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私達の冒険譚  作者: 喜求
14/20

14話:再び闇へ

 


「さあ、準備はいい?」


「もちろんです」


 私達は再び、闇へと歩き出す。




 頼れるのはリアさん、ベンヌ、自分たちだけ。

 その中でも衣食住はリアさんに依存するしかない現状。私達に取れる選択肢は実質一つだけ。


 またしばらくお日様とはお別れだ。ここからは街道を抜けた先にある街まで寄り道はない。

 次盗賊と出会ってもリアさんは助けないと言っていた。

 この里の許容を越えてしまうからだそうだ。


 治安を維持しながら里を拡大するにはしばらくまとまった新規の人間は入れられないらしい。

 襲ってくる盗賊は倒し、そのまま突っ切るとのこと。


 非戦闘員は無視するというが、男手のなくなった盗賊集団がどうなるのかなんて想像に難くない。


 全ては救えない。




 力ない私には、何もできない。











 入り組んだ足場の悪い横道は歩くのに苦労するが、たっぷり休息したおかげか里に向かってた時よりは随分と楽だった。

 街道に出てからはただただまっすぐに歩く。街道に出た瞬間はどちらが行くべき道かわからなったが、リアさんは迷うことなく進み始めた。

 それだけ歩き慣れているのだろう。私だったらカノールの街に戻っていたかもしれない。


 馬車とかであればその向きで判断するのだろう。馬もなく数人かつ徒歩だけでここを踏破するのは少数派であろう。



 今のところ盗賊以外で人を見かけていないが、休憩地点とかないのだろうか。

 これだけ長いのだから人の集まる場所があってもいいのに。


 そう思い暇つぶしもかねてリアさんに聞いてみたが。


「中継地点を作ろうって話も上がったんだけどね、その為の工事をしようとしてこの前の落盤事故が起きちゃったから」



 とのことだった。


 しばらく街道そのものが使えなかった規模なのだから、相当大きな事故だったのだろう。

 それらしい場所はなかったが建設はこっち側では無かったのか、それとも邪魔であるということで適当な横道にでも片づけられたか。


 どうであれ工事計画はきっと延期されるのだろう。快適な街道はまだ先になりそうだ。

 場所が場所なだけに盗賊におびえながら建設することになるのも課題にありそうだ。




 どうでもよい思考をすることで時間を潰す。


 体力に余裕のあるうちは雑談なりなんなりできるのだが、疲れが出始めると自然と口数が減る。

 景色を楽しめるわけでもない、休憩に入っても無言であることが増えた。


 娯楽になりそうなものもなく、何かあったとしても盗賊の襲撃というまったく楽しめないもの。

 それもリアさんがあっさり終わらせてしまうのでハラハラすることも無い。


 時間と距離の感覚がおかしくなりそうだ。

 盗賊はよくこんな闇の中で生活ができるものだ。



 こうして歩き、考え、休み、また歩く。


 足が棒になりそうなほど歩いて、そろそろ就寝の為に街道の横で荷物を下す。


 ベンヌが居なければ今頃筋肉痛で一歩も歩けなくなっていただろう。

 しかし疲労までは消してくれなかったので、毛布を羽織ればすぐにまぶたが重くなる。

 どうにも疲労は無視できるようになるだけで失くせはしないらしく、限界を無意識に越えてしまうのは危険なため非常時でもない限りやらないようにとリアさんから言われた。

 筋肉痛は別に直してもいいらしい。


「今はどのあたりなんですか?」


 夕飯の残りを平らげた沙織が片づけながら質問している。


「もうすぐ半分かな、ただちょっと不安なことがあるんだよね」

「不安?」


 順調に思えた旅路だったが、リアさんは懸念がある様子。


「向こうも先遣隊を出しているはずなのに今のところ通った形跡がない、最近できた足跡はカノールから出発したものだけ。里に行っている間にとっくに通り過ぎていないとおかしいのに」

「襲われたってことですか?」


 確かに、一部の砂状の地面を見れば足跡はカノールからのものだけで、車輪の跡の数も出発時と一致しそうだ。


「その可能性が高いね。先遣隊は襲わないのが暗黙の了解だけどそれだけ切羽詰まっていたのか、それともそれを知らない新参者がやってきたのか」


 盗賊の集団同士で連絡を取り合っているとは思えない。新参にはそういったルールを知らない者もいるだろう。

 けど、先遣隊はかなり強い集団であるはずだ。こっち側の先遣隊は少なくとも屈強な男たちと頑丈そうな装備で構成されていた。

 新参者に勝てるような人たちには思えなかった。


 そんな人たちを襲うと被害も大きそうだが、そのリスクを承知で襲ったかそれとも相当強いのか。


「不穏ですね」

「うん、万全は期すつもりだけど何が起こるのかはわからない。注意してね」


 そろそろ意識が限界だ。



「もし何かあったら、私は......を.........ます」



 それ以降も何か話していたようだが、眠気のせいでほとんど聞き取れなかった。












 もう日光を見なくなってどれだけ立っただろうか。

 松明の灯りに慣れすぎてしまって、もうお日様をみたら目が焼けるんじゃなかろうか。

 里に出た時も目がくらんだし、あれより長い時間暗闇にいたから慣れるのに時間がかかるだろう。


 ずっと松明係を担当してきた明はもう肌がカサカサだと嘆いていた。

 あれだけ火に当たり続けたらそうなるだろう。哀れに思うが自分の肌のためにも交代する気は無い。


 リアさん曰くもう残り半日の距離らしいが、これまで盗賊は出てきても向こう側からの馬車は来なかった。


 もう第二陣も出発しているはずなのに。


 ただ一つ発見できたのはカノールからの先遣隊が戦闘をしたであろう痕跡だけだった。

 荷馬車の布の一部や木片が転がっていたが、撃退できたのか車輪の跡はちゃんと先へ進んでいた。


 血痕もいくらかあったが死体は無かった。


 不穏な気配が増してくる。

 より一層の緊張感が体を包む。


 この先は一体どうなっているのか。


 リアさんの顔も心なしか緊張しているように見える。



 戦闘の後から数十分歩いたところで、急に胸騒ぎがしだした。

 同時にリアさんが杖を構えなおす。


「ベンヌ、沙織、二人に暗視魔法をかけてあげて。明、それは捨てていいよ」


 短く指示を出すリアさん。その声は今までのものよりずっと覇気がこもっている。

 すぐさま動きだす二人。


「何か見えたんですか?」

「うん...魔法が使われた。少なくとも魔法使いか術師のどちらかがいる」


 魔法。先ほどの胸騒ぎはそれだったようだ。

 ベンヌの暗視魔法が展開されるも、視界には何も映らない。

 なにか音が聞こえるわけでもない。


 それでも何か、嫌なものをこの先に感じる。



 さらに道を歩くこと数分。今度は街道の奥から軽い振動が来た。


 そして、人の叫び声のようなもの


「リアさん」


 確認のためにリアさんに声をかける。

 リアさんはこちらを向き、頷いた。


「人が襲われてる」


 駆け足で声のもとに向かう。


 何かが倒れるような音、落石のようなガラガラとした音もする。



 たどり着いたそこには、凄惨な光景が広がっていた。

 倒れ荷が崩れてしまった馬車。

 馬車に巻き込まれ倒れ、もがき暴れる馬。


 床に落ちて火が消えかかっている松明。

 夥しい量の血。隆起した地面。




 そして、絶命した護衛。



 馬車の人たち、カノール先遣隊の人たちは全滅していた。


 そこに立っていたのは二人だった。

 金髪の少女と大柄で屈強な男。


 特に嫌な感じがするのは、少女の方だった。


 大男がこちらに振り向く。その目に光はなく、ただただ無機質な目がこちらに向けられていた。


 あの量の護衛をたった二人で倒したというのか。

 リアさんのような魔法でも使ったのだろうか。



「これは、同格かの」


 ベンヌが少女の方を見てつぶやく。

 何か気が付いたようだ、同格ということは大精霊クラスということだろうか。


「そうだろうね、よりにもよって大悪魔の方。それも戦闘特化」


 悪魔。精霊の次は悪魔か。邪悪なオーラは悪魔のものなのだろう。禍々しいオーラを放っている。



 少女と目が合った。



 瞬間、目の前の景色が爆ぜた。


「いきなりご挨拶ね」


 何が起きたのかはわからない。ただひとつわかるのは、私は今攻撃されてそれをリアさんに守られたということ。


「□□□....□□」

「ッ! □□□!」


 少女が何かをつぶやき、大男が驚く。

 リアさんは何も言わないが目を見開いている。



 次の瞬間、少女から闇が解き放たれた。

 風圧すら持ったその闇は先ほどの禍々しいオーラがかわいく見えるほどだ。



「いくら何でも決断が早すぎるでしょ!」


 リアさんが叫びながら杖を前面に突きだ...そうとして慌てて後ろに向けた。

 私達とリアさんを分断するように巨大な壁が展開され、向こう側で大量に何かが爆ぜる。

 飛散したそれをよく見るとそれは岩の破片のようだ。先ほど私に打ち込まれたのと同じであろう、石の弾丸だった。


 街道の端から端まで埋めるように展開されてしまった障壁は物理的に遮断されており合流はできそうにない。

 合流しても今の私達では足手まといにしかならないので、戦闘に専念するために張ったのだろう。


 ただ見ていることしかできないと判断し、少女の行動に驚いていた大男の方はどうしたのかと確認しようとして、元居た場所に居ないことに気が付く。


 どこに行ったのかを探そうとしたその時


 何かにドンッと体を押された。

 いきなりの衝撃に倒れ、顔を上げると。




 私をかばった沙織と、沙織の左腕に大ぶりのナイフを突き刺している大男が映った。


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