけている。

 男性の手には何かを握られていることから盗みを働いたのかもしれない。


「盗人...か?」

「たぶんそう...だと思うけど」


 どちらが悪者なのかもわからず、どのみち二階にいる私達では何もできずすぐ見失ってしまった。


「この街って治安良くないのかな」


 確かに、夕方とはいえ日が出ているうちから犯罪が起きている。

 そう考えると治安が悪い。

 他の街はカノールしか知らないからなんとも言えないけど。


「でも衛兵が追いかけてたってことはちゃんと警察みたいな役目は果たしているんじゃいないか?」


 明の言う通り、犯罪は起きているがその対応はできている。

 治安維持は機能していると考えられる。


 いつまでも窓の外を見ていてもしょうがない。


 腹の虫もなりだしたので下の食堂へと向かう。

 ここの食事は宿代に含まれているようで、私達が来たのに気が付くと食事が運ばれてきた。


 食事は若い店員さんが運び、作っているのはいかにも人柄のよさそうなおばちゃんのようだ。

 お決まりみたいなものなのだろうか。それともそうなる事情があるのだろうか。


 それよりも食事である。


 パンと野菜のスープに小さな鳥を丸々焼いたもの。

 もしかしなくてもこの時代にこの食事は贅沢なのではないだろうか。


「おいしそーう、いただきまーす」


 考える私を他所に沙織は早速食べ始めた。私と明も続いて食べ始める。

 出来立ての食事はとても....暖かい。

 これだけでも自分が今生きていると実感できる程だ。


 元の世界の生活がどれだけ恵まれていたものかがよくわかる。

 満足に風呂に入れない生活が当たり前の時代とか経験したくなかった。


「なあ、そういえばなんだけどさ」

「ん?」


 食事の手を止める明。

 その顔はどこか浮かない表情だ。


「さっきの人...ちゃんと飯食ってるのかなって」


 明はまださっきの盗人(仮)が気になるようだ。


「どうだろ...あんまりいい服装じゃなかったし、もしかしたらそのために盗みをしたのかもね」


「だよな...」


「んぐ..何か気になることでもあるの?」


 沙織が食事の手は緩めず質問する。


「いやさ、うまく言葉にできないんだけどさ...盗みをするのは悪い事だろ?」


「うん」「そうだね」


「となると追いかけてた衛兵はただしい、つまりいい人ってことだよな?」

「その導き方は良くないけど、さっきの場面でいうならそうだと思う」


 悪い人を追いかけているのが正義とは限らない。

 正義を攻めているのが悪い人とも限らない。


 けどさっき見た光景では少なくとも追われているほうが悪いことをしたように見えて、それを追いかける衛兵が正義に見えた。


「あの人がもしかしたら貧乏でさ、どうにもならなくて腹が減ったから仕方なくとか」

「そういう事情はあるかもだけど、捕まるのは仕方ないんじゃない?」


 きっと何かしらはあったのだろう、それこそベンヌが話をしていたように家や職を失ったとかそういう暗い事情が。

 だがその事情を組んだとしても犯罪を見逃してよいことにはならないのだろう。

 カノール街道と違い、ここはきちんと治安が働いているのだ。


「そこはいいんだ、けどそこで捕まえても何も解決にならない気がしてさ...もっと根本的な所を探さなきゃいけない。そうしないといつまでも続く」


 明は元凶となる問題の解決をしたいようだ。


「言いたいことはわかったけどどうするの?」

「さっきのような人に一度話を聞いてみたい」


 差し当たっては情報収集と。

 確かに私達にできることは少ないけど、何も無いわけではないはず。

 この世界をより良いものにするために行動したい明。それはとても立派だと思う。


「二人とも、協力してくれないか」

「もちろん」

「うん、後でリアさんに話してみよう」






 





 リアさんが帰ってきたのは朝だった。


 朝帰りだということで何をしていたのかと思ったが、色々大変だったらしい。

 先遣隊がやってこないことを警戒して偵察を送っていたらしく、その偵察すら帰ってこないということで本格的に軍隊を向けようとしていたらしい。

 街道に突入する準備段階で私達が到着したことで何があったのかの報告と、私達が戦闘した場所の整備・確認のために駆り出されていたとか。

 早馬に監視されつつも大急ぎで片づけてきたそうで、戻ってきたのが日の昇り始め。

 そこから町長に報告を行ってようやく解放されたようだ。


 疲れた様子のリアさんは昼まで寝るといって部屋に引きこもってしまった。

 お小遣いとして町長からふんだくったという報酬の一部をもらい、午前中ではあるが自由時間を得た。

 街の外にでないという条件付きだが、出る予定もないので問題ないだろう。


「明、どこから回る?」


 朝食は既に済ませたので存分に動き回れる。


「そうだな、昨日の路地裏にでも行ってみるか」

「わかった」


 路地裏というと危ない人たちがいるのではと少し怖いが、深入りしないのと肉体強化をして対策することにした。


 早速宿の裏手に回ってみる。

 まだ通りから見える範囲。特に人がいるわけでもなく、強いて言うなら汚いくらいだ。


 あまり下水が発達していないのか汚物の臭いが割りとどこかしこでも漂っている。

 流石に通りは綺麗にされているのでマシなのだが、こういった所は長居したくないくらいに臭う。


「誰もいないな」


 目的の人は見つけられない。昨日の人は捕まったのだろうか。

 また別の路地をのぞく、ヤバそうな見た目の人がいたので見なかったことにして次の場所に行く。


 そうして20分程度回るも見つからない。


「いないねえ」

「通りに近すぎるのかな」


 街の中央に近いここでは衛兵さんがうろついているので、浮浪者は近寄りがたいのだろうか。

 昨日この辺りに来ていたのが例外かもしれない。


「もっと外壁寄りに行ってみる? ちょっと危ないかもだけど」

「あまり危険すぎるところは嫌だよ?」

「沙織殿に同意じゃ、こういう大きな町では端に行くほど治安の目が届きにくくなる」


 沙織とベンヌに反対されては仕方がない、あくまで通りに近い所に限定して捜索を続けていく。

 はたから見れば私達のほうが不審者だなと思っていると、路地の奥でうめき声が聞こえた。


 三人で顔を見合わせ、警戒しつつ向かうと一人の男性が倒れていた。

 服装から昨日の男であるのがわかる。


 昨日との違いは明らかに暴行の跡がある事だった。


「おっさん、大丈夫か?」


「□□...?」


 痛みに悶えつつも明を見上げる男性。


「□...□......」

「なあベンヌなんていってるんだ?」

「腹が減っているようじゃ、それとかなり傷が酷く見える」

「早く治療しないと」


 傷を治そうとする沙織だが、ベンヌはそれを首を振って制止する。


「衰弱が酷い、慣れてない者に魔法による治療は心身に負担がかかるのじゃ。食事を摂らせてから最低限の治療をするほうが良いだろう」


 男性はやせており確かに生気が薄く感じられる。

 まともな食事はしていないのだろう。


「そうか、なら先になにか買ってくるか」

「消化に良いものにすべきかな、スープとか売ってたっけ」

「それならさっき見たよ! おいしそうだった」


 飲食店に関する観察力と記憶力は抜群な沙織がどうやら見つけていたようだ。

 一度男性は放置して買ってくる、赤い芽キャベツみたいな野菜をメインにしたスープらしい。

 器も含んだ料金を支払い男性のもとに戻る。


「ほらおっさん、飲んでくれ」


 スープを男性の前に置く明。

 若干目がうつろだった男性は一瞬見開いた後、ゆっくりと起き上がり私達を見た。


 明が手で食えと促すと、男性は急いで食べ始めた。

 一心不乱にかきこむ男性の目には涙さえ浮かんでいる。


 しばらく眺め、食べ終わった男性が空になった器を渡して頭を下げる。


「□□□□、□□□」


 顔のあざはそのままだが、顔色は幾分か良くなっている。


「感謝しておるようじゃ」

「それは何より、じゃあ話を聞いてみようか」

「だね、頼むよベンヌ」

「心得た」



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