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私達の冒険譚  作者: 喜求
13/20

13話:覚悟

 


『...そっか』



『わかった。君達の思いは理解したよ』



『教える内容も決まった。やる気の確認もできた。本格的に修行の準備をしようか』



『二人の覚悟は昼間のうちに聞いちゃったし』



『気になるなら本人に聞いてね』



『じゃあ、おやすみ』







 朝だ。


 二度寝にしては随分と寝てしまった、すでに日が昇ってる。

 明はもう起きているようで居なかったが沙織はまだ寝ていた。


 起こすのも悪い気がしたのでそっとしておこう。



「おはよう美花」


 外に出れば、薪割りをしている明がいた。


「さっきリアさんが来てお昼食べたら話があるからここにいてってさ」

「ん、わかった」


 疲れてるだろうに、よく働けるなあ。

 私あの後ずっと寝ててもまだ疲れ抜けきってないのに。


「明、昨日あの後何かあった?」


「んー、避難民たちの寝る所を手伝って...飯食って寝たくらいだな」


 そういえばあっちの人たちの寝床もあったのか、ロクに手伝うこともなく寝てたな私。


「ごめん、昨日すぐ寝ちゃって」

「いいんじゃない? ほとんど里の人たちがやってたし俺もちょっと荷物を運んだだけだから」


 迷いなく手伝いにいけるその精神は彼の良い所だと思う。



「私も何かしたいんだけど」


 せめて昨日動かなかった分貢献したい。


「俺もそう思って頼んだんだけど言葉が通じないから難しいって言われた」

「たしかに」


 言語の壁は厚い...。


「いちいちリアさんに指示を聞くのもアレだからってんで任されたのがコレってわけ」

「なるほどね」


 確かにこれならある分をこなすだけだから連携もいらないか。

 それでいて必要な仕事でもあると。


「じゃそれ手伝う。私にもやらせて」

「おっけ、じゃあ交代でやるか」


 授業でやったきりだけどできるかな。

 明から受け取った斧を構える。


 重い。



「えーっと、こうだっけ」

「そうそう」


 確か足を開いて腰と一緒に下すんだったよね。


「すぅ......えいっ」


 ゴンッ...という鈍い音がして、斧が食い込んだ。


「いい感じじゃん」


 後はこれを繰り返していけば真っ二つにできるはずだ。



 コン



 ゴン



 カコン



 しばらく無言で薪を割っていく。


「そういえばさ」


 キリのいいタイミングで、薪の整理をしていた明に声をかける。


「昨日...じゃない今朝か、起きちゃって少しリアさんと話をしたんだよね」

「うん」


 薪の山を見ると既に明が結構な数をやっていたようで小山ができていた。


「なんで魔法を教わりたいんだって聞かれてさ、悩んだんだよね」

「え、そこ迷う?」


 素早いツッコミ、まあ明は私の魔法好き知ってるもんね。


「確かに憧れだったしさ、夢でもあったけどね。今の一番の理由かなって」

「なんて答えたんだ?」


 ...。


 ......。


「秘密」

「おい」


 答えようと思ったが急に恥ずかしくなってきたのでやめた。

 ええい、明がリアさんに聞かれた覚悟についてさりげなく聞き出そうとしたのに墓穴掘った。


 誘導下手か私。


「...まあでも教えてはもらえるんだろ? とりあえずよかったじゃん」

「ほんとに、先に言葉を学ぶべきだと思うんだけどね」

「確かにな。沙織しか喋れないというのはなあ」


 現状私と明は現地人と直接のコミュニケーションを取れないのだ。



「おはよう...」


 噂をすれば眠そうに瞼をこする沙織が出てきた。

 続いて出てきたベンヌも眠そうにしている。


 そういえばベンヌは今朝寝てたな、あまり寝ないでいいって言ってたけど不眠不休で動けるわけではないらしい。

 ちゃんと寝顔見ておけば良かったかな。


「おはよう、よく眠れた?」

「まあそこそこ...お腹空いた...」


 お腹を抑えて脱力する沙織。燃料切れのようだ。

 かくいう私もお腹が空いた。昨日の夕飯食べてないし。


 時間的には昼前くらいか。



「お、皆起きてるね。じゃあお昼にしちゃおっか」


 そしてこれまたタイミングのいいことに、なにやら色々抱えたリアさんがやってきた。

 いい匂いがするそれはどうやらお昼ごはんのようだ。


「ごはん!」

「はいじゃあまず顔洗っておいで」


 一目散にとびかかった沙織がさらりと躱される。




 とにかく、ご飯食べるか。










「まずは体を動かすことに慣れてもらいます」


 そう話が切り出されたのは食事がひと段落したころだった。

 沙織だけは未だ両手にパンを持っている。


「ふぉういうふぉとれふ」

「食べながらしゃべらないの」


 お行儀の悪い沙織を窘めつつ、目線でリアさんに続きを促す。


「並行して言葉の習得もしてもらうけどね、これからしばらくは歩き詰めだから先にそのあたりを叩きこんでおきたいのと。それと私が居ないときでも自分の身を自分で守れるようにね」


 どうやら護身を優先するらしい、盗賊に襲われるような経験はしたくないが、もしそうなった時に何もできないのは勘弁だ。

 生兵法は怪我のもとというが、何もできなければ何もかもを奪われる。


 そのことを考えればまず先に自衛手段は覚えておきたい。

 リアさんが守ってくれるといっても、常に一緒なわけじゃない。

 私達三人がそれぞれ違う行動をすればリアさんは誰か一人しか守れないだろう。


 せめて時間が稼げるだけの力は持つべきである。


「はいせんせー」

「なんでしょう明君」


 明は生徒役が板についてきたのか、すっかり教師と生徒みたいなノリが定着している。


「俺たちはどこを目指しているのでしょうか」

「そうだね、それも話しておこうか」


 私達の旅の目的、とりあえずは街道先の街を目指している感じだったがどこまで行くのかは聞いていない。

 それに歩き詰めになると言っていたのでかなりの距離を行くことが考えられる。


「前にも言ったけど、貴方達には強くなってもらう。そのための修行の場所としてこの山脈のかなり南に位置する私の小屋に向かいます」

「こことかじゃダメなんですか?」


 ここではできない理由があるのだろうか。


「ここだと里の人たちの邪魔になっちゃうからね、それとその近くにある国で学んでほしいことがあるから」

「学んでほしいこと?」


「そこは本の国サルビア、この世界の知識という知識が貯めれらている国家なの。この世界の言語、歴史、魔術、魔法。生きていくうえで必要な知識はそこで身に着けてもらうよ」


 また学生になるのか。ん? というかそれって...。


「というか、そもそも俺たちは元の世界に戻れないんですか?」


「...」


 明の問いに無言で返すリアさん。肯定ということだろうか。


「あまりこういう役はやりたいものじゃないんだけど...そうなるね。私の知っている限り貴方達を元の場所に戻すのは不可能だよ」


 固まる皆。



 もう、戻ることはできないのか。

 なんとなく、そんな気持ちでいた。

 きっと家族にはもう会えないだろうと。

 けれども、それをはっきりと人の口から言われると衝撃の強いものがある。


 現に他の二人も黙っている。少なからず戻れないことは考えていたようだ。


「ほんとうに嫌な役ね......けど、私がちゃんと面倒は見る。そこは誓わせてもらうよ」


「...はい、お願いします」


 さっきまでご飯を食べて上機嫌だった沙織が少し気落ちした声を発する。


「せめて貴方達に真実が伝わるように、私は師匠に掛け合ってくるよ」


 これまでの話を聞く限り巻き込まれた側であろうリアさんが、私達のために尽くそうとしてくれている。

 少なくとも、私達には味方がいる。




 その事実だけが、唯一の救いであった。




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